オモコロ合宿の過酷な往復路記

オモコロ合宿に行った。年に一度開催され、50人以上のオモコロライター(オモコロというサイトで書いてるライター)たちが集まり、一泊して遊ぶイベントだ。僕は三度目の参加だった。
オモコロ合宿は、宿泊自体も楽しいのだが、往路と復路でそれぞれ異なるグループに分かれて車移動し、好きな場所に寄ったり、アクティビティに参加したりする。修学旅行の班行動みたいで、これも醍醐味のひとつだ。

初めて参加した合宿は2019年、ライターになったばかりの時期で、ほぼ全員が初対面だったため人見知りが極限に達し、口をつぐんだまま終えた。特に行きと帰りの車内では、本当に二言くらいしか発しなかったと思う。
逆に昨年参加した二度目の合宿では、コロナ明けで久しぶりに色んな人にあったことで、テンションが上がって道中から酒を飲みすぎ、途中でぶっ倒れてほとんど記憶がない。酷い二日酔いのまま、復路のアクティビティには参加せず直帰した。

だから今回こそは三度目の正直、往路と復路含めて、すべてを楽しもうと意気込んでいた。合宿の一週間前から下の子が体調を崩し毎日吐きまくって、既に暗雲が立ち込めていたものの、たとえ平日の仕事が疎かになったとしてもオモコロ合宿だけは行くのだと、固い決意を持って看病した。仕事はすごい休んだ。

当日。幸い子の体調は戻ったものの、それが間接的に影響して、往路の車には乗れず、ひとり電車で向かうことになった。まあ全然、行けるなら全然いいよ。久しぶりのひとり旅もワクワクするしね。
と自分に言い聞かせつつ、新幹線と鈍行を乗り継ぎ、数時間ほどで最寄駅に到着。そこからタクシーに乗る予定だったが、着いたのは見事なまでの無人駅で、タクシーどころか人間がいない。仕方なく駅から歩くことにした。2~3kmなので大丈夫だろうと甘くみていたら、これがとんでもなく過酷だった。

勾配。急勾配。かがむようにして身体の重心を傾けないと、重力で後ろに転がり落ちてしまいそうな、めちゃくちゃな上り坂。というか山道。ものの5分でびっしょりと汗をかいた。歩道は草木が生い茂っていて、とても歩けない。こんな場所を歩く人間はいないのだろう。そもそも人間自体がいない。
スマホが鳴り続けているので、オモコロ合宿のチャットグループを開くと、パーキングエリアに寄ったりスイーツを食べたり、各班の楽しそうな写真が何十枚もアップされていた。僕は嫉妬しながら、誰もいない山を登った。なんでこんなことになったんだ。撮るものがないから、寂れた山道の写真をグループに投稿したものの、もちろん反応はない。誰だって、寂れた山道よりスイーツの写真を見たい。

そうやって汗だくになって1時間くらい歩き、Googleマップの指示に従った結果、ようやくここにたどり着いた。

終わった。見事なまでの行き止まり。こっから先、道なんて絶対にありません、という強いメッセージを発している。「行き止まり」のWikipediaにこの画像使いませんか?
どうやらGoogleマップで宿を目的地にすると、車ルート設定だと到着できるが、徒歩ルート設定だと行き止まりに来るらしい。罠の宿。誰も歩いて行ったことがないのだろうか。きた道を引き返し、うろうろ歩き続けて、足を引きずりながらようやく宿に着いたら、宿のおじいさんおばあさんたちに、「あんた歩いてきたのか!?」と驚愕された。なんだか悪いことをした気持ちになった。

苦労した甲斐あって、合宿は非常に楽しかった。今まで一番楽しかったかもしれない。顔を知っている人が3分の2くらいいて、そのバランスもちょうどいい。楽しくて酒をたくさん飲んだ。なか憲人さんがなぜかアロハシャツの即売会をその場で開き始めて、明るい黄色のシャツをまた1000円で買って、気持ちまで明るくなった。来年の合宿からは、1000円札をもっと用意しておく必要があるかもしれない。

BBQも美味いし、恒例のみくのしんさんのカレーもべらぼうに美味い。たらふく食べて、一度風呂でリフレッシュしつつ、酒をまた飲みながらかんちさんと宮本牛乳さんと、iDeCoについて熱く語り合ったりした。他にもたくさんの人と話せて、4時くらいまで飲んでいたと思う。
毎年、夜更けまで飲んでいると人数分用意されたはずの布団が何故か足りず(酔っ払った誰かが2枚使うから)、床で寝る羽目になるのだが、今回はちゃんと暖かい布団にくるまって眠れた。

翌朝。二日酔いの気配は確かに感じつつも、ミラグレーンと布団のおかげで昨年ほどではない。これは帰り道も期待できるぞ。今年こそ、復路を含めたオモコロ合宿を、総体として楽しむことができる。

復路の車は、静岡県の三島スカイウォークという大吊橋に向かう班だったが、途中でめんたいパークと呼ばれる明太子の施設に寄った。
めんたいパークは、明太子に溢れている。明太子のピンク一色に染まった館内で、繰り返される明太子の歌を浴び続けていると、なんだか気持ち悪くなってきた。ミラグレーンで抑えていた二日酔いが、むくむくと立ち上がってくるようだった。
そして米一合あるのではないか、という巨大な明太子おにぎりを食べたところで、完全な二日酔いがやってきた。待たせたね、という感じだった。明太子と二日酔いは相性が悪いらしい。明太子ってミラグレーンの逆なのかも。ベンチに座って、目を閉じても、明太子の色が瞼の裏に浮かんできた。網膜ごとやられたかもしれない。

目的地の三島スカイウォークに着いてからも、じとじとと降る雨、そして大きく揺れる大吊橋に体調はどんどん悪化してきて、どこかで休もうかな思っていた矢先、とどめのLINEが届いた。

「鍵なくした...」

家で子供2人をみてくれている奥さんが、外出中に家の鍵を落としてしまったらしい。うちのマンションはやたらとセキュリティが堅牢で、鍵屋を呼んで開けることはできない。子供たちを連れているから、長時間外にいるのも厳しいだろう。
実は去年、透明書店のイベント登壇の直前に同じようなことがあって、その時は「バイク便を呼んで鍵を届けてもらう」という自分でもよく思いついたなという機転の効かせ方をした(登壇中に席を外してバイク便の人に鍵を渡した)のだが、いまは静岡にいるのでそれもできない。これはもう帰ろうと決断した。みんなでワイワイ大吊橋を渡りきって、これから何しようかと一番盛り上がっている最中に、僕帰ります、と唐突に告げた。みんなの困惑と心配の眼差しに申し訳なさを覚えながら、揺れる大吊橋をひとりで戻った。

幸いスカイウォークの近くにバス停があって、三島駅のバスに乗ることができた。しかしここからがまた過酷だった。バスは山道を猛スピードで降り、大吊橋を超える勢いで揺れまくる。揺れるたびに振り子みたいに頭痛が増幅し、気の遠くなるような眩暈がした。往路であんなにも苦しんだ山道を、今度は別の角度から苦しむことになるとは。「苦」ってそんなに多面的じゃなくていいんだよ。

三島駅まで50分ほど絶望のバスに乗り、そこからまた新幹線と鈍行に乗り継いで、夕方に帰宅。家族も無事家に入ることができたので、結果としてはよかった。ただ、これまでで一番過酷な往路と復路だった。

来年のオモコロ合宿こそ、最高の移動を遂げてやる。僕はいまから、往路と復路に熱意を燃やしている。

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