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小説「ポストマン」

海には海賊、山には山賊、そんな時代のどこかの国の昔々のお話。

この時代、手紙や荷物を遠方に届けるには「ポストマン」という者達に頼むというのが常識で。
何故かと言うとどこもかしこも悪い奴ばかり。山を歩けば山賊に襲われ、海に出れば海賊に襲われ、命がいくつあっても足りやしない。
そんな中、命知らず・・・いやいや世間が言うには馬鹿しかならないという「ポストマン」だけが手紙や荷物を届けられる者達なのである。

何故かって?
それは・・・。

「イカサマ!!貴様、又やったな!政府から苦情が来ているぞ!」
ポストマン達が住む、山の奥の奥にある村でマークの怒声が響く。ここはその村の局長の家、ポストマンのリーダーであるマークの部屋である。
マーク、歳は25歳という若者。メガネをかけ、髪はすっきりと短髪にしどこか優等生じみているが、ポストマン達を纏め上げる手腕は一目置かれ、ポストマンとしての能力も高い。
マークの前には両耳を手で押さえどこ吹く風という表情でそっぽを向いている男がいた。
「イカサマ、聞いているのか!」
もう一度怒鳴るマーク。
マークにイカサマと呼ばれた男は、彼より一つ年上の26歳。肩までの茶色がかった髪、ニコリと笑えば大抵の女性から好感を得られる中々の顔をしている。そしてマーク同様、ポストマンとしての能力が秀でている。
が、この男ほど曲者ぞろいのポストマンの中でも1,2を争うとんでもない奴なのである。
酒好き、博打好き、女好きに加え、イカサマが行く所ではいつも揉め事が起こりまくり、リーダーであるマークはいつも彼に頭を悩ませているのであった。
と、窓の方から笑い声が混じった男の声がする。
「マーク、こいつに幾ら言ったってムダだぜ。お前の説教が毎回過ぎてイカサマの耳にはタコが出来ちまっていて蓋になってらあ。」
イカサマの同僚のユンだった。彼もポストマンの中で若手の24歳とはいえ優秀な能力の持ち主であり、この三人の中では一番の常識人である。
そして、9歳年下の彼女持ちという・・・。
「そんなことを言ったって、こいつは!」
一瞬、ユンへ向いたマークの隙を見てそそくさと部屋から出て行ってしまったイカサマ・・・。
「あっ!こら!イカサマ、まだ話の続きがあるんだぞ!!戻れ!!!」
気がついた時には後の祭りである。残ったのはユンの笑い声。
「あっはっはっは!」
「ユン!笑うな、馬鹿!!」
そう言うと顔を真っ赤にさせ、乱暴に椅子に座るマーク。
その様子を楽しそうに見ながらユンは目の前の上司に話しかける。
「あいつ、又盗賊一味をメタメタにしたのはいいが、それと一緒にそこにいた娼婦どもをかっさらって家に帰したんだろう?!」
「ああ・・・娼婦といっても隠れ娼婦で国に囚われるべき者達をだ。盗賊に無理やりさらわれて心ならずも娼婦になった女達だが・・・。」
「そ、イカサマはいつもそうさ。へらへらしてるくせに、女や子供、弱い奴を見ると途端に情に走り過ぎる。」
そんなユンの言葉にかけていたメガネをおもむろに外しながらため息をつくマーク。
「親元や家族から引き離された子供や女を家まで戻したり、身寄りがいない子は里親を世話したり、才能があればここに連れて来てポストマンとして生きる道を作ってやる。女だって何人ここに連れて来たか。あいつはやる事が極端で、しかも抱え過ぎていかん。」
「でもあいつのその突拍子もない行動のお陰で優秀なポストマンは何人も育っているし、この村にはいい女がたくさんいて賑やかでいいじゃないか。」
そう言いながらユンは心の中でこう思い返していた。
あいつのお陰で俺も救われたんだからな・・・。
「お前はそれでいいかもしれないが、局長としての私はそうはいかないんだ。そこで話している暇があるんだったら荷物を届けて来い!仕事は山とあるんだ、逃げるのはイカサマだけで十分だ。」
またまたマークの怒りが湧き上がってきたようである。
「へいへい、行って来ますよ。」
自分にまで説教をたれられてはたまらないとばかりに肩をすくめながらユンもその場からそそくさと立ち去った。

マークの元から逃げ出したユン。
外に出ると先に逃げ出していたイカサマが木陰で寝そべっている。
「おい、呑気野郎!」
こつん、と頭に軽く足を当てる。
「いてっ、何だよ!」
片目をチラリと開けユンを見たイカサマ・・・と、その二人に駆け寄ってくる少年がいた。見た目、15,6歳の少年、キットだった。
「イカサマさん、ユンさん、俺、明日初めて荷物を届けることになりました!」
「おおっ、そうかっ!」
嬉しそうにがばっと起きるイカサマ。
キットは3年前、イカサマが仕事で訪れた村から連れて来た子供であった。今年で15歳になる。身寄りのないキットはあこぎな商家で奴隷のように扱われていたのを見かねてここに連れて来られたのだ。
あの時も確か商家の主をイカサマが随分ととっちめて、マークが後処理に困っていた。
いろいろとあったがキットは運動神経が良かったらしく、今回めでたくポストマンとして初仕事に臨むという。
「良かったなあ・・・、キット。」
ユンも嬉しそうに言う。
「おうよ、この俺、イカサマ様が連れて来た坊主だからな♪お前はな、これからは皆から受け取った大事な手紙や荷物を届けるポストマンだ。」
にっこりと笑ったかと思うと、突如真面目な顔つきをしてキットの顔を覗き込み言い続けるイカサマ。
「俺達ポストマンは世の中じゃちょっとした特殊な存在だ。口の悪い奴は自ら危険に飛び込む馬鹿な人間だと言いやがる。けれども俺達にはポストマンとしての力がある。でもな、いいかよく聞けよ、様々な危険がはびこる所にお前は行く事になるんだ。油断は絶対に禁物だ。ポストマンの失敗は即、死だぞ。」
「はいっ!」
イカサマの言葉に途端に緊張した面持ちになるキット。そんなキットに又表情を緩め優しく語り掛けウィンクするイカサマ。
「お前はこの一流のポストマン、イカサマ様が見込んでここに連れて来た坊主なんだ。これまで皆に教わった事、学んだ事を思い起こして頑張れ!」

そんなやり取りをした次の日、イカサマの言葉を胸に初仕事、初めて荷物を遠方の村に届けに行くキットであった。

キットが届けようとしている村の途中には何個もの山々が連なる。
そして類にもれず山賊がいる。
とぼとぼと歩いているとキットはその噂の山賊どもに会ったのである。
「ぼうや~、いい子だからおじちゃん達にその荷物を渡してくんないかな~?」
けけけっと笑いながら10人近い山賊達がキットを取り囲んだ。無言で睨みつけるキット。
「おんやぁ~、ぼうや、聞こえなかったのかな?」
「怖くて動けねぇんだろ。」
「かまわねぇ、取ってしまえっ!」
おもむろに一人の山賊がキットに手をかけようとする。
「やめろ!」
キットがパッと手をつかみ山賊は遠くへと飛ばされてしまう。
「こいつ、ポストマンか?!」
一見そこら辺にいる少年にしか見えないキットだったが、そのあっという間に大人の男を片手で投げ飛ばす様を見て、山賊は彼がポストマンだと気付く。
「気をつけろ、こいつポストマンだ。」
一同殺気だし始める。じりじりと対峙するキットと山賊達。
が、何か意味深な目の合図をし山賊達が先に仕掛けたのである。
「取られてたまるか!」
山賊達は手に持っている剣を交わし倒していくキット。
と、キットは気付かなかったが、戦う中で彼はとある大木まで追い詰められる。
「今だ!!!」
山賊の一人がキットに飛び掛る。キットはさっと交わし大木の下へと飛び逃げた。
と・・・。
「うわっ!?」
ふわっとキットは逆さまの状態で宙に舞った。何と、山賊達が仕掛けた罠にかかり、足には鎖が巻かれ大木に宙ぶらりんになってしまったのだ。
何とかほどうことするがほどけない。
「へっへっへっ、ぼうや、残念だったな。」
「さあて、悪い子はおしおきしないとな~。覚悟しろよ。」

キットはいつまで経っても村に帰る事はなかった・・・。

「山賊に襲われた少年がいる、と村では評判らしい。」
背中を向け、そうマークは言った。
ここはあのマークの家。目の前にはイカサマとユンが立っている。
「荷物を届ける村の一つ前の山に子供らしい人間が崖の木にぶらさげられている姿を村人の何人もが目撃したんだそうだ。荷物は未だに届いていない。その子供の格好を聞くと・・・。」
「キットなのか?!」
ユンの言葉に頷くマーク。
いつも饒舌なイカサマはずっと黙って聞いている。
「荷物についてはこちらで弁償、という事で解決した。それよりも、キットの事だ・・・。」
くるりとマークが二人の前を向き話を続けようとしたのだか、イカサマはさっと部屋を出て行ってしまった。
「ユン。」
そんなイカサマを咎める事もなく、マークはユンに意味深な視線を投げ顔をくいっとドアへと動かす。
「了解。」
ユンも意味ありげに頷きイカサマの後を追った。

イカサマの足はとてつもなく速い。あっという間にキットが山賊達に襲われた場所に着く。
先を進もうと歩を進めようとしたその時。
「おいおい、ここんところ俺様達に恐れ入って誰一人山を通らなかったのに。又通る馬鹿がいやがった。」
あの山賊達が出てきたのだ。
無言でその山賊達を見つめるイカサマ。
「金目のもの、出してもらおうか。」
ひらひらと持っている剣をひけらかす山賊。
「・・・お前達か?キットをやったのは?」
静かに問うイカサマ。
「あ~ん?キットだあ?」
「6日前、ここを一人の子供が通っただろう。」
「ああ、あのガキかい。お前、あいつの身内かよ。けけけっ、あのガキは言う事を聞かなかったから痛い目に遭わせてやったよ。」
「そうか・・・、なら、お前達も同じ痛み以上のものを味わってもらおう。」
「けっ!笑わせらあっ!!あのガキもな、調子こきやがって俺様達に簡単にやられちまったぜ!」
山賊達は一斉に襲い掛かる。
その様子を冷たい表情で見、おもむろに右の人差し指をかざしたイカサマ。
ボンッ!!!
そんな音がしたかと思うと山賊の一人が五体ばらばらとなり吹っ飛ばされる。
「ひっ、ひえっ!」
山賊達は襲い掛かるのを一瞬やめる。
「キットと俺が同じだと思うな。」
「た、助けてっ!」
逃げようとした山賊達だったが・・・イカサマは右手をひらりと振り上げたと思うと、山賊達は皆五体ばらばらとなってしまった。
「あ~あ、相変わらずむごいね~。」
その様子を呑気に木の上で見ていたユン。
そう、イカサマ、そしてこの男ユンやマーク、一部のポストマンだけが持つ強大な能力。ポストマン達は皆武道を極めているのだが、その中でもイカサマ達一部のポストマンは指一つで巨岩を砕き、その足は空を舞うと言われている。だから、ポストマンは人によっては恐れられ、馬鹿なやつしかならないと言う人もいるのだ。
そんな力を持っている・・・冷静を欠いて出て行ったイカサマを心配、いや、その強大な力を抑える為にマークはユンに追わせたのだ。
が、止める間もなく終わってしまったが。
「ユン、坊主を探すぞ。」
何事もなかったかのようにそう呟き、歩き出すイカサマ。
「意外と冷静なのね。」
イカサマの静かな様子に苦笑いし後を追うユンであった。

30分ほど歩いた先の崖に生えている木にキットはぶら下げられていた。
「キットだ。」
と言った瞬間にもうイカサマはキットの元に駆けつけていた。そして彼の体を抱き上げ縛られていた縄を解きユンの元へ戻ってくる。
「まだ息がある。」
ほっとした表情を見せるイカサマ。
そう、キットは大分衰弱していたが息をしていたのだ。

あれから一ヶ月経っただろうか・・・。
「回復が早いな、キットは。後少ししたら又ポストマンとしての訓練を始められるだろう。」
ニコリと笑いそう言ったマーク。又々ここはマークの家。
「しばらくの間、お前につけてキットにはやってもらうか、ユン。」
「まかせとけ。」
ユンも満面な笑顔を浮かべ答えた。
キットは山賊達に襲われ何箇所か骨折していたが今では普通に歩けるまで回復していた。ポストマンだからこその回復力のお陰だろうか。

「イカサマ~!待ちなさいよ~!」
キットのこれからを詳しく話そうとしていた二人の耳に賑やかな女達の声が外から聞こえた。
「一体何事だ?」
マーク、ユンは窓を開けて外を見やる。
するとイカサマがものすごい勢いで走って行った。
「イカサマ、あたしと今日デートしてくれるんでしょ!」
「何言ってんのよ!あたしよ!!!」
どうやらイカサマに手違いがあったらしい。
「うわ~ん、俺様としたことが~!!」
げらげらとマーク、ユンの笑い声が響く。いや、他のポストマン達も騒動を聞きつけて外に出てきてイカサマと女達の様子に笑い声をあげる。
「イカサマ、さすがだな。もてもてじゃないか。」
「よっ!色男!!」
「うるせぇっ!てめえら、後で覚えてろよ~!」
走りながら怒るイカサマ。
「イカサマっ!待ちなさいよ~っ!」
彼女達の怒りの方が上のようである。

ポストマン達の村は今日の快晴を表しているようなとても賑やかで平和な日であった。

終わり

【後書きみたいなもの】
昔々のえらい大昔に書いた小説です💦
とある香港映画に影響を受けまくって勢いのまま書いた作品です😅
とはいえ、実は自分で書いた小説の中で結構お気に入りな作品でして。
つたないものではありますが、再掲しお披露目でございます🏵️

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