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兵庫教育大学附属図書館広報誌Listen

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2022年11月の記事一覧

がんばれ、穴子くん

文:永井一樹(附属図書館職員)  『てぶくろ』は私にとって、子どもの頃からそこにあり、今もそこにありつづけている絵本である。(たぶん今も自宅のどこかに眠っているはずだ)。長く読み継がれる絵本は、長じてからも年相応の読み応えというものがある。名作のもつ、そんな懐の深さが好きだ。  今夏、福音館書店の絵本研究者・根本栄次氏に来館いただき、『てぶくろ』の読み聞かせをしてもらった。聴きながら、私はなぜか週末に娘とよく訪れる近所の海浜公園のことを思い浮かべていた。(それが年相応の読み

平和と戦争について考える絵本

『てぶくろ』のトークライブをきっかけに、平和・戦争・核をテーマにした絵本の展示を図書館エントランスで実施中です。 そのなかから、東西の名作6点をご紹介します。 文:藤原克彦(附属図書館職員) ぼくがラーメンたべてるとき(長谷川義史 / 教育画報 / 2007) 重い。作者名、タイトル、楽しげな絵につられると、読むうちにあれ?っとなる。ぼくがラーメンを食べているこの同じ時にも地球上のどこかで子供に辛いことが降りかかっている。低学年には難しいよ。でもわかる日が来るまで繰り返

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (佳作全四作)

佳作1 『自分の体毛へ』 Z.Z.さん 学校教育学部1年 自分の体毛へ 私の体毛さん。どうしてそんなに生命力が強いのですか? どうしてそんなにしつこく生えてくるのですか?刈られた雑草がまたすぐ生えてくるかのように、剃っても剃っても生えてくる。 私は他の人よりも特に。体毛が似合う人っているじゃない? でも、私は違うと思うわ。私はどちらかというと子供っぽい。 顔も体も。なのにどうして、体毛が濃いの?特にすね毛さん。 身体につかう育毛力があるくらいなら、頭につかってください。

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (審査員特別賞2)

審査員特別賞『天国の両親へ』 Y.M.さん 学校教育学部1年 天国の両親へ 今、僕は大学生になりました。 成長を見てもらえないのは悲しいけど、じいちゃん、ばあちゃんもいるし、天国で見てると思って自分らしく毎日楽しくがんばっています。 昔から人を笑わせるのが好きなのは今も変わっていません。 もっとたくさん思い出もつくりたかったし、写真とかも撮りたかった。 でも、小、中高、大とたくさん良い、おもしろい友達といっぱい思い出をつくっています。 二人とも生んで、育ててくれてありがとう

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (審査員特別賞1)

審査員特別賞『鶏肉へ』 R.T.さん 学校教育学部1年 鶏肉へ いつも私の体の一部になってくれてありがとう。 母の手によって塩胡椒というドレスをみにまとった君はとても綺麗だよ。 また、今度醤油、砂糖、みりん、酒のドレスを私のために着てくれないかな。1週間ほど前に舞踏会があったね。 タレと塩で着飾った君たちの踊りはとても素晴らしかったよ。 初対面だったハートちゃんは一瞬で私の心を射止めたね。 先週の日曜日は、君たちの子どもになり損ねた存在と一緒に熱々のご飯の上へスカイダイビン

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (優秀賞)

優秀賞『コロナウイルスへ』 寺田 声 さん 学校教育学部1年 コロナウイルスへ お前のおかげで高校生活は散々なものになった。 遠足や文化祭、修学旅行が全部中止。 校外活動は1年のまだ誰とも仲良くない時期にカレーを作りにいっただけだった。 でも、お前には感謝している。 お前のおかげで家にいる時間が増え、たくさんのアニメを見た。 その一つが“ラブライブ”。このアニメから感動をもらったおかげで、文化祭でラブライブをやることになって、彼女ができた。 そして、その文化祭のことを大学入

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (最優秀賞)

最優秀賞(附属図書館長)『学園広場の口笛のあなたへ』 和泉 久美子 さん 一般(小野市) 拝啓 梅雨も明け毎日暑い日が続いておりますがお元気でお過ごしでしょうか。 あなたと始めてお逢いしたのは もう60年も前の事ですね。 と、言っても、あなたは私の事など全く覚えておられないかも知れませんね。 この私も、あなたの御住所、御名前、年齢どれ一つとして判らないのです。 地元のバス会社に入社して家から徒歩で10分足らずの営業所に配属になり、まだ早春のうす暗い早朝、通勤途中にある商店街

「届かない手紙」コンテスト結果発表! (大賞)

大賞(ナガサワ文具センター賞)『中学生の私へ』 勝谷 こころ さん 学校教育学部1年 中学生の私へ 18歳の私です。突然のお手紙ごめんね。びっくりしたよね笑。 今日は何をしたの? ララの散歩に行った? 神社までランニングした日かな。15時まで寝た日かもしれない笑。時計みた瞬間焦るよな笑。 今さ、大学の宿題で“届かない手紙コンテスト”っていうのに応募しないといけんくて、絶対に届かへんって分かっとる相手に手紙を書くんよ。 周りの子は亡くなった親せきとか、ペットに書く子も多かった

「届かない手紙」コンテスト結果発表!(選評)

教材文化資料館前期企画展「びんせんとペンごっこ:手紙ではじめるクリエイティブ・ライティング」展の関連イベントして、4月~7月の期間に開催しました「届かない手紙」コンテスト。 決して届かない宛て先に手紙を書くという、このナンセンスな企画に、予想を上回る200通のご応募をいただきました。 どの手紙にもなかけがえのない物語が込められていて、受賞作品を決めるなんて、断腸の思いではありますが、図書館スタッフのメンバー(写真)と、今回企画展に協賛いただいたナガサワ文具センターの皆様、そし

絵本『てぶくろ』を語る 7

わたしの『てぶくろ』 今夏、図書館1階PAOの一角で、『てぶくろ』を展示しながら、感想を募集しました。学生の皆さん、あらためて2022年の今、この絵本を読んでみていかがでしたか? この作品では手袋を「強者」である人間が与え、「弱者」であるネズミがその手袋の中で他の動物と協力して冬を越そうとする。全体として「共助」の美しさが描かれているようだが、ラストシーンで「弱者」は「強者」に勝てないという真実が浮かび上がる。まさに、現代社会の理想と現実が内包された作品だ。 ( S.N.

絵本『てぶくろ』を語る 4

第4話 絵と言葉 (須田)手袋から煙突が出ているシーンが三つほど出てきます。最初は煙が少しうっすらと描かれていて、だんだんその煙の色が白くなっていく。私、そこの場面が、非常に印象に残っているんです。彼らは手袋の中で、何か料理をしたり、あるいは暖炉を作っているのかもしれない。火を使うということ、そこに生活や暮らしというものがあるんだなっていうことを、この場面から想像できるのがいいなと思って、この絵を見ていました。礒野先生は、絵について、どんな感想をお持ちですか。 (礒野)そう

絵本『てぶくろ』を語る 3

第3話 てぶくろといぶくろ (礒野)なので、子ども達は絵の細かい部分までしっかり見ているんです。最後の、動物達がいなくなって手袋だけが雪の上に落ちているシーンで「あ、落ちたまま」って言った子がいるんです。これ、一番最初のシーンと同じなんですよね。そのままのアングル。ということは、最初と最後の間に、時間は経過していない。でも、ストーリーは進んでいて、空想の世界、イメージの世界、いろんな世界に子どもたちは旅をしていたんだなと思います。でも最後には、みんな落ちていた場所に帰ってくる

絵本『てぶくろ』を語る 2

第2話 増築の手法 (根本)『てぶくろ』は本を作る者からすると、ほんとに理想的な内容です。このお話、常識的に考えると、“うそ”のお話なんです。いのししは手袋には入らない。でも、子どもからしたら本当に感じる。そういう仕掛けが見事にされている。昔話を絵本化するというのは非常に難しいんです。言葉でいうと、手袋の中に何でも入る、言葉だったら。でも、それを絵にした時に、子どもに本当のことだって思わせるというのは非常に難しい。『てぶくろ』では、「増築」の手法を使っています。何となく大きな

絵本『てぶくろ』を語る 1

第1話 噛まない絵本 (須田)本日、福音館書店で絵本研究に携わっておられる根本栄次さんと、日頃から保育の現場で読み聞かせをされている附属幼稚園の礒野久美子先生にお越し頂きました。まずは自己紹介をお願いします。 (根本)福音館書店の根本栄次と申します。現在47歳、昭和50年生まれのうさぎ年です。中学3年生と1年生の子どもがおります。家に絵本がたくさんありまして、昔家を購入した際に、階段の壁際が全部デッドスペースになるから、そこに本棚を設えました。1,000冊以上の絵本があると