心理学ガール #24

ハウツー

 僕は心理学部の大学4年生。ここは学生会館2階のいつもの席。今日も僕はハルちゃんと催眠について話をしている。

ハル「先輩。わたし学問的な催眠に興味が沸いているんですけど、どうやって勉強したらいいか教えてくれませんか?」

僕「そうだね。催眠は心理学の中ではマイナーにもかかわらず、ネットでは古かったり間違ったりしている情報が氾濫しているからね。どうやって勉強するかは大事になってくるね。僕が思うに初めはやっぱり書籍から入るのがいいと思う。ただ、書籍になっていればなんでもいい訳じゃなくて、学問的なバックグラウンドがある人が書いている、いわゆる専門書とか学術書と呼ばれる本を読むのがいいよ」

ハル「その本が専門書かどうかを判断するにはどうしたらいいですか?」

僕「一つは著者の経歴を確認すること。心理学の専門的教育を受けていて、学会と呼ばれる学術団体に所属し、学術論文を発表している人物であることが必要かな。ただ、催眠の情報で商売をしている人は、自分に権威を付けるために学会のような団体を作って所属しているように見せることがあるから注意しないと駄目だよ」

ハル「えー、そんなことがあるんですか」

僕「本当の意図はわからないけど、権威付けのためなのか、信用を得るためなのか、団体を作りがちな印象はあるね。なんとか学会とか紛らわしい名前を付けがちだし。その団体がきちんとした学会であるかどうかは、日本学術会議に登録されているかで判断するのがいいです。催眠の学会だと、現時点では、日本催眠医学心理学会と日本臨床催眠学会と日本催眠学会の三つだけです。そして、今読むべき専門者は、高石昇先生の『現代催眠原論』と田中新正先生の『催眠心理面接法』かな。あっ、そうだ。専門書かどうかの判断では出版社も大事だね。催眠関係だと、誠信書房や金剛出版から出ていたらだいたい問違いないと思っていいね」

ハル「覚えておきます」

僕「次にやるべきは、催眠に関する論文を読むことかな」

ハル「今までもいくつか紹介してもらいましたけど、論文はどうやって探すんですか?」

僕「インターネットの検索サイトで検索するというのもありだけど、日本語の論文については、専門の検索サービスがあるから、それを使うのがいいね。CiNiiというサイトです。ここで『催眠』というキーワード等で検索すると、催眠に関係する論文等が探せます。オンラインで読めるものも増えているから、興味のある論文を読んでみると勉強になるね。ただ、論文になっていれば必ず妥当かといわれればそうでもない。正直、あまり内容の良くない論文もある。だから、論文は内容を批判的に読んだ上で自分の知識としなくちゃだめだと思う」

ハル「わたしだったら、論文になっていたらすぐに信用してしまいそうですけど、実際は論文になっていても内容は色々なんですね」

僕「そうだね。論文というのは研究の結果が書かれたものだけど、その研究の前提となる考えや方法論を批判的に読まないといけないね。念のため、批判的ってのは、別に粗を見つけて悪口をいうということではないからね。研究を発展させるために、疑問や不備を指摘することで、前向きに捉えなくちゃいけないね」

ハル「論文の読み方っていうのも技術がいるんですね」

僕「そうだね。論文に限らず専門書もそうだね。催眠愛好家の中には、専門書を読んでいても都合のいいところだけを都合のいいように読んでいる人がいたりする。これだけの専門書を所有しています、読んでますみたいにアピールする人もいるけど、ただ読むだけじゃ足りないと思う。僕もそうだけど、論文とか研究を探すとき、ついつい自分が考えている理論とか仮説を証明するものを集めがちだけど、それはダメな勉強の仕方です。自分の仮説が否定されている研究とか反対の考え方を理解しないと、独りよがりになってしまう。証拠集めのための勉強だと、研究全体の意義とか目的とか流れを無視して、都合のいい部分だけを切り取ったりもしてしまいがちです。研究とは自分を律しないとできないから、安易に催眠を研究してますなんていえないよね」

ハル「研究って大変ですね……」

僕「最後は海外の情報を取り入れることかな。催眠研究に関していえば、日本より海外の方が多いと思う。なので、海外の催眠情報をインターネットから探して読むことが大事です。ただ、これも問題があって、海外の催眠サイトも古かったり、間違っている情報がたくさんです。催眠については、根拠がない自説が情報発信されるのは、日本に限らず海外も同じ状況みたいです。その上で、海外の催眠学会で発表されている論文を読むのが一番いいと思います。ここは具体的にいっておきましょう。米国臨床催眠学会が発行している『American Journal ofClinical Hypnosis』を読むのがいいよ。例えば、AJCHのサイト(https://www.tandfonline.com/journals/ujhy20)にアクセスして、ブラウザの翻訳機能を使いながら論文のタイトルを読む。その中でおもしろそうなものがあれば抄録を読む。その上で、全文読みたいと思ったら大学図館から接続すると読めるようになる。詳細は大学図館の職員に聞いてみて」

ハル「はい。けど、英語が読めるか不安です」

僕「最近の翻訳機能は精度が高いから、とりあえず、翻駅機能を利用して読めばいいよ。今、具体的にタブレット端末で抄録を読んでみようか。

「A Comparison of Hypnotic Induction, Task Motivation, and a “Cold Start” Control Group on Hypnotizability」(催眠反応性における催眠誘導グループ、課題動機づけグループ及び準備なしグループの比較)

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00029157.2016.1200960

参加者のグループ (N = 164) は 3 つの条件にランダムに割り当てられました。グループ 1 はトランス状態への誘導を受け、グループ 2 は課題の動機付けに関する指示を受け、グループ 3 の「コールド スタート」制御は単に「催眠を開始します」と言われました。すべての参加者は創造的想像力スケールの暗示を受け、その後、創造的想像力スケールと催眠の深さのスケールを完了しました。 3 つの条件は、創造的想像力スケールでも、報告された催眠の深さでも、大きな違いはありませんでした。これらの結果は、トランス誘導と課題動機付けが同様の結果をもたらすことを示した先行研究と一致していますが、トランス誘導グループと課題動機付けグループが対照グループと変わらなかったという点では矛盾しています。しかし、これらの結果は、催眠の状況自体が催眠行動を誘発する可能性があるという社会認知的観点から予測可能です。

どう? おもしろそうな内容じゃない?」

ハル「面白そうです。そして、こうやって学問的な催眠を勉強するんですね。よくわかりました」

僕「ぜひ幅広く勉強してみてね」

ハル「はい。頑張ります。ありがとうございました」

 ハルちゃんは出口に駆けていった。