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どうする茶屋四郎次郎

 2023年のNHK大河ドラマの主人公である徳川家康は筋金入りの健康オタクとしても知られている。

 食事も敢えて粗末なものを食べたり、漢方薬を自分で調合したり、身体鍛錬のため野山に鷹狩りに出かけたりして色々と気を遣っていたらしい。

 そのおかげか、家康は戦国時代にしては珍しく75歳まで生きた。しかも亡くなる前の年まで大阪まで遠征に出かけていたというのだから、死ぬ間際まで元気いっぱいな爺さんだったのだろう。

 そんな家康を死に追いやったのは、矢でも鉄砲でもなく鯛の天ぷらだったと言われている。京都を拠点に活動をしている商人から「これ京都でバズってる食べ物だけどうめえよ」と勧められたものをつい食べ過ぎて、それに当たってしまったというのだ。

 家康に鯛の天ぷらを勧めたのは、茶屋四郎次郎という人であるらしい。

 なんだか昭和の漫才コンビみたいな名前である。スパンコールのスーツに大きな蝶ネクタイを着けてそうなイメージである。

 四郎次郎と言うからには二人組なんだと思っていたが、どうやらピンで活動している人だったようだ。芸人なんだか商人なんだか、二人なんだか一人なんだか色々と紛らわしい奴である。

 しかし、健康に気を遣って粗食に甘んじている75歳の爺さんに対して鯛の天ぷらを勧めるとは、なんつー間の悪い奴だろうか。内臓機能が衰えている年寄りの胃腸に揚げ物をぶち込んだらどんなことが起きるか想像がつかなかったのだろうか。しかも相手はただの爺さんじゃなく、征夷大将軍は退いたとはいえ隠然と権力を持ち続ける「大御所様」である。

 自分が勧めてしまった天ぷらのせいで徳川家康を死に追いやってしまった茶屋四郎次郎の居た堪れなさときたら想像を絶するものがある。「おまえのせいで大御所様死んじゃったよ」などと本田正純あたりに言われたかもしれない。「一人しかいないくせに茶屋四郎次郎とか二人ぶってんじゃねーよ」などと陰口を叩く奴もいたかもしれない。

 今年の大河ドラマの「どうする家康」では、ぜひ天ぷらで家康を殺してしまった茶屋四郎次郎の苦悩や肩身の狭さ、生きづらさみたいなものを描いて欲しいものだと思う。

 ところで、家康が鯛の天ぷらの食べ過ぎで死んだというのは単なる俗説で、実際の死因は胃癌であったというのが有力な説であるらしい。鯛の天ぷらを食べて腹痛を起こしたのは事実のようだが、それは直接的な死因ではないということである。

 茶屋四郎次郎の名誉のためにも良かったと思う。

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