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こちら、日向坂探偵局! File.04「転校生はつらいよ~中編」

翌日。

2年生は入学式に出席する決まりになっているので、登校したら体育館に用意されたパイプ椅子に着席して、新入生の入場を待つ。

◯◯:朔田くんの彼女さん…えっと、宮地さんだっけ?写真もらった?

菜緒:うん。昨日朔田くんからLINEで送られて来たで

菜緒がスマホ画面を向ける。

◯◯:かわいい娘だなぁ

菜緒:セクハラや

◯◯:なんでだよ

ひより:その娘だぁれ?かわいー!

後ろの席のひよたんが身を乗り出す。

菜緒:ある人からの依頼でな、この娘のこと守らなあかんねん

ひより:ふーん。具体的な内容は、あれだ、ヒシュムギってやつだ~

菜緒:それを言うなら守秘義務やろ?

ひより:そーともゆー

菜緒:ほんまひよたんおもろいなぁ

愛奈:ただいまより、平正三十一年度日向坂高校入学式を執り行います。新入生、入場

高瀬教頭の司会で入学式が始まった。

花道を新入生が入場して来る。

僕と菜緒は拍手しながら宮地さんを探す。

菜緒:おった

菜緒が指差した。

僕も見つけた。

ほわっとした感じの美少女だ。

守りたいと思わせる雰囲気がある。

菜緒:今キモいこと考えてへんかったか?

◯◯:そ、ソンナコトナイヨ?

キモいとは心外だが、菜緒の洞察力って時々怖いよなぁ…

新入生が着席する。

菜緒:(小声)宮地さんの周りの様子に目配っときや

◯◯:(小声)了解

宮地さんを見ている人物がいないか自分なりに観察する。

新入生たちは殆どが緊張しているのか、しっかり前を向いている。

粕川校長のスベりまくりの挨拶にも一応耳を傾けているみたいだ。

そっと後ろを向き、父兄席も見てみた。

さすがに入場時にチェックはしているはずだが念のためだ。

怪しい動きをしている人物はいない。

菜緒の目にも特段の異変は察知されていないようだ。

そして、入学式は滞り無く終了した。

 ※

入学式の後、僕ら2年生は2時限の通常通りの授業が終わると下校となった。

朔田くんと、教室でのオリエンテーションが終わった宮地さんと昇降口で落ち合う。

すみれ:宮地すみれです。入学早々先輩たちにご迷惑をお掛けしてすみません

◯◯:迷惑だなんて…

僕は胸の前で手を左右に振った。

菜緒:せやですみれちゃん!これがウチらの仕事やから気にしたらあかん

すみれ:ありがとうございます

菜緒:詳しい話聞かせて欲しいねんけど?

朔田:今日部活休みだから、良かったら新聞部の部室使う?

菜緒:ありがとう。お願いするわ

各学年の教室から渡り廊下で繋がった第二校舎の4階に新聞部の部室があるそうだ。

そういえばまだ学校のどこに何があるか把握していない。

あとで菜緒に案内してもらうか。

僕らは新聞部の部室に移動した。

すみれ:2ヶ月前からなんですけど、帰り道誰かに尾けられている気がして…

菜緒:相手の姿は見た?

宮地さんは首を振った。

すみれ:見てないです。振り向いても誰もいないんです

菜緒:なるほど…

◯◯:他に何か変わったことはあったかな?

朔田:下駄箱に手紙入ってたんだよな?

すみれ:うん…

宮地さんは鞄をごそごそして、1枚の封筒を取り出した。

すみれ:これです

菜緒が受け取り中身を検める。

封筒の宛名も手紙の文面もパソコンで打ったものだろう。

無機質な明朝体だ。

<親愛なる君へ
 こんなにも誰かを愛したことなんてない。
 狂おしい。本当に狂おしい。
 君を幸せにできるのは僕だけなのに。
 何故君はあんな男と付き合っているのか?
 何故あんな男に笑顔を見せるのか?
 君は間違っているよ。
 今すぐ関係を絶ちなさい。
 きっと後悔することになるから。>

菜緒:うわぁ…

◯◯:強烈だな…

全身に悪寒が走った。

菜緒:下駄箱って、中学校の下駄箱?

すみれ:はい

◯◯:じゃあストーカーは中学校の同級生の中に?

菜緒:同級生とは限らんやろ。下級生の可能性もあるし、もしかしたら先生かもしれん

◯◯:容疑者多数だな…

これは調査に骨が折れそうだ。

菜緒:朔田くんはすみれちゃんのストーカーらしき人物は目撃してないん?

朔田:見たことないんだ。すみれからストーカーの話を聞かされたのが確か、1ヶ月くらい前にすみれも誘って友達数人とカラオケ行った帰りで。その夜からすみれと一緒にいる時は注意するようにしてるんだけど、怪しいヤツは見掛けてない

菜緒:そっか…

◯◯:よほど用心深いヤツなんだろうね

菜緒:なんにしてもまずは正体を掴まんと

◯◯:宮地さん。犯人に心当たりある?

すみれ:心当たり、ですか…?

◯◯:例えば、前に付き合ってた男子とか、告白されたことのある男子とか

すみれ:一平くんが初めての彼氏で…それに今まで告白とか、されたことないので…

◯◯:そうなんだ…

こんなにかわいいのに、なんか意外だ。

突然部室の扉がガラリと開いて、全員がビクッと驚き扉を見た。

美玖:あ、ごめん、なんか話し中だった?

金村さんだ。

室内の雰囲気を察したのか、扉の前で立ち止まっている。

首から一眼レフを下げていた。

菜緒:美玖やん。どないしたん?

美玖:朔田に頼まれてた写真持って来たんだけど…

朔田:あ、そうだった。悪い。今日部活休みって伝えるの忘れてた

美玖:そうなの?ちゃんと言ってよー

朔田:ごめんごめん。写真受け取るよ

朔田くんは立ち上がり、金村さんの側へ。

ふと宮地さんを見ると、頬を膨らませて、話している朔田くんと金村さんに視線を向けている。

金村さんに嫉妬してるのかな?

かわいいじゃないか。

僕にもこんなにかわいい彼女がいたらな…

菜緒:キモいで◯◯

◯◯:ひど。ってか菜緒ってエスパーなの?

菜緒:◯◯が分かり易いだけや。ニヤニヤしくさって

◯◯:マジか

慌てて顔の筋肉を取り繕う。

これから部活だという金村さんが去ってからしばらく宮地さんに話を聞いたが、これといった手掛かりを得ることは出来なかった。

僕たちも帰ることにして昇降口へ。

菜緒:ウチらが朔田くんとすみれちゃんが帰ってるだいぶ後ろからこっそり尾行して、ストーカーがおらんか確認するわ

朔田:心強いよ

すみれ:ありがとうございます

先に朔田くんと宮地さんが出て行く。

いい具合に距離が開いたところで、

菜緒:ほな行くで

◯◯:了解

僕らも歩き出す。

菜緒:自然体でな

◯◯:分かってる

距離を開き過ぎず詰め過ぎず。

菜緒の歩調は的確で、僕はそれに合わせて歩を進めていく。

◯◯:朔田くんと金村さんって仲いいんだね

菜緒:幼稚園からの幼馴染みらしいで。校内新聞の写真撮るのもよぉ手伝ってるわ

◯◯:へぇ

菜緒:あー、もしかして美玖のこと気になってるんか?

◯◯:そんなんじゃないよ。朔田さんと金村さんが話してるのを宮地さんほっぺた膨らませて見てたから、嫉妬してんだなかわいいなって思った

菜緒:やっぱキモいこと考えとったんか

◯◯:ジト目やめて頼むから

菜緒:(超小声)◯◯はすみれちゃんみたいなかわいい系がタイプってことなんかな?

◯◯:え?

菜緒:な、なんでもない///

◯◯:なぁ菜緒

菜緒:なんでもないって言ってるやろ///

◯◯:違うよあれ

僕は前方を指差した。

明らかに怪しい動きをしている男が。

時折物陰に隠れ、様子を伺いながら宮地さんたちの後を尾けている。

菜緒:絵に描いたように怪しいやっちゃな

菜緒は顎に指を当て何やら考えている風情。

◯◯:それより捕まえないと!

僕は走り出した。

菜緒:あ、◯◯待って!

菜緒も走って追い掛けて来る。

◯◯:おい君!

慌てて逃げ出そうとする男の肩を掴む。

◯◯:観念しろストーカーめ!

?:ち、違います!

菜緒:その通り!この人やないで!

◯◯:でも宮地さんたちのこと尾けてたろ?

?:そ、それはその…

◯◯:はっきりしろ!

すみれ:あれ、蔵前くん?

蔵前:宮地さんなんとかして!

◯◯:え?知り合い?

すみれ:同じ塾に通ってる子です

蔵前:僕は宮地さんの忘れ物を届けに来ただけなんです!

なんでも、昨日の塾で宮地さんの隣の席に座っていた蔵前くんは、宮地さんがノートを忘れていることに気づいた。

このままでは宮地さんが塾の宿題が出来なくて困るだろうと、蔵前くんは(宮地さんの家は知らないから)学校帰りに日向高の校門前で待っていようと考えた。

蔵前くんは今日隣町の櫻坂高校に入学したらしいばかりらしい(櫻坂高校は私服通学OKと後で知った)。

蔵前:でも道に迷っちゃって…

地図を見るのが苦手な蔵前くん。

スマホのマップを見ても迷いに迷い…

蔵前:ウロウロしてたら偶然宮地さんを見掛けました。でも彼氏さんぽい人といたから、なんとなく声掛け辛くって…

菜緒:そういうことかいな

◯◯:ほんとごめんなさい!

僕は誠心誠意謝った。

蔵前:誤解が解けて良かったです

蔵前くんは鞄からノートを取り出し、

蔵前:はい、宮地さん

すみれ:わざわざありがとう。遠いのにごめんね?

蔵前:全然大丈夫!気にしないで!

顔が真っ赤な蔵前くん。

きっと蔵前くんも宮地さんのこと好きなんだろうなぁ。

宮地さんって、ファンが多そうだ。

つまりそれだけ容疑者がいるってことか。

その後無事宮地さんが家に帰り着いたことを見届けて、僕らも帰宅した。

菜緒:ほんまおっちょこちょいやなぁ

リビングのソファに座った菜緒がケラケラ笑う。

◯◯:てっきりストーカーなのかと…

菜緒:すみれちゃんのストーカーはかなり用心深いヤツやで?普段からあんなあからさまな動きしてたらとっくに姿見られてるやろ?

◯◯:確かに。面目無い

愛萌:失敗は次に活かせばいいんですよ。ファイトです◯◯さん❤️

◯◯:愛萌さん!

マジ天使です!かわいい!

菜緒:…

◯◯:だからジト目やめてって

菜緒:それにもうひとつの可能性も…

◯◯:可能性って?

菜緒:まだ確証無いから言われへん

◯◯:出た。ちょっとだけでいいから聞かせてよ

菜緒:あかん。探偵の良識や

◯◯:なるほど、良識か。確かにいい加減なことは言えないよなぁ…

菜緒:そゆこと

でも気になる。

「確証無いから言われへん」と言う菜緒は、多少なりとも真相への糸口を掴んでいる。

僕なりに考えてみるが、分からない。

脳みそのつくりがやっぱ違うんだろうな。

 ※

翌日。

登校すると、視線が痛い。

だが、昨日までとは打って変わってどこか怖がられているような?

菜緒:◯◯なんかしたん?

◯◯:うーん…?

美玖・明里・ひより:◯◯くーん!!!

3人が僕の机を取り囲む。

明里:◯◯くんって不良だったの!?

◯◯:はぇ?

美玖:道歩いてた少年捕まえてとっちめてたって噂になってるよ

◯◯:うそ…

ひより:ひよたんカツアゲしたって聞いた~

◯◯:そんなことしないよ!

噂の元は蔵前くんの一件に相違なさそうだ。

菜緒:あんだけ大きな声で騒いでたらそりゃ噂にもなるかぁ…

苦笑する菜緒。

転校生ってだけでも目立つのに、こんな噂まで立つなんて。

◯◯:どうなるんだ僕の日向高生活…

僕は机に突っ伏し途方に暮れていると、朔田くんが血相変えてB組に飛び込んで来た。

◯◯:どうしたの?

朔田:すみれの下駄箱に手紙が…

菜緒:なんやて!

僕らは昇降口に向かった。

すみれ:これ…

宮地さんが差し出した手紙を読む。

<親愛なる君へ
 君はやっぱり魅力的だ。
 昨日ノートを渡しに来た櫻坂高校の男子まで夢中じゃないか。
 そんな君を愛することが出来て嬉しい。
 でも僕はまだまだ幸せとは言えない。
 何故愛故の助言を聞き入れないの?
 こんなにも愛しているのに。
 もう一度言うよ。
 今すぐ関係を絶ちなさい。
 後悔することになるから。>

◯◯:昨日の僕らを見てたんだ…

宮地さんのストーカーが側にいたなんて。

あの時人通りはあったが、それらしき人物には全く気づかなかった。

というかそもそも蔵前くんがストーカーだと思って詰め寄っていたから、周りは殆ど見えていなかったに等しい。

◯◯:下駄箱に入ってたってことは、ストーカーは日向高の生徒ってことか?

菜緒:そういうことになるな…

他校の生徒が入って来たら目立つし、教師もこの際容疑者リストから外しても問題無いだろう。

朔田くんが宮地さんを慰めている。

朔田:僕が守るから

すみれ:一平くん…ありがと…

ストーカーめ、ほんと許せない。

菜緒はさっきから考え込んでいる。

◯◯:どうしたの?

菜緒:ん…あとで話す

◯◯:分かった

間も無くホームルームが始まるため、取り敢えずその場は解散することに。

◯◯:手掛かりが無いのが辛いよな

菜緒:そんなことあれへんで

菜緒は毅然と言い放つ。

菜緒:ストーカーの正体、だんだん分かって来たわ

◯◯:ほんとに!?

菜緒:今ウチの考えてることが正しいとしたらやけどな

そこはきっと大丈夫だろう。

菜緒:確証得るために、休み時間使って関係者に話聞くで!

◯◯:了解!

 to be continued…

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