心理学ガール #19

表と裏

 僕は心理学部の大学4年生。ここは学生会館2階のいつもの席。今日も僕はハルちゃんと催眠について話をしている。

ハル「先輩……ちょっと話しづらいことなんですけど……SNSで催眠について調べてたら、催眠をしている最中のトランス状態ってのが、なんか、ちょっと気持ちいいみたいな話があって、それも、ちょっとエッチな意味でも気持ちいいとか……これって本当ですか?」

僕「おっ、ハルちゃんはそういうことにも興味があるんだね」

ハル「違いますよ! 学問的興味です。催眠状態はないはずなのに、トランス状態が気持ちいいって、どういうことだろうって疑問なんです!」

僕「わかった、わかった。催眠とは何ぞやという話によるんだけど、催眠が通常ではしないだろう行動を暗示のとおりにしてしまうという現象だとしたとき、その現象を起こすためには催眠状態は必要ないし、当然、催眠状態を引き起こすための催眠誘導も必要ないって話だったよね。ただ、一般的に行われている確眠は、催眠誘導というプロセスがある。そして、催眠誘導というプロセスは、多くの場合、リラックスや集中を促すものになっている」


ハル「前回、その催眠誘導には、催眠は自分が起こせるものだというメッセージが含まれているから、結果として、催眠を成功させていたかもしれないという話でしたよね」


僕「そのとおりなんだけど、催眠誘導が催眠を成功させる要素があるかもしれないってこととはまったく独立してというか、催眠の現象とは全く関係なく、催眠誘導は、いわゆる主観的な変性意識状態を引き起こす効果がある。そして、それは場合によっては気持ちよく感じるかもしれない」

ハル「催眠誘導は催眠現象と関係なく変性意識を引き起こすって、なんか、混乱してきます」

僕「変性意識状態という観点から考えた方がいいかもしれないね。前にも話したけど、主観的なものとしては、変性意識状態というものはある。そして、変性意識状態を引き起こす方法はいろいろあるし、感じる変性意識状態もいろいろなものがある。その中には、恍惚感というちょっとエッチな感じなものあるし、人によっては空間感覚の喪失や主観と客観の喪失や自己感覚の喪失みたいな変性意識に心地よさを感じる人もいるかもしれない。それら変性意識状態を引き起こす方法として催眠誘導が当てはまるんだと思う」

ハル「催眠の副産物みたいなものですか」

僕「むしろ、催眠現象が催眠誘導による変性意識の副産物なのかもしれないね。どっちが主か副かはわからない。いずれにせよ、催眠現象とは関係なしに、催眠誘導による主観的な変性意識状態というのがあって、それを楽しむ人がいるってことなんだろうね」

ハル「催眠は学問的なものにも、たくさんのものがありますね」

僕「そうだね。少し学間的に考えてみようか。なぜ、催眠誘導で変性意識状態を感じることができるのか。考え方の一つとして、催眠が行われる際、被催眠者が、催眠では変性意識状態やトランス状態になるだろうという知識を持っている場合や、持っていなくても催眠者からそういう説明を受ける場合がある。そして、催眠誘導は、目を閉じさせたり、イメージを活性化したり、リラックスを促したり、身体を揺らしたりと、主観的な変性意識状態で起きる類似の現象を促す。その結果、被催眠者が予期していた変性意識状態を体感できるという仕組みかもしれない。そして、これは、催眠で催眠現象が起きる仕組みと同じかもしれないということ。ややこしいね……」

ハル「催眠者も被催眠者も変性意識状態があると認識した上で、それが実現するための誘導がされると、実際に実現してしまうということですか? 催眠現象も同じで、催眠現象が起きると認識した上で、それが実現するための誘導がなされると現象が起きてしまう?」

僕「結局、催眠がどうして起きるのかは、また別の機会に話そうと思うけど、そういった考え方もあるということ。あとは、催眠を介しての人間関係自体がその人らにとってのメリットになっていて、それで求めているという視点もあるかもね」

ハル「どういうことですか?」

僕「催眠をやる側は、催眠という特別なことができる自分を求めてくれる人がいるというものから、催眠を受ける側は、催眠をする人から求められているというものから、催眠で感じる変性意識状態以上に、お互いに必要とされていると感じているもので、そのやり取りが雑持されているかもしれないなあって、何となく思っただけ。深い意味はないよ」

ハル「そうですか。今日はなんかディープな話をしてしまいました。ありがとうございました」

 ハルちゃんは出口に駆けていった。