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● 被災地から届く言葉

岩手県陸前高田市に住む吉田さん。
大震災で妻と次男と母と店を失った。
仮設住宅で暮らすある日,なじみの客から声をかけられた。
「頑張って」。
張り詰めていた気持ちが,プツリと切れた。

「頑張れねえよ。お前が頑張れ。奥さんと子ども,死んでみればいい」
と相手を怒鳴りつけてしまった。

同じ仮設住宅の小島さんが声をかけてきた。「頑張ったふりをするんだ」
――  その一言で,自分を取り戻すことができた。
                 (朝日新聞3月11日夕刊1面記事より)

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「前へ」           大木実

  少年の日に読んだ「家なき子」の物語の結びは,
 こういう言葉で終わっている。
 ―― 前へ
 僕はこの言葉が好きだ。
 物語が終わっても,僕らの人生は終わらない。
 僕らの人生の不幸は終わりがない。
 希望を失わず,つねに前へ進んでいく,
 物語のなかの少年ミルよ。
  僕はあの健気(けなげ)なミルが好きだ。
 辛(つら)いこと,厭(いや)なこと,哀しいことに,出会うたび,
 僕は弱い自分を励ます。
 ―― 前へ。
                   (『大木実詩集』思潮社1972年)

大震災を生き延びた人たちの人生は,まだ終わらない。
3年生が卒業しても,あなた達の中学生活は進んでいく。
他の誰でもない,自分自身の人生。
――  前へ。

―― 以上です。
これは2013年3月12日に書いた通信です。
前日に卒業式がありました。
そして,これは中学1年生に向けて書いたものです。
東日本大震災の2年後です。
子どもたちは小学5年生で地震を体験しています。

「頑張って」
「頑張れねえよ」
「頑張ったふりをするんだ」
―― 能登半島地震で被災した人たちも,今,同じような会話をしているのかもしれません。

そして,誰もがみんな,
毎日毎日
自分に言い聞かせているのかもしれません。

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