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こちら、日向坂探偵局! File.06「日向商店街狂騒曲~前編」

新学期が始まって最初の週末。

昼食を食べた後、菜緒と一緒に日向商店街へ買い物にやって来た。

愛萌さんにおつかいを頼まれたのだ。

探偵局には臨時休業の札を出している。

菜緒:そういえば◯◯は日向商店街来るん初めてやな?

◯◯:そうだね

商店街は、土曜日ということもあってか、かなりの人で賑わっている。

◯◯:そもそも、商店街ってものに来るの自体初めてかも

菜緒:さすがやな。こういうとこで坊っちゃん出して来るとは

◯◯:やめてくれよ

なんだか自分が恥ずかしくなった。

菜緒:えーと愛萌に頼まれたのは…

菜緒が愛萌さんに託されたメモを開く。

菜緒:じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、豚肉にスパイス各種…今晩はカレーやな♪

◯◯:愛萌さんお手製カレーか…食べる前から美味いって分かるなぁ

菜緒:キモ

◯◯:頼むからジト目やめて

菜緒:◯◯の変態が治ったらやめたるわ

◯◯:僕は変態じゃないよ。健全な思春期男子なだけ

菜緒:つまり変態やろ?思春期男子なんてみんなお猿さんやんか

◯◯:それは偏見だよ。ってかさっきの発言変態要素あった?

菜緒:変態が言うことはみんな変態や

◯◯:探偵とは思えない暴論じゃん

くだらない会話を交わしつつ歩き、八百屋に辿り着く。

八百屋主人:おう菜緒ちゃん。らっしゃい

菜緒:玉ねぎとにんじん、あとじゃがいも。3個ずつちょーだい。おまけしてな

八百屋主人:もちろん!菜緒ちゃんかわいいからよ、いくらでもおまけしてやるぜぇ

菜緒:ありがとうおっちゃん♪

八百屋主人:そちらは彼氏かい?

菜緒:ちゃいますっ///

◯◯:僕は居候の助手です

八百屋主人:居候かい。菜緒ちゃんみたいなかわいい女の子にばっか頼ってないでしっかりしないとだめだぜ?

◯◯:はぁ…恐縮です

なんで初対面の八百屋のオヤジにこんなこと言われないといけないのかと内心思いつつ、案外的を射ている気がした。

菜緒のところにやって来た経緯が経緯だ。

出来れば自分のことは自分で解決したいが僕にはその力が無い。

菜緒に頼るしか無い現状は確かに歯痒い。

菜緒:次はお肉屋さん、と…

?:菜緒ちゃーん!

大きな声に振り返ると、向こうからチーターのような速さでダッシュして来る女性が。

頭につけてるのは猫耳か?

菜緒:ふぇ!?めいめいさん!?

芽依:ちょうどええとこにおったにゃ!

◯◯:「にゃ」?

芽依:にゃ!君が噂の◯◯くんかにゃ?

◯◯:はじめまして。佐々木◯◯です

芽依:はじめまして。東村芽依ですにゃ。猫ですにゃ。よろしくにゃ~

◯◯:猫、なんですね…へぇ…

菜緒:初対面でよぉ呑み込んだな。えらいで◯◯

芽依:って、呑気に自己紹介なんかしてる場合やないにゃー!ふたりともとにかく来るにゃー!

菜緒・◯◯:うわーっ!

ものすごいスピードで腕を引っ張られ、全速力の果てに商店街から少し外れた区域に連れて行かれた。

◯◯:はぁ…はぁ…ここは?…はぁ…はぁ…

菜緒:はぁ…はぁ…芽依さんたちのガールズバーや…はぁ…はぁ…

◯◯:ガールズバー?

店名は…

◯◯:<やめいちゃん>?

菜緒:小さい「や」と小さい「い」は読んだらあかんねんで

◯◯:じゃあ、<めちゃん>?

菜緒:何言うてんねん。「あ」があるやろ。<あゃめぃちゃん>や…って「あ」が無い!

芽依:そうにゃ!「あ」が盗まれたにゃー!

芽依さんが大粒の涙を流し泣きじゃくった。

 ※

店内のカウンター席。

目の前に冷たい麦茶の入ったグラスが置かれる。

彩花:ごめんねこさかな。◯◯くんも。めーめが無理矢理連れて来たみたいで…

芽依さんと一緒に<あゃめぃちゃん>を切り盛りしている高本彩花さんが申し訳無さそうに言った。

その隣では芽依さんがべそをかきながらグラスを磨いている。

◯◯:全然大丈夫です!

菜緒:「あ」が無いことにはいつ気づいたんですか?

彩花:お昼の2時くらいかな。表の掃除しようと思って外に出たら「あ」が無かったの

菜緒:最後に「あ」を見たのは?

彩花:そうだなぁ。店閉めた時にはまだあったと思うから…夜中の3時くらい

犯行は午前3時から午後2時の間。

◯◯:犯行時刻は世間が暗い時間帯に限定出来るんじゃないかな?

菜緒:そうとも限らん。この通りは夜のお店が多いから日中は人通りが極端に少ない。明るくても犯行は可能や

彩花:いたずらじゃないかなぁ

芽依:いたずらにしたって、看板盗むなんてひどいにゃ…ぐすっ

彩花:まぁ店にとったら看板は命。命を削られてるみたいなもんだもんね…

◯◯:警察には連絡しました?

芽依:そう言えばまだにゃ

彩花:めーめ掛けてよ。あたし電話すんの苦手だから

芽依:めいも苦手…あやが掛けてにゃ~

彩花:えー

◯◯:あの…良かったら掛けましょうか?

彩花:ほんと!?ありがと~

芽依:◯◯くん頼もしいにゃ~

◯◯:このくらいお安い御用ですよ!

菜緒:鼻の下伸びてんで変態

◯◯:ジト目やめろっての

菜緒:「あ」の行方、ウチらも調査します

彩花:こさかなありがと~

芽依:頼りにしてるにゃ~

 ※

間も無くして日向署から史帆さんと陽菜ちゃんがやって来た。

史帆:あや~、めいめい~、おひさ~

陽菜:お久しぶりです!

彩花:やっほー

芽依:ほんま久しぶりにゃ~

史帆さん、彩花さん、芽依さんは日向高の同級生だそうだ。

彩花:KAWADAさんやっぱかわい~

陽菜:そんな照れますぅ

芽依:また飲みに来てにゃ~

史帆:分かった~。久美も連れて来るね~

再会の挨拶を終え、事情聴取へ。

先程聞いた内容は菜緒が説明した。

史帆:なるほど~。昨夜来てたお客さんはどんな人~?

彩花:ショウカク委員会の人たちだよ

◯◯:ショウカク委員会ってなんですか?

彩花:日向商店街革新委員会。略して商革委員会。日向商店街をもっと盛り上げていこうって、有志でつくった会みたい。その会合の二次会やってたの。会合って言っても実質ただの飲み会だろうけどね

陽菜:その中にマル被がいるんじゃ?

菜緒:可能性はあるわな

史帆:頭いいねぇ陽菜~ヨシヨシ~

陽菜:えへへ

菜緒:商革委員会の人らに話聞きに行なあかんな

◯◯:そうだね

史帆:来てた面子は~?

彩花さん曰く、

菓子舗東川店主 東川邦夫

西宮古書店店主 西宮壮亮

河南精肉店店主 河南浩一

北山デンキ店主 北山太郎

以上4名。

河南さんが委員長だそうな。

菜緒:よし◯◯。早速聞き込みや!

◯◯:オッケー

史帆:ご協力感謝だよ~

陽菜:手分けしていこう♪

菜緒:せやな♪

史帆さんと陽菜ちゃんが東川さんと西宮さんを担当し、僕らは残りのふたりに話を聞きにいくことになった。

河南精肉店を目指して歩く。

◯◯:それにしても、なんで看板の「あ」を盗んだんだろう?

菜緒:さてなぁ、皆目分からんわ

◯◯:分からないなんて、菜緒にしては珍しいじゃん

菜緒:あまりにも突飛過ぎるし、まだ調査は始まったばっかりやからな。予断を持たずきちんと事実だけを積み重ねていかんと

◯◯:なるほどね

ラーメン屋の前を通り掛かると、

菜緒:◯◯教えといたる。ここが日向屋や。おいしいチゲ味噌ラーメン食べれるラーメン屋でな、愛萌とよく行くねん

◯◯:へぇ。食べてみたいなぁ

店先に掲げられている看板を見ると、昼は午前11時から午後2時まで、夜は午後5時から夜中の2時まで開いているらしい。

現在は午後3時なので準備中の札が掛かっている。

◯◯:ん?

客はいないはずなのに店内が騒がしい。

菜緒:入ってみよ!

菜緒について店内に足を踏み入れる。

?:えーマジかどーしよ…

割烹着を着た美人が困っていた。

いい声だなぁ。

カッコいいハスキーボイスである。

相当動揺しているのか僕らが入って来たことにも気づいていないらしい。

菜緒:何かあったんですか京子さん?

京子さんと呼ばれた割烹着美人がびっくりしたようにこちらを向く。

京子:菜緒ちゃーん!助けてマジでー!

菜緒に縋りつく。

つけている名札を見ると、店長の齊藤京子さんと言うらしい。

京子:金のレンゲが無くなったの!

菜緒:金のレンゲ?

京子:県民中華えいよう賞獲った時のトロフィーについてる金のレンゲが!

京子さんが涙目で訴える。

トロフィーはカウンター席の一段高くなっている場所に置かれているのだが、

菜緒:ほんまやあれへん…

◯◯:いつ気づいたんですか?

京子:さっき。11時に店開けた時は確かにあったのに!

菜緒:トロフィー倒したはずみで取れちゃったとか?

京子:倒してないし

◯◯:元々取れやすかったとかでもないですか?

京子:そんなヤワなつくりじゃない。お、もしかして君が◯◯くん?

◯◯:そうです。はじめまして

京子:菜緒ちゃんのヒモの?

◯◯:違いますよ!誰がそんなことを?

京子:八百屋のおじさん

あのオヤジめ…

菜緒:◯◯、これ見てみ

◯◯:ん?

菜緒:カッターかなんかで切った跡や

◯◯:ほんとだ!

菜緒:トロフィー自体はプラスチックで出来てるから切るのは容易かったやろな

◯◯:じゃあ誰かが盗んだ?

菜緒:おそらく

京子:マジか…

菜緒:京子さん。2時から3時の間、店から出たってことは無いですか?

京子:2時10分から30分くらい買い出しで店空けた

菜緒:その時入口に鍵は掛けましたか?

京子:ちょろっと買い物するだけだったから掛けなかった…

菜緒:その隙に盗まれたんやろな

◯◯:なぁ菜緒。同じ日に近い場所で盗難事件が2件起きた。これって偶然かな?

菜緒:ちゃうと思う。看板の「あ」と金のレンゲにいったいどんな繋がりが…

菜緒は顎に手を当て考え込んだ。

 to be continued…

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