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初恋ゴリラ

友だちと初めて付き合った人の話をすると、必ず思い出す人がいる。

近所に住む、ユウキくん。小学校の自治体が同じで、仲の良い同学年7人くらいでよく一緒に遊んでいた。放課後はみんなで白線歩きをしながら帰って、土日は誰かの家に集まってゲームをした。ユウキくんは何をしても器用で優しくて、顔はどちらかというとゴリラだった。だいたい、小学生の女の子というのは優しいゴリラに弱い。

私はユウキくんが好きだった。どういう好きだったか、なぜ好きになったかは覚えていない。ただ一つ覚えているのは、ユウキくんの自転車の後ろに乗って二人乗りしたい、と思っていた。みんなに人気のユウキくんを独り占めしたい、とも思っていた。すなわちそれは当時のストレートど真ん中の「好き」だった。

私とユウキくんが付き合ったのは小学5年生の夏。みんなで市民プールに行ったときだ。土曜日だった。今日告白しようと決めていた。みんなでボールで遊んだり、何秒もぐれるかゲームをしたりしていたけど、私はずっとユウキくんを目で追いかけてそのチャンスを図っていたから、遊んでる間の記憶はまったくない。でもなかなか二人きりになれる時間がなかった。こういうチャンスは、なぜか今も昔も帰り道にふと向こうからやってくる。どうやら両想いだったらしく、その日私たちははれてカップルになった。

次の日は日曜日だったから、自転車を二人乗りして近くのダイエーに行った。フードコートでクレープを食べて、ゲームコーナーでプリクラを撮って、図書館に寄って、また二人乗りで家まで帰った。

次の日学校に行くと、隣のクラスの優しくないゴリラが私のクラスに来た。そして私の顔を見るなり大きな声で「ユウキの彼女登場~~~!!!」と叫んだ。後ろには優しくないゴリラ一味がにやにやしながら控えていて、優しいゴリラのユウキくんは一番後ろではにかみながら他の男子に小突かれていた。

なにはにかんどんねん。ユウキくんは悪意があって言いふらしたわけではないと思うけど、私はそういう風にはやし立てられるのがとても恥ずかしかったし嫌だった。だからその日から私はユウキくんと話すことができなくなった。秒速の自然消滅だった。

ユウキくんとは中学も同じだったけど一度も話さずに卒業した。SNSが彼を「友だちかも」に出してくるけど、友だち申請はしていない。あのとき一緒に行ったダイエーは、数年前に大きなマンションに変わっていた。先日地元の友だちのSNSに写真が上がってきた。年相応のゴリラになっていて、安心した。

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