幸せな夜-門限22時のシングルマザー
彼と「一緒に飲もう」という計画が立ち上がった。
でも、夜、家を空けることで、娘を寂しがらせたくはない。
だから聞いてみた。
「夜、ママがいないと寂しい?」
「そりゃあね。」
娘が答える。
まだ小学生なのだ。
たとえ、きょうだいが家にいたとて、夜、母親が家にいないのは寂しいだろう。
当然だ。
私は恋人と別れて独り身になって。
改めて。
家族の大切さを身に染みて感じた。
かわいい子どもたち。
それ以上の存在なんて、あるわけがない。
それなのに…。
恋に夢中になりすぎていたな。
少し前の私を振り返る。
恋に夢中になる自分も、いてもいい。
それでも。
やっぱり夢中になりすぎていた。
娘にとっては、たった一人の親なのだ。
他の誰とも結べない絆がある。
その絆を一番大切にして、生きたい。
彼にも、その話をした。
「もう、前みたいに頻繁には会えない。私は、家族を最優先にして暮らしていきたい。もしも、それをあなたが寂しく思うのであれば、無理をしてまで一緒にいなくてもいいよ。」
彼は答えた。
「僕はね。さくらを失うぐらいだったら、何でも出来る。たとえ1ヶ月に一度しか会えなくったって、僕は、さくらから離れたりはしない。その、月に一度の時間を楽しみに生きていけるって思うよ。」
以前は休日が合うたびに一緒にいられるよう、無理にでも予定を入れたがっていた彼が、そんなことを言うなんて…。
「家族だけじゃない。他の予定だって、あるのが当たり前だよね。僕はずっと、さくらを縛りすぎていた。さくらと離れている間に、その事に気がつけたんだ。さくらが他の人と会ったっていい。」
えええ??
「さくらは、ふらふらどこかに行くような人間じゃない。さくらを一年みてきた。その言葉と行動で、僕は女性を信じられるようになった。
さくらみたいな、ちゃんとした女性がいるって、ようやくわかったんだ」
ほー…。
「だから大丈夫。娘さんが寂しいなら、僕はさくらと会えなくても。」
そして。
その言葉を思い出して、娘に言った。
「寂しいなら、出掛けるのはやめて家にいるね。」
すると、少し考えていた娘が言った。
「遅くならなければ大丈夫。寂しくない。私が寝る前に帰ってきてくれるなら出掛けていいよ。」
いいの?
「うん!でも、そうだな。今日は少し早く寝たいから10時までには帰ってきてね?」
こうして。
51歳シングルマザーには門限が設定された。
…。
22時って!
シンデレラよりも2時間も早いわ!笑
「出掛けてくるねー」
と声をかけると、あーちゃんがこう言ってくれた。
「ゆっくりしてきて大丈夫だよー」
私「でも私、実は門限が…。笑」
あ「え?オトナなのに??」
私「いや娘が寂しいって言うから寝る前に帰ってくる約束したの」
あ「そっか!なるほどー」
私「箱入り婆ちゃんだからさ!笑」
あ「さくらさんは、お婆ちゃんには、まだ早いよー。笑。でも、そうやって子ども優先なのは安心する!」
待ち合わせ場所で彼に伝える。
「門限があって22時までには帰らないと。」
門限??と驚いていた彼だが説明をすると納得してくれた。
そして22時帰宅に間に合うようにタイマーをかけてくれた。
「僕との時間よりも、子どもとの約束の方が大切。その信頼関係は、さくらにとって、この世で一番大切なものだからね。送るよ。帰ろう。」
そうして夜道を手を繋いで歩いて。
さようならのキスをして。
門限に間に合うように玄関をくぐり、娘とハグをして。
いま、ぬくぬくのお布団の中。
隣には寝息をたてる娘。
良い夜…。
みんなが大切にし合えるって幸せだ。
ありがとう。
おやすみなさい。