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こちら、日向坂探偵局! File.08「日向商店街狂騒曲~中編2」

菜緒とふたり、<北山デンキ>へ向かっていると、

?:盗まれたぁ!!!

アーケードに響き渡る声。

◯◯:またか!

菜緒:行ってみよ!

声のした店へ駆けつける。

金物屋さんだ。

菜緒:何が盗まれたんですか!?

金物屋店主:おぉ菜緒ちゃん!五寸釘だ!ここに展示してあったのがいつの間にか無くなってんだ!

店主は頭を抱えた。

五寸釘展示してるってどんな趣味だ…

それはさておき。

看板の「あ」、金のレンゲ、五寸釘…共通点はなんだろう?

◯◯:さっぱり分からない

菜緒:湯川先生みたいに「実に面白い」って言ったら張ったおすで!

◯◯:言わないよ…怖いなぁ

菜緒:また史帆さんと陽菜呼ばな…

史帆さんと陽菜ちゃんがやって来た。

史帆:意味わかめ~

陽菜:指紋また出ないんだろうなぁ

鑑識の作業でも、犯人らしき指紋は出なかった、というよりもどこの店も人の出入りがあるため不特定多数の指紋が残されており、これがこうと特定出来ないようだ。

菜緒:せやろなぁ…

◯◯:犯人は手袋してるかもしれないしね

菜緒:まだ盗難事件は続くかもな

史帆:かんべんしてよ~

金物屋店主:菜緒ちゃん頼む!五寸釘取り戻しておくれ!

菜緒:承知しました!

史帆:なんで盗まれた人みんな警察頼ってくれないの~

陽菜:菜緒が主役だからですよ

史帆:あ、そっか~

一刻も早く犯人を突き止めねば。

僕と菜緒は<北山デンキ>に向かう。

店内に入るとエアコンや冷蔵庫などの白物家電からテレビなど、町の電気屋さんをイメージしていた僕が面食らうほどの品揃えだ。

◯◯:これってピタゴラ装置かな?

売り物とは別の棚に幼い頃教育番組で見たことあるようなユニークな手づくり装置が並んでいる。

菜緒:北山さんの趣味らしいで

店先で訪いを入れると、奥から店主の北山太郎さんが出て来てくれた。

窃盗事件のことは商店街中に広まっているらしくすぐに僕たちが来た理由を分かって進んでお話をしてくれたのがありがたい。

昨夜の会合に関して真新しい話は無かった。

北山:<日向屋>で盗難があった時間なら店番をしていたよ。お客さんは来なかったけど

菜緒:そうですか

◯◯:ピタゴラ装置すごいですねぇ

僕は興味津々にピタゴラ装置の棚を眺めた。

北山:◯◯くんも好きなの?

◯◯:子供の頃、よく番組見てたんです。日用品とか上手く使ってすごいなぁって毎回感心していました

北山:僕もその番組見て影響受けてね。気づいたら趣味になっていたよ。SNSとかにも載せててね。装置目当てでお店に来て下さる方もいらっしゃったりして。見る人がどうやったら驚いてくれるかとか考えながら新しい装置を構想するのが楽しくてしょうがないよ

菜緒:商店街盛り上げるのにピタゴラ装置を使った何かをするといいかもしれませんね♪

北山:提案しているんだけどね、商店会長のヤt…極海さんがなかなか賛成してくれなくて参ってるよ。ハハハ

商店会長のヤツ、って言い掛けて誤魔化したことに僕と菜緒は気づいていた。

次に西宮古書店に赴くと、

西宮:ですから、そういうことばかり言ってると本当にモールに客とられちゃいますよ!

店の外にまで響く大声に僕らは店に入るのを躊躇ってしまった。

店主の西宮さんが誰かと揉めている。

菜緒:商店会長の極海さんや

◯◯:あの人が…

迫り出した腹に脂でテカテカのスキンヘッドが特徴的で、細い目が悪賢そうな印象を与えている。

極海:全国の商店街が抱えていると言われている後継者問題は、この商店街とは今のところ無縁なんだから、なんの心配もいらない。現に今もこうして賑わっているじゃないか。これ以上何を望むんだね?

西宮:今、今、今。商店会長は「今」とばかり仰るが、何故商店街の未来のことについて考えないのですか?そっちの方が意味分かりませんよ

極海:さっきから平行線だ。君とは話にならんね。明日のイベントだって、しぶしぶ了承はしたが、モニュメントが出来たところで客寄せになるとは全く思えんね

西宮:帰ってくれ!

極海:言われなくとも

僕と菜緒は慌てて隣の店に入って極海さんをやり過ごす。

西宮さんは店先に塩を撒いていた。

◯◯:北山さんと西宮さん、ふたりとも商店会長と上手くいってないってのは本当みたいだね

菜緒:せやな…

話を聞くのは断念し、西宮さんの怒りがおさまる頃合いを見定めることにした。

菜緒:コロッケでも食べよか

◯◯:いいね

菜緒がすぐそこにあるコロッケ屋へとことこと入っていく。

菜緒:おっちゃん。コロッケふたつ!

コロッケ屋店主:あいよ

菜緒からコロッケを受け取りひと口囓る。

◯◯:うまっ

菜緒:せやろ~?

コロッケを食べながら商店街を歩く。

菜緒:モグモグモグ…こうなったら情報屋のとこに行くしかないな

◯◯:情報屋!?そういう人ほんとにいるんだね

菜緒:おるで。この商店街に

◯◯:へぇ…

情報屋ってどんな感じだろう。

怖い雰囲気の人だったら嫌だな。

チンピラって感じで、ひとつの情報ごとに3万とか5万とか要求する感じの…

◯◯:…って、そんなお金あるの!?

菜緒:あほか。ミステリの読み過ぎや

ケラケラ笑う菜緒。

菜緒:見たら分かるわ♪その前に果物屋行こ

◯◯:なんで?

菜緒:情報屋への報酬を調達するんや♪

 ※

?:スラマッダタン♪

連れて来られた<占い館サリマカシー>にいたのは、抱いていたイメージから全くかけ離れた優しそうな女性だった。

◯◯:この人が情報屋さん?

菜緒:せや。潮紗理菜さん

紗理奈:普段は占い師やってるの

紗理奈さんは僕を上から下まで見、

紗理奈:あなたが◯◯くんね!菜緒ちゃんから聞いてるわよ。親戚なんだってね!

◯◯:そうなんですよ

紗理奈:ほんとに親戚ぃ?

僕の目を覗き込んで来る。

さすが情報屋、鋭いじゃないか。

誤魔化すしかない。

◯◯:ほ、ほんとですよ…

菜緒:そうですよ。何言うてるんですか紗理奈さーん

菜緒が紗理奈さんのパシパシ肩を叩く。

紗理奈:ま、いいわ。それでなんの情報が欲しいの?

菜緒:今商店街で起きてる連続窃盗事件について何かないですかね?

紗理奈:そうねぇ…

紗理奈さんは顎に人差し指を当てて考えていたが、

紗理奈:関係あるかどうかは分かんないけど商店会長に関する噂とかどう?

菜緒:聞きたいです!代価はこちらに…

菜緒が果物屋で買ったものを取り出す。

菜緒:金柑がいーち、にぃい…

袋から出しながら数え、

菜緒:…ろーく、なーな…

紗理奈:はちぃーっ!!!

急に紗理奈さんのテンションが上がる。

菜緒:紗理奈さんは数字の8が好きやねん♪

◯◯:へぇ…

紗理奈:ありがと~

紗理奈さんはウキウキで8個の金柑を受け取ると話し始めた。

紗理奈:日向ドームの横にショッピングモールが出来る予定なのは知ってる?

◯◯:<ひなたモール>ですよね?

西宮さんと極海さんの口論に登場していた。

紗理奈:そ。モールの店舗担当者と極海さんがしょっちゅう会ってるらしいの。どうも商店街から店を何軒かそこに移設する相談をしているって噂よ

菜緒:なるほど…

菜緒は顎に手を当てて思案顔。

紗理奈:最終的には商店街を無くしてマンション建てる計画もあるとか無いとか

菜緒:ほんまですか!?

◯◯:でもその情報、なんかはっきりしませんね

紗理奈:噂レベルだからね

菜緒:その噂がほんまやとすると、商店会長は日向商店街を盛り上げるどころか潰そうとしていることになるな

◯◯:だから商革委員会の提言をなかなかいれてくれないのか

そう考えると納得がいく。

菜緒:紗理奈さん。貴重な情報、ありがとうございました♪

紗理奈:どういたしまして。またいつでも来てね~

<占い館サリマカシー>を出たところで菜緒のスマホが鳴る。

菜緒:お、愛萌からや。もしもし~

愛萌📱:いったい何処までおつかい行ってるのよ!

菜緒:ごめんごめん。商店街で起きた連続窃盗事件に巻き込まれててな…

愛萌📱:そうだったの…その事件、依頼者はいるの?

菜緒:依頼者かぁ…

◯◯:そう言えばあやふやだね。最初に頼まれたのは<あゃめぃちゃん>のふたりからだけど…

その後京子さんや金物屋の店主からも依頼されている。

愛萌📱:その人たちからちゃんと依頼料もらうのよ

菜緒:これは地域貢献やと思うけど…

愛萌📱:探偵局はボランティアじゃないんだから

菜緒:分かった

愛萌📱:おつかいは終わったの?

菜緒:一応な

愛萌📱:じゃあ食材腐ると嫌だからいったん帰って来てよ

菜緒:はいはい

愛萌📱:「はい」は1回

菜緒:はーい

 ※

愛萌:おかえりなさい❤️

はぁ…愛萌さん…かわいい…

…って癒やされている場合じゃない。

事件はまだ解決していないのだ。

菜緒:今日はカレーなん?

愛萌:ご明察❤️

菜緒:メモ見りゃ誰でも分かるって

愛萌:それはそうねぇ

菜緒:ちなみに、愛萌は日向商店街無くなるってなったら、どう思う?

愛萌:え!?無くなっちゃうの!?

菜緒:いやいや、例えばの話

愛萌:びっくりするじゃない。そぉねぇ。うん、めっちゃ困る

菜緒:なんで?

愛萌:あそこに行けばなんでも揃うし、地域密着型っていうかさ、長年愛されて来たからこその良さがある。人情味もあるしね

菜緒:なるほどなぁ

僕は事務所のソファに腰を下ろすとそのおつかいメモに目を落とした。

◯◯:はぁ~あ。今回盗まれたもので何をしたいか、このメモの食材みたいにすぐに分かればいいのにな

菜緒:せやな…

菜緒はハッとして立ち上がった。

菜緒:◯◯今なんて言うた!?

◯◯:え?このメモの食材みたいに何したいかすぐに分かればいいのにな、って…

菜緒:それや!

◯◯:へ?

菜緒:お手柄やで◯◯!!!

菜緒が僕のほっぺを両手で挟みもみゅもみゅしてくる。

◯◯:やめよよ~(やめろよ~)

かと思いきやパッと離れ、

菜緒:危ない危ない。危うく◯◯の毒牙に掛かってまうとこやった

◯◯:なんでだよ。菜緒からやって来たんだろ~

菜緒:思春期真っ只中の猿やのに油断した

◯◯:けだものか僕は…

菜緒:犯人の目星、ついたわ!

◯◯:マジか!?誰なの?

菜緒:それはまだ言われへん。確証を得てからでないとな

いつもの如くである。

菜緒:晩ごはんまでに片つけるで!

◯◯:よっしゃ!

僕はソファから立ち上がった。

愛萌:おいしいカレーつくって待ってますから事件解決して来て下さいね、◯◯さん❤️

◯◯:お任せ下さい!

菜緒:…キモ

見事なアザトウインクに見送られ、菜緒と僕は再び商店街に向かった。

 to be continued…

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