館山で真剣勝負の鬼閃流オニカサゴ釣り/船形 真澄丸
久しぶりに真澄丸のオニカサゴ釣りへいく
2013年最後となる釣りは、真澄丸のオニカサゴ釣りである。そう、あの真澄丸だ。
この船宿の名前にピンとくる人はいるだろうか。私がこの連載を始めた直後の2010年に訪れて、超大物のオニカサゴを一荷で釣り上げた、私の中では伝説となっている船宿である。(こちら参照)
あれから3年の月日が経ったのだが、以前と比べて私の腕前がどれほど上がっているのかを確かめる意味も込めて、再度真澄丸の門を叩いてみることにしたのだ。
この真澄丸という船宿は、なんというか、普通の船宿ではない。「鬼閃流」というオニカサゴ釣りにおける独自の流派を学ぶ道場といったほうが正しいかもしれない。
鬼閃流のオニカサゴ釣り、麻雀の世界でいえば雀鬼会が近いだろうか。そっちは怖くて行ったことないけれど。
「魚をたくさん釣りたいんだったら他の船宿にいけばいい!」と言い切る船長が狙うのは、海底深くで何十年も生きているという大型のオニカサゴのみ。それをよくわかっている常連さんが狙うのは、一生に一度釣れれば御の字といわれる2キロオーバー。
当然坊主覚悟での釣りとなり、船中ゼロも珍しくない。年に百回通ったり、岐阜からわざわざ通うような超常連さんが、何年も通って「ようやく初心者になれたような気がします」と、オニカサゴに頭を下げるという世界なのである。この世界観を楽しめるかどうかだ。
船長に言わせると、1000人に1人の釣り人ための船宿となる。お茶やお華の世界に茶道や華道といった「道」があるように、ここのオニカサゴ釣りには、追い求めるべき独特の「道」があるのだ。そんな船長と鬼閃会員の結束はとても固く、船長に言わせると門人一人とのつながりは、1億円に値するのだとか。
なんて、こんなことを書くと敷居の高い船宿だと思われるかもしれないが、本気で鬼閃流のオニカサゴ釣りを一から学びたいという意思のある人だったら、だれでも歓迎してくれるはず。レンタルタックルもあるので、手ぶらでも大丈夫。
逆に今更船長に教わることは特にないとか、自分の釣り方にこだわりを持っていて曲げたくないと思っている人は、お互いのためにならないのでいかないほうがいいです。郷に入れば郷に従える方向けの船宿なのです。
鬼閃流オニカサゴ釣りのこだわりを聞く
この船宿では、鬼閃流を学ぶ気がある人限定で、出船前に船長が独特の釣り方をレクチャーをしてくれる。
これから狙うのは、臆病だからこそ何十年も生き延びているオニカサゴなので、一定のテンションで道糸を張り、オモリを海底に立てて、船の動きで静かに引っ張り、派手な誘いは一切しないのがここのセオリー。
そして使用する天秤や仕掛けも、この釣り方にあった独特のものとなる。
オモリが底を引きずる釣り方のため、天秤は仕掛けを結ぶアーム部分がかなり上を向いているのが特徴。この形状だからこそ、エサを引きずらせることなく、底スレスレを漂わせることができるのだ。
こんな感じで普通のオニカサゴ釣りとは違う部分が多いので(ここ以外でやったことがないのでよくわからないがたぶん違う気がする)、できれば真澄丸のホームページを一通り読んでから来るのがベターかな。
さて今回の釣行には、久しぶりの登場となる岡田孝雄カメラマンが、「真澄丸のおやっさんとは、もう一度会いたいよね」ということで電撃参戦。彼と初めて船に乗ったのがこの真澄丸で、その時は船釣りをやったことがなかったので写真撮影のみだった岡田さんも、今日は釣竿をレンタルしての乗船である。
釣りは私との取材くらいでしか行かない彼にでも、船長の言うとおりにやればオニカサゴが釣れてしまうのかが、本日の見どころの一つとなるのではないだろうか。私より大物を釣ったりしてね。
オニカサゴ釣りのタックル
このところ風と波の強い日が多く、この日も出船が危ぶまれたのだが、どうにか沖のポイントを攻められそうだということで、シケ気味の海を南下して、館山沖に点在するオニカサゴのポイントへと船を走らせる。風が吹いてきたら即退散。
なにかとんでもないことが起きそうな、なんとも怪しい雲行きで、オラわくわくしてきたぞ。
どうでもいいがポイントへ着くまで船の上でウツラウツラと寝ていたら、岡田さんから「白目をむいていて気持ちが悪い」と言われてしまった。そんなときは偏光グラスで対抗だ。
45分ほど船を走らせて、最初のポイントへと到着。この真澄丸での釣り方は、1つのポイントで仕掛けの投入は1回だけが基本。
一度仕掛けを上げたらその流しは終了となり、これを10~15箇所で繰り返すという、ボクシングのラウンド制みたいな釣りとなる。
ここのオニカサゴ釣りはオモリ150~200号を使用し、水深100~200メートルくらいのポイントを攻める釣り。竿はその重さが無理なく使える、食い込みと感度のいい柔らかめのものを使用する。リールはPE4~6号くらいの中型電動リール。
前回は船長に一式道具を借りたのだが、今回は3年前からの道具を含めた成長を確かめるために、手持ちの道具でやってみることにした。
ということで、竿は細めでシャッキリとしたビシアジ竿。もうちょっと柔らかいほうがいいんだろうけれど、これしか持っていないので、そこは手首のしなやかさで補えるものなら補いたい感じ。
リールはPE4号の中型電動リール。天秤と仕掛けは船宿で購入したもの。オモリは150号でスタート。
糸をまっすぐ立てるのが難しい
仕掛けを投入してオモリが海底についたら、糸ふけをとってオモリが立つくらいのテンションをキープして、船の動きに合わせて海底をずるずると引きずってアタリを待つ。
こうやって文字にすると簡単そうだが、海底に変化のある場所を攻めるため水深が変わりやすく、また潮の流れと風の向きが同じという訳でもないので、糸をまっすぐにしてオモリを立てるという、この釣りの基本がなかなか難しい。
この状況に見かねた船長がさっそく登場。手取り足取りの熱血指導がスタートだ。
体と竿はあくまで正面を向けて平行に構え、糸は必要以上に出さずにオモリを立たせる。糸の張り具合と船の進み方が釣り合えば、自然と糸は真下を向くものらしい。
これがきちんとできるようになるには、それなりの経験が必要となるとなる。これまでの釣り経験ではなく、あくまで真澄丸で鬼閃流を学んだ経験がだ。
鬼閃流では、誘っている間は基本的にリールのハンドルを触らないのがポイント。普通は水深の変化に合わせてハンドルで糸の量を調節したくなるが、あくまで巻き取りは電動で、糸を出すのはクラッチ操作でおこなわなければならない。使うのは左右の親指だけ。そして竿先はなるべく動かさない。
これによって手を忙しく動かす必要がないので、アタリをとることに集中ができる。この釣り方は、慣れるととても理にかなっており、ほかの釣りでも応用が利きそうだ。
こんな感じで最初の1流しは、正しいフォームでしっかりと構え、糸をちゃんと立てるという基本中の基本を抑えることで終了。なんとなく3年前の記憶がよみがえってきた気がする。
さあ2流し目に期待しようと仕掛けを上げ始めたのだが、あれ、なんか、あれ、重くない?
電動リールがウインウインというだけで、ドラグが滑ってなかなか上がってこないじゃないか。
釣ったのではなく、釣れちゃったっていうやつか。
しかも、これって、もしかしたら夢サイズのオニカサゴ?
いつ掛かったのかわかんないけれど、大物が釣れちゃっている?
アレアレアレと動揺していたら、後ろで釣っていた岡田さんも、なんだか大騒ぎをしている。
まさかのダブルヒットである。しかも私のやつはヤバいサイズ。早くも来年の運をすべて使い切るんじゃないかというヒキの強さで、2.5キロオーバー、いやまさかの3キロオーバーの日本記録クラスのような気さえする。あわあわあわ。
ジリジリと低速で丁寧に巻き上げて、残りが10メートルとなったところで、あれどうやって取り込むんだったかなとちょっとしたパニックが訪れて手が一瞬止まった。横で見守っていた船長から、竿をロッドホルダーにセットし、天秤が見えるまで巻き続けろとの指示が飛ぶ。ワタワタワタ。
そして竿のリールがある少し上を左手で持ち上げて、右手で天秤をキャッチするのだが…軽い。
あーーーーーーーー。
取り込みをモタモタやっていて糸が一瞬緩んだときだろうか。超大物オニカサゴだと思われる相手は海底へとお帰りになってしまった。
そう、オニカサゴ釣りはこれがあるのだ。
タモに入れるまでは一瞬も安心してはいけないのが、このオニカサゴ釣り。
ビシアジ釣りだったら、あら残念ねーですむ話だけれど、オニカサゴ釣りは1日やって一匹釣れるか釣れないかの釣りなので、このミスは大きい。
あーーーぁ。
ものすごい脱力感である。この悔しさがあるからこそ、好きな人は通いつめちゃうんだろうなとか考えていたら、気が付いたら後ろで岡田さんが歓喜の舞を踊っていた。
どうやらこちらは無事に取り込めたようだ。しかも堂々のキープサイズ。
成功は皆様のおかげ様、失敗の全責任は自分にあり。これが鬼閃流のオニカサゴ釣り。はい、私が全部悪いのです。
ちなみにオニカサゴという魚はヒレに強烈な毒針が仕込まれているので、絶対に素手で持とうとしてはいけません。
船長から全面的に指導が入りました
この一連のやりとりをみて、船長が思っていた以上に私の釣りの腕がヘタレであることが判明したので、2つ目のポイントへと移動する前に、全面的な指導が入ることとなった。
こんな感じでエサのつけ方から仕掛けの上げ方まで事細かに教えていただき、目から鱗がポロポロと落としまくる。釣りには正確な手順と正しいフォームがとても大事なんだなと、いまさらながらに納得。
ついでに書けば、仕掛けを落とす時に海底近くなったら左手親指で道糸を抑えて落下速度を調節し、オモリがゆっくりと着底するようにしなければいけないそうだ。ドスンと落とせば、それだけで臆病な大型オニカサゴは隠れてしまうのだとか。
そして仕掛けを回収してエサを取りかえる際に、なにも考えずに捨てるエサを海に投げると、カモメが集まってきてしまうので要注意。投入しようとセットしたエサをとられたり、カモメを釣ってしまったり、ウンコをされたりといいことが一つもないので、エサは投げずにとっておいて、港に戻って船長がかわいがっているカモメのカメちゃんにあげるのが正解だ。
2流し目でまさかのダブル達成!
今更ながら鬼閃会流の釣りの基本を学んだところで、気合を入れなおしての2流し目。船長の合図にあわせて仕掛けを投入し、さっきよりは上手になったはずの構えでアタリをじっと待つ。
海底の起伏に合わせて、糸が出すぎていたら電動で少し巻き取り、糸が足りなくなったらクラッチを切って少し出す。そして道糸に一定のテンションを掛けて、オモリを海底に立てた状態で静かに引きずる。この時、水中の中の様子をイメージすることが大事。
するとしばらくして、揺れる船上でギリギリわかるくらいの、ククっという小さなアタリが竿先に現われた。大物のオニカサゴほど一気にエサを飲み込まない場合が多いので、ここでせっかく咥えさせたエサが動かないように竿先を少し下げて、そしてリールのクラッチを切って糸を少しずつ出し、オモリを引きずらないようにする。
ドキドキしながら次のアタリを待ち、さらに3度目の少しだけ大きなアタリで腹を決めて竿先をゆっくりと大きく上げて、手でリールを巻いてみる。
するとすぐにグイグイと竿先が曲がり、その引きが伝わってきた。
掛かった!
いや、これは掛けただ!
電動スイッチオン!
さっきほどの重さはないが、まあまあのサイズではないだろうか。これは絶対オニカサゴ(だと信じることが大事)。ゆっくりと巻き上げながら、何度も取り込みの方法を頭の中でシミュレーションする。
そして残り20メートルとなったところで船長を呼び、10メートルで竿をセット。
そのまま手でリールを巻き続け、糸のテンションを一瞬たりとも緩めないようにして天秤を掴む。
上がってきたのは、真っ赤な姿をしたド派手な衣装のオニカサゴ!
しかもペア!
ダブルだ!
やったー、釣れたー!
三年振り、二度目のオニカサゴダブル達成!
まあダブルで釣れるというのは、合わせのタイミングが遅すぎたためなので、あまり褒められたものではないらしいが、やっぱりうれしい。
その大きさは、1匹が1キロ弱とキープサイズだったが、もう1匹は真澄丸ではリリースサイズ。水圧の変化に強いオニカサゴは、元気な状態でリリースすれば自力で潜っていくことができるので、小型は全部リリースするのがここでのルール。
そして苦悩が始まる
自分でもびっくりした二回連続ヒット、そしてまさかのダブル達成。これからはダブルオニカサゴの玉置と呼んでもらおうかとか思ってしまうくらいの出来事で、今日は一体何匹釣れてしまうんだろうと思ったが、もちろんオニカサゴ釣りはそんなうまく行く訳がなく、その後はアタリがあっても合わせのタイミングがうまくいかなかったり、巻き上げ途中で逃げられたりの連発。
しかし、この小さなアタリをとって、糸を送ってしっかりと食わせて、タイミングを見計らって合わせを入れるという流れが楽しくてしょうがない。そしてそこからはクレーンゲームのようにいつ逃げられるかわからないハラハラタイム。オニカサゴは簡単にハリを外していくのだ。
ここで大切なのは、釣れなかったときに何がダメだったのかと疑問を持つこと。疑問に対して答えを探すことから、技術の向上は生まれてくる…らしいよ。
最初の一投で本命が釣れてしまった岡田さんも、それからはなかなかアタリを拾うことができず、首をひねりながら苦戦している様子。
今日みたいに波が高いと、カメラマンをしながらあの小さなアタリを感じるのはなかなか難しいかな。こんな日でも船長は置き竿で釣っちゃうんだけどね。
自分の作った仕掛けで釣り上げたい
さあ、オニカサゴ釣りも中盤戦に突入。船宿特製仕掛けのハリを切られたこともあり、ここで昨日がんばって自作してきた仕掛けを投入してみることにした。1匹キープしているという心のゆとりもあることだし。
基本的には真澄丸のホームページに書かれていた仕掛けと同じなのだが、狙いは2.5キロオーバーのオニカサゴということで、ハリを20号の大型ムツバリにしてみた。ちなみにこういうオリジナルの工夫を試しだすと、だんだんと釣れなくなってくるというのが釣りというものなんだけどね。
船宿仕掛けのほうが無難なのは承知の上だが、やっぱり自分で作った仕掛けでオニカサゴを掛けてやりたいと思うのが、釣り歴だけは無駄に長い釣り人の偽らざる思いなのだ。
さらにエサは、持参したサンマの塩漬けを使ってみることにした。もちろんサバでも十分釣れるのだが、もしかしたらサンマのほうが好きなオニカサゴが海底で待っているかもしれない。ちなみに私はどっちも好きだ。
このように仕掛けとエサを持参したものに変えて挑んだオニカサゴ釣りだったが、この日は食いこそ渋いがアタリがまったくないということもなく、集中していれば2~3流しに1回くらいはなんらかのアタリがあるという感じ。
そしてその小さなアタリをしっかりとキャッチして、乗せることにどうにか成功。自分で作った仕掛けでオニカサゴが釣れてくれた。いやまだ釣ってない。安心しちゃだめ!
なかなかの引きを味あわせながら上がってきたのは、1キロにギリギリ足りないくらいのオニカサゴだ。
しかし、この引きの強さで1キロ弱だったら、最初に掛けたやつはやっぱり最低でも2キロはあっただろうな。
あーー。
その後はアタリこそあるものキャッチには至らず、3年振り2回目のオニカサゴ釣りは、キープサイズ2匹で終了となった。
これまで3年間の経験による技術の向上を感じたかといわれると謎だが、今日1日でだいぶ電動リールを使った釣りの腕が上がったような気はする。
ということで、好みがはっきりと分かれる真澄丸の鬼閃流オニカサゴ釣り。誰にでも勧められる船長ではないけれど、もしこの記事を読んで、興味を持った人はチャレンジしてみてください。
もちろん坊主覚悟で!
私が2回連続で2匹も釣れたのは、超ラッキーだと思ってください。
超高級魚、オニカサゴの味を楽しむ
さて超高級魚といわれているオニカサゴの味だが(売っているのを見ることがほとんどこないのでピンとこないが)、その身は長い時間を掛けて育った魚だけあって、ブリッブリに締まっている。ここまで身がしっかりとした魚を私は他に知らない。
釣ったその日だとブリッブリ過ぎるので、刺身で食べるのだったら、3日くらいは寝かせてからがいいかな。このブリッブリな食感を楽しめるのが釣り人の特権でもあるんだけどね。
歯ごたえをとるか、うま味をとるかはお好みで。
個人的には3日寝かせてからのバター焼きが一番好みだったかな。
ということで、ぜんぜんゆるゆるじゃない真剣な釣りもたまにはいいですね。
サポートいただくと生きていけます。