キス・アナゴリレー船で江戸前最強天丼を作ろう/伊藤遊船
※掲載終了の「@niftyつり」から2010年4月21日の「ゆるゆる釣り部」釣行記を一部修正して移植しました。この釣りは揚げ物大好きな人(私)には最高の釣りですね。アナゴが釣れているタイミングでまた行きたいな。
うまいキス・アナゴ天丼が食べたくて
東京湾で捕れる魚は「江戸前」といわれて昔から評価が高いが、そのなかでも特にうまいと思うがアナゴである。アナゴの乗合船は四月後半から梅雨明けくらいまでの短い期間しか出船していない季節もの。このアナゴ釣りだけでも楽しいのだが、さらにリレー船でシロギスと一緒に狙える船宿が存在する。
ここでいうリレー船とは、昼からシロギスを釣って、港に帰らずにそのまま夜にアナゴを釣るというもので、誰かにバトンを渡したりする必要はない。
アナゴとシロギスの組み合わせ、これはもう天丼をつくるためにあるといっても過言ではないリレー船だ。釣りたての江戸前最高級食材での天丼、これは絶対にうまい。ということで、今回は釣り歴とかは考えないで、一番天丼が似合いそうな人をゲストに誘ってみました。
カメラを向ければ自然にプロレスLOVEポーズ。釣りに誘ったら、「あんまり興味ないな」といわれたけれど、おいしい天丼が食えますよといったら、「そういうことなら!」と参戦 。
大先輩ライター、大坪ケムタさんだ。ちなみに大坪さんとはライター仲間というよりは、プロレス観戦仲間である。リレー船という単語が通じなかったので、ダブルヘッダーといいなおしたら一発で理解してもらえた。
本日お世話になる船宿は、江戸川放水路にある伊藤遊船さん。最寄駅は東西線の妙典で、近くに住んでいた時はよく電車できていた船宿だ。
初夏から晩秋にかけてはボートでのハゼ、冬は湾奥カレイ、そして通年ライトアジでにぎわう船宿。
猛烈にかわいい猫達が接待してくれます。
キス・アナゴリレーは出発が遅い
今日チャレンジするキス・アナゴリレー船は、出船が12時と普通の釣りに比べてだいぶ遅い。場所も都心からすぐの場所なので(自宅は埼玉なんですがね)、早起きの必要がないのが素晴らしい。最寄りの妙典駅からもそれほど遠くないので、大坪さんには電車できていただいた。
受付で仕掛けや錘などの必要な道具は購入可能。貸し竿ももちろんあるよ。
氷はペットボトルに入ったものが無料でもらえる。
釣りというよりもサバゲーみたいなファッションで乗船する大坪さん。
伊藤遊船は江戸川放水路にあるので、釣り場となる沖のポイントへ移動するまで一時間ちょっとのクルージング付き。特にはじめての船釣りならば、船で移動すること自体がレジャーのひとつになると思う。今までにみたことのない景色がそこにはあるし、これからの季節は海の上でのうたたねが最高に気持ちいいのだ。
移動の間に大坪さんの釣り歴を聞いてみたところ、出身の佐賀では釣りが遊びの必須科目だったとのこと。ただ、のべ竿でのハゼ釣りしかやったことがなく、リールを使った釣りははじめてだそうだ。
なるほど、でも船酔いさえしなければ天丼分くらいは釣れるんじゃないですかね。釣れなかったら「てんや」の天丼おごります。
アンダースローはちょっと難しい
ポイントに到着したところで、まずはひとつめの天ダネであるシロギス釣りから。シロギス釣りはもう10年以上、最低でも毎年一回はやっているお気に入りの釣りなのだが、私の腕は一向に上達しないという不思議な釣りだ。
たぶん釣りすぎると捌くのが面倒というのが、心のリミッターになっていると思われる。
キス用の竿はシマノの幻風というキス竿、リールはひとつテンヤ用に買ったスピニングで糸はPE0.8号にリーダー2.5号。
大坪さんには貸し竿でチャレンジしていただく。長さ、固さといい、キス竿というよりはアナゴ竿かな。
オモリはナス形20号。天秤は見た目で決めて購入したスケルトンなやつ。
エサはアオイソメが支給される。大きいのはアナゴ用にとっておいて、小さいのをキスで使おう。
エサはキスが吸い込みやすいようにまっすぐにつける。アオイソメが長かったら適当にカット。
はじめてシロギス釣りをやる場合、一番難しいのは仕掛けを投げるところだろうか。陸と違って船の上ではアンダースローでヒョーンと飛ばす必要がある。
やり方を書こうと思ったけどものすごく長くなりそうなのでポイントだけ書いておく。わからなかったら船長に聞けばきっとばっちり教えてくれるはず。
まず投げるときに船からなるべく身を乗り出して投げること。こうすると仕掛けが船に引っ掛かりにくい。でも落ちないでね。
そして力任せに仕掛けを投げるのではなく、竿の弾力と錘の重さを使って、振り子のように飛ばす。
準備段階。私の場合、下の針のちょい上を軽くつかむのだが、このときの糸の長さが肝心。竿の弾力をうまく使えるくらいの長さ。
ピョーンと竿の弾力で飛ばす。力は入れないのがコツ。
大坪さんにやり方を教えたのだが、やっぱり最初からはうまくいかない。「こうやるんですよ」と大坪さんの竿を使って見本をみせるも、ハンドルが慣れない右巻きだったために、ベシャンとすぐ近くに落水。うん、簡単ではない。
それでも何回かやっているうちにまったくの初心者だった大坪さんも、ヒョーンとはいかないまでも、ヒョンとは飛ばすことができるようになった。これでキスは釣れたも同然だ。
チマチマした作業は似合わないですね。今度はカツオの一本釣りにでも誘おう。
天ダネのキスを無事確保!
ヒョーンと仕掛けを飛ばしたら、オモリが海底に沈むまで待ち、糸ふけを巻きとる。着水する直前に竿先をちょっと煽ったり、リールの糸を触って止めてやると、その反動でオモリよりも仕掛けが先にいくので、水中で仕掛けが絡みにくい。投げるのが難しかったら、真下に落とすだけでもOK。
なるべく遠くに飛ばして、リールをゆっくり巻きながら好きなように誘いをいれつつ(説明がざっくりですみません)、船の手前まで探っていくという作業を繰り返すと、途中でククっという小気味のいいアタリがきた。
軽く竿を立てて魚の引きを楽しみながらリールを巻けば、顔を見せたのは本命のシロギスだ。天ダネの一品目である。
最近はなんにでも「美しすぎる」という言葉を付けたがるが、シロギスこそ「美しすぎる天ダネ」だろう。
私が釣った数分後には大坪さんも無事にキスをゲット。この日は好天の割には魚の活性は高くなかったが、夕飯分くらいは余裕で確保できそうである。
記念すべき一匹目。「アタリが全然わからなかった」といっていたが、すぐにわかるようになった。
この季節は仕掛けにクラゲの触手がついてくることがよくある。これがちょっとでも目に入るととっても痛いので、ティッシュなどでやさしくとろう。
定番外道のメゴチ。大きければ天麩羅のネタにいいのだが、ちょっと小さい。ヌメヌメかつトゲがあるので魚バサミを持っていこう。
この日は平日で空いていたので、メゴチを餌にしてマゴチ狙いの竿を出す。天丼にマゴチの刺身を付けちゃおうかな。
はい、残念賞。私の人生、こんなんばっかり。10年以上マゴチを狙って、いまだに一匹も釣れていないぞ。
マゴチ狙いに気をとられていると、キス竿は外道が掛かりがち。
しかしこのトラギス(クラカケトラギス)という魚、天麩羅にすると身が厚くてうまいんですよ。
ここまで順調に来ていたこの釣りだったが、不幸は大坪さんの足元からやってきていたのだった。
船酔いはプロレスで解決だ
この日、大坪さんが履いている長靴は私が貸したものなのだが、本来の足のサイズよりも1センチ以上小さいもの。しかもジーンズの裾を無理やり入れており、晩秋のカワハギの肝みたいにパッツンパッツン。これで血行不良となったためか、だんだんと船酔いに陥ってしまったのだ。
うん、見るからに窮屈そうだ。
うーん、シロギス釣りだとバケツをひっくり返さない限り足元は濡れないみたいだし、無理に長靴を貸さないで自前のスニーカーで乗ってもらえばよかったか。なんてことは後の祭り。
どこか一か所に不安があると、それが引き金になって船酔いをしてしまう。風が吹けば桶屋がもうかるみたいな話。長靴が合わなければケムタが酔う。
気がつくと大坪さんは船内へと消えていた。
大坪さーん。
大坪さんがいなくなって書くことがなくなってしまったので、シロギスの針の外し方でも説明しましょうか。
針を飲まれてしまったら、このようにエラぶたの下に指を入れて、キュっと押さえます。
上から見るとこんな感じ。
この状態でハリスを引っ張ると、あら不思議。スルリと針が抜けてきます。
なんてやっているうちに大坪さんがまだ少し青い顔をしながら復帰。無理に釣りをさせているようで申し訳ない。ここでちょっと釣りの話はやめて、二人の共通項であるプロレスの雑談を開始することにした。
好きな団体はどこですかとか、アイスリボンの後楽園大会はいきますかとか、そんな話をしていると、みるみる大坪さんの顔色がよくなっていき、さらには釣果も上向いてきた。
これぞ、プロレスLOVE釣法!
なるほど、船酔いの一番の防止方法は、釣りに集中しすぎないように、得意分野の話をしながらリラックスすることのようだ。よし、今後もこのようなことが多々ありそうなので、がんばって聞き上手なモテ男になろう。うん、無理。
そんな感じで無事にリレー船の前半を乗り切り、とりあえずキスだけでも天丼ができるくらの量を確保したのだった。
他の人たちは30匹くらい釣っていたけど、我々二人は控えめに。
数はあえて書くまい。
第二ラウンドはアナゴ釣り
さあ第二ラウンドはアナゴ釣りである。個人的にはキス釣りよりも、今シーズン初となるアナゴ釣りの方がメインな感じ。おっと、別にシロギスがあまり釣れなかったからの負け惜しみじゃないですよ。
キス釣りが終わるタイミングで、船長がカップラーメンをくれるよ。
昨年は非常に低調に推移したアナゴだったが、今シーズンは開幕から順調ということなので、とりあえず今日は二人で10匹を目指してみたいと思う。
アナゴ釣りのやり方は人に教えるほど詳しくないので、名手である船長にレクチャーしていただく。
釣鐘型のオモリに船アナゴ用針をぶら下げ、アオイソメを団子につける。これは一本バリですけど、ハリスの長さを変えて二本ぶら下げるのがおすすめだそうですよ。
船長お勧めの仕掛けは、アナゴ用の釣鐘型錘25号に針をぶら下げるシンプルなもの。オモリの上にはおまじないとしてケミホタルを付けてみた。アナゴが光に集まるっていうのは本当なんですかね。
この仕掛けを少し投げて底につけ、竿をヒョンヒョンと錘が2~3センチ持ち上がる程度に誘っていく。アナゴ釣りといえば、両手に竿を持ち、仕掛けを真下に落として小突くやり方がスタンダードだったが、最近は投げて広く探るほうが釣果が伸びる場合が多いそうだ。
この日のために専用竿を購入しました。アナゴ用(4000円)が欲しかったけど、妥協してテトラ用(2000円)。先調子で短めが使いやすいよ。
予想以上に釣れるアナゴ
竿は一人二本づつ用意したのだが、最初から両手で持ってやるとなにがなんだか分からなくなるので、一本は置き竿とした。こちらはオモリを底に着かせて、船の揺れでたまに持ち上がるくらいにしておく。
釣り初めて数分、まだ明るいうちに隣のベテランさんが早々に一匹釣りあげたと思ったら、大坪さんの置き竿にさっそくアタリが。
ケムタ、アタリ!アタリ!(志村リスペクト)
しかしまだ船の揺れとアタリの区別がよくついていないため、巻き上げた時にはもう仕掛けにネバネバだけを残して逃げられてしまっていた。あらら。
こういう逃がし方をすると、リズムが狂ってそのあと釣れなくなってしまうのがいつものパターンなのだが、去年は3回きて4匹しか釣れなかったこの海で、今宵はアナゴが大盤振る舞いとなったのだ。
まずは置き竿用仕掛けで一匹。
ものすごい釣れる……という程じゃないけれど、なかなかいいペースでアナゴが置き竿を揺らしてくれる。次から次と置き竿を…。そう、手持ちの竿で釣れずに、なぜか置き竿ばっかりあたるんだよね。釣れてうれしいんだけど、釣り人としてはなんだか虚しい現実だ。
大坪さんは普通に手持ちの竿で釣っていた。すでに私よりうまいかも。
前半戦のシロギス釣りで、だいぶ船釣りというものに慣れたみたい。
二本の竿でリズミカルに誘い、すごいペースで釣る船長。
なんだか置き竿でばっかり釣れて腹が立ってきたので、私も船長を真似して二刀流での小突き釣りにチャレンジしてみた。しかし両手に持った竿の長さがバラバラ。これが侍だったら長い刀と短い刀でいいんだけど、アナゴ釣りだと長い竿と短い竿じゃバランスが悪いね。
二本の竿が異なると、左右で違う靴を履いて歩いているような違和感。
よし、もう一本同じ竿を買おう。いや二本専用竿を買っちゃえ。
恥ずかしながら一本を置き竿にしていた時よりも釣れるペースが落ちた気がするが、ピョコピョコと小突いてアナゴを誘い、アタリに合わせて竿を上げたときに伝わってくる重量感が最高に気持ちいい。アタリが右だか左だかわからなくなって、つい両手を上げてしまうあたりがバカっぽいけど。バンザイ釣法と呼んでください。
釣れたアナゴを捌いてくれるのがうれしい
途中、食いが落ちる時間もあったが、こまめに船を移動してもらったおかげで、最後まで飽きることなくアナゴ釣りを堪能することができた。大坪さんも「これだけアタリがあれば楽しい!」と喜んでくれた(と思う)。
バケツに水をたくさん入れるとアナゴが逃げちゃうので、水は少しで。
ほとんどの釣りは釣った魚を自分で捌かないといけないが、アナゴの場合は船長が回収し、見事な早業で捌いてくれるのだ。ついでにキスも捌いてほしい。
私がさばくスピードの50倍くらいで捌かれていくアナゴ。
この船長が捌いてくれている間に、ラストスパートでさらにアナゴが釣れると、これがまたうれしいんだ。
二人で合計17匹釣れたぜ。ベテランは一人で30匹とか釣っていたけどー。
いやあ満足。キスもアナゴもこの船で二人とも最低レベルの成績だけど、一日穏やかな海で天丼をつくるには十分すぎるほどの釣果に恵まれたのだから完璧だ。
それにしても釣れる年のアナゴ釣りは楽しい。久しぶりにやってみたらいろいろと反省すべきところがあったので、仕掛けや釣り方を見直して、またすぐにでも再チャレンジをしたい。今年は今のところアタリ年のようだしね。
船宿に戻ると、おかみさんが温かい味噌汁で出迎えてくれます。
真夜中に食べる最高のキス・アナゴ天丼
船が船宿へと戻ったのは夜10時過ぎ。普段だったら家に帰って、風呂に入って寝てしまうところだが、今日のテーマは江戸前最強天丼を食べること。家に帰るまでが遠足ならば、天丼を食べるまでが本日の釣りなのだ。ということで、大坪さんにも付き合ってもらいます。
家に帰ったらまずアナゴの下処理。といっても、すでにアナゴは捌かれているので、塩で揉み、滑りをよく洗い流して、水気を拭けば準備完了。シロギスのほうが10倍面倒くさい。
次の日に食べる場合も、この下処理だけは当日にやっちゃおう。
そしてなんやかんやで天丼ができあがったのは夜中の一時。こんな時間に摂取していいカロリーではない気もするが、一日遊んだ後の揚げ物は最高だ。
大坪さんにはスペシャルサイズで。アナゴ4匹にキス5匹!
うまい。ものすごいうまい。ホロホロと口の中で崩れていく繊細なシロギスももちろんうまいが、やっぱり久しぶりに食べたアナゴがうますぎる。油ギッシュな衣の中から染みだすアナゴの脂。身の程良い弾力と余韻が残るほど濃い旨み。
淡白なキスと濃厚なアナゴの組み合わせ、これはまさに江戸前最強天丼といえるのではないだろうか。
「うまーい」の「う」の口。真夜中に見事完食。
釣りたての江戸前アナゴ、もし食べたことがないのであれば、ぜひ自分で釣って食べてみてもらいたい。アナゴに対する認識がまるっきり変わると思う。
アナゴの白焼きももちろんうまい。わさび醤油でさっぱりと。
頭は二度揚げすると、口の中に多少骨が残るけれどおいしく食べられる。釣り針が残っていないかチェックしてね。
アナゴの骨せんべいはポリポリと楽しい食感。うまいのよ。
そして私は翌日も天丼。
アナゴの中骨は骨せんべいを味見程度にしておいて、残りはきれいに洗ってから、水でよく煮込んだ。このスープを煮アナゴのベースとするのである。しかし残念ながら煮るはずだったアナゴはもう全部食べてしまったので、このスープは凍らせておき、次回のお楽しみとなった。あー、またすぐにでもアナゴ釣りいきたい!
■伊藤遊船
サポートいただくと生きていけます。