紫陽花。

 紫陽花が咲いている。とても綺麗だ。やはり雨が降る、曇り、どんよりした日に見るべきだ。こんな暗い日には、炭酸でも飲んでぱーっとしたいところだが、紫陽花がその役割を担ってくれるおかげで、苦いコーヒーを飲んでいられる。苦いが、美味い。
 近くまで寄ってみた。うむ、良い。個人的には特に蒼いものが好きだ。水色のものでも良い。雨に似合う。
 そういえば紫陽花には毒がある…なんて話を聞いたことがある。いや、違う。他の植物と混合してしまってるのかもしれない。でも、あの色合いを見るに、正しいように感じられなくもない。そう考えると、一瞬目を塞ぎたくなった。でも、僕は傘を持ってるのだった。目に入る心配はない。
 もともと今日は日は出てきないのだが、ここらは周りに比べより一層暗い。だからこそ、紫陽花の花の明るい色に、より惹かれる。惹かれる。惹かれる。
 小さな子たちが、背後を走っていった。はっとした。子供達は、事故防止のための黄色いカバーで覆われたランドセルを背負って去ってゆく。事故防止、か。
 再度紫陽花を見ようとした。その瞬間、暴風が吹き荒れた。子供達が悲鳴をあげる。傘が吹き飛ばされる。髪が暴風によってバサバサと動いて、痛い。目をぎゅっと閉じて、顔を腕で隠して耐えた。
 風は止んだ。そうだ、紫陽花。どうなったのだろう、と思い、また紫陽花を見た。見上げた。
 その、紫陽花は。もはや太陽を完全に隠してしまっている、あの巨大な紫陽花は。風に吹かれて、花びらは散り、茎は折れ、紫色の汁を垂らした。ああかわいそうに。と思った。
 あ、傘。傘、飛ばされちゃったんだった。あれ、紫陽花って、毒があるんだっけ。毒っ…。

 私の目は潰れた。
 
 
 

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