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君が思い出になる前に

 無事に2回目の混合ワクチン接種を終えた我が家の子犬、副反応でちょっと元気なさげではあるけれど、極端に具合が悪くなったりはしていなくて、とりあえず安心した。

 動物病院の待合室で、高齢の柴犬を連れた老年の夫婦が我が家の子犬を見て「可愛い顔してるわぁ〜」と笑い合ってくれて、なんだかとても嬉しかった。不躾に自分を見る子犬に吠えた柴犬は、夫婦に「コラッ怖くないでしょ!」と笑われていて、不意にこの家族が共に過ごした時間を思って、たまらない気持ちになってしまった。

 あの柴犬は子犬の頃から怖がりだったのかな、昔から夫婦に「怖くないでしょ」と笑われていたのかも。あの夫婦が子犬を見て「かわいい」と思う時、言葉に出さない部分で「懐かしいね、この子もあんな小さかったもんね」と、目の前の子犬と同時に、自分たち家族の思い出を愛しく思っているのかもしれない。そして、目の前の老犬をより愛しく思うのかもしれない。

 全ては想像でしかないけれど、動物病院の帰り道、ああいうふうになりたい、と強く思った。旦那さんと子犬と私と、みんなで一緒に歳をとっていきたい。私たち夫婦が壮年期の終わりに差し掛かる頃、子犬は老犬になっているだろう。健康面の心配事も、動物病院に行く機会も増えるだろう。そのとき、たまたま待合室で一緒になった子犬を見て、「可愛い顔してるね(この子も昔はあんなだったね)」って笑い合いたい。そして、笑い合いながら思い出と目の前の老犬をより愛しく思えるように、そんなふうに生きていきたい。いつか来る別れで心が引き裂かれた後で、思い出を笑って話せるように生きていきたい。

 そのために今、できることをやろう。旦那さんと子犬をめいいっぱい愛そう。たくさん話して、たくさん遊んで、たくさん生活しよう。長く短い犬との今を大事にしよう。子犬よ、できるだけ長く健康で、最後の最後まで、家族でいようね。

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