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【空想観光学-3】何が正しく、何が間違っているかは歴史が判断する

人類初の有人動力飛行は1903年12月17日。
ウィルバーとオーヴィルのライト兄弟はノースカロライナ州キティホークの小さな丘で12馬力のエンジンを搭載した「ライトフライヤー号」のフライトを成功させました。

ただし、その記録はわずか12秒間の約37メートルだったそうで、当時の評価は現在ほどのものではなかったとのこと。また、そこからの兄弟の人生は偉業に対する嫉妬や特許を巡る係争など苦悩に満ちたものだったようで、決して栄光を手にした偉人ではありませんでした。

その間、飛行技術そのものが急速に進歩し、ライト兄弟は「過去の人」となり、1912年に兄ウィルバーが病死し、4年後に弟のオーヴィルは飛行機事業から身を引きます。

初飛行から45年後の1948年12月17日。
イギリスに渡っていた「ライトフライヤー号」がワシントン国立博物館に凱旋展示され、兄弟の功績が公式に認められることになりましたが、同年1月にオーヴィルはこの世を去っていましたので、その勇姿を見ることはできませんでした。

空気より重たい機械は飛ばない

当時の科学者の基本的な立ち位置は「機械が飛ぶことは科学的に不可能」というものでしたが、これはそれまでに潤沢な資金を持つ多くの学者や研究者の挑戦がことごとく失敗していた歴史から得た結論のようなものでした。
ところが、その定説を自転車を経営していた民間人兄弟がひっくり返したのですから反発が生まれるのは当然のことだったのかもしれません。

ライト兄弟の成功は独自の飛行技術研究とグライダーによる実験データを組み合わせることで実現されたとされていますが、そこには「有人動力飛行」というテーマにおいて「機械」よりも「人」の操縦技術に重きをおいていたスタンスがあったと感じます。

記録によるとライト兄弟よりも早くアメリカ陸軍が開発した実験的航空機はガソリンエンジンへのこだわりから操縦者の技量を軽視したため、無人で飛ばすことはできたものの、有人飛行の成功はなかったとのこと。
テクノロジーの進化には、それに伴うヒューマンウェアの進化が必要であることをライト兄弟は本能的に知っていたのだと思いますが、これは21世紀における「空飛ぶクルマ」の開発においても重要なファクターであるべきです。

ライトフライヤー号のプロペラはチェーン駆動だったそうですが、2次元の地上を走る自転車の技術を3次元の空間に活用させる点などは温故知新型のイノベーションだと言えます。


ライトフライヤー号

1000年レベルの偉業

20世紀末となる1999年に米国の『LIFE』誌が選んだ「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」の中にライト兄弟の名前を見つけました。それも20位にランクインしています。

その顔ぶれをご覧いただくと…

  1. トーマス・エジソン (アメリカ)

  2. クリストファー・コロンブス (イタリア)

  3. マルティン・ルター (ドイツ)

  4. ガリレオ・ガリレイ (イタリア)

  5. レオナルド・ダ・ヴィンチ (イタリア)

  6. アイザック・ニュートン (イギリス)

  7. フェルディナンド・マゼラン (ポルトガル)

  8. ルイ・パスツール (フランス)

  9. チャールズ・ダーウィン (イギリス)

  10. トーマス・ジェファーソン (アメリカ)

  11. ウィリアム・シェイクスピア (イギリス)

  12. ナポレオン・ボナパルト (フランス)

  13. アドルフ・ヒットラー (ドイツ)

  14. 鄭和 (中国)

  15. ヘンリー・フォード (アメリカ)

  16. ジークムント・フロイト (オーストリア)

  17. リチャード・アークライト (イギリス)

  18. カール・マルクス (ドイツ)

  19. ニコラウス・コペルニクス (ポーランド)

  20. ライト兄弟 (アメリカ)

なんとライト兄弟に続く21位がアインシュタインですから、その評価は相当なものです。
それも100年ではなく1000年レベルでの順位ですから、史実に残る名だたる冒険家や芸術家、政治家なども含めた総合的な影響力です。

彼らが残した名言では「いま間違っていることも、数年後正しいこともある」でしたが、歴史はその価値を数年後ではなく、時間をかけて認めたことになります。

ライト兄弟が残したコトバにこんなフレーズも見つけました。

“飛びたいという欲望は、空という無限の高速道路で空間を自由に飛翔する鳥たちを、うらやましげに見ていた私たちの先祖たちによって、受け継がれてきたものなんだ”


有人動力飛行の前にはエンジンを用いない気球や飛行船による「空の開拓」がありましたし、この『空想観光学』で紹介したジュール・ヴェルヌの小説やダ・ヴィンチの発明などのように人類は想像力の中で様々な「空」を飛んできましたが、その根底にあるのは自由に空を飛ぶ鳥たちへの憧れであり、ライト兄弟もその文脈の中に生きたいと願っていたのでしょう。

「いつか人類も空を飛べる…」という想像力を具体化させる創造力が人類を上へ上へと導いてきました。
21世紀の今、「空飛ぶクルマ」という夢に立ち向かう僕たちの中から遠い未来の『LIFE』誌に掲載される人物が生まれるのかもしれません。

/HYOGO空飛ぶクルマ研究室 CHIEF 江藤 誠晃

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