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赤とんぼ荘

私の住んでいる地域では、ゴミ収集車から「赤とんぼ」が流れる。いつもなんとなく聴いているのだけれどその日は「そういえば赤とんぼ荘てあったよなぁ」と、このかわいい名前の宿舎の事を急に思い出した。小学生の時の記憶。大部屋にみんなで泊まった時の雰囲気や、エントランスより下の階に部屋があることに驚いたこととか、何年も前なのであやふやだがなんとなく覚えている。思い出すと行きたくなるもので、調べてみたら現在は宿泊業務は休止中と書いてあった。

初めてそこを訪れたのは、小学生時代に所属していたサッカーチームで毎年夏になるとチームの4,5,6年生で行われる合宿の時である。私には二つ上の兄がいて、同じサッカーチームにいたので兄の付き添いで小学2年生の時に同学年の子達よりも一足早くこの合宿に参加していた。確か夏の合宿以外でも泊まりがけの大会の際に行った気もするが、少なくとも小学校2年から6年まで毎年夏に訪れていたことになる。近くの河川敷で2日か3日間くらいにかけてサッカーの大会が行われる。試合が終わるとくたくたになりながら赤とんぼ荘に送迎され、みんなでお風呂に入り、汚れたユニフォームを洗い、おいしいご飯を食べ、そして大部屋でミーティングを行ったりした。普段だと一緒にいることのない時間帯に友達と過ごすのはなんだかとても特別でワクワクしたが、日中の試合で疲れきっているので夜はみんなすぐに爆睡したのだった。翌朝少し早起きして宿近くの山道を散歩するのだが、その散歩コースに動物園というほど大層なものではないがそこそこがっつり檻や柵の中に動物がいて、それをみんなで見たりした。夏の日差しがキツすぎる日中の試合のことや残りの夏休みの宿題のことなどをぼんやりと考えながら、少しひんやりした朝の空気の中を寝ぼけ眼で歩くのはとても好きだった。この頃は、特にこの朝の散歩の時は、時間は無限にあるような気がしてならなかったなぁとこの文章を書きながら思い出した。

今は宿泊は休止中ということで、もう二度と泊まれないのかもしれないということ、また少しでもあの頃を感じたいという気持ちで、もう一度あの赤とんぼ荘に泊まりたくて仕方なくなった。
けれど大人になった今、かつてのような純粋な感性は当然なく、また無駄に上がった解像度のせいでがっかりすることもなくはないので、美化された思い出のままこうやってつらつらと書き綴る方が実は幸せなのかもしれないと思うことにした。

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