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日向探スピンオフ おひさまにほえろ!~としひな刑事~ 第1話「撹乱」

ある日の午後。

日向駅前のファミリーレストラン<サニーデイズ>の周辺は騒然としていた。

複数の警察車両が建物を取り囲み、捜査員たちが緊張の面持ちで配置についている。

サブマシンガンで武装した犯人が20人の人質を取って立て籠もってから2時間余り。

膠着状態が続いている。

そして今、2回目の銃声が聞こえた。

刑事①:ボス!またです!

久美:エスカレートしてるわね…

現場の指揮を執る日向署刑事課課長・佐々木久美警部は拡声機を手にした。

久美:犯人に告ぐ!現場は完全に包囲した!武器を捨てて投降しろ!おふくろさんが泣いてるぞ!

刑事①:(小声)説得ワード古過ぎかよ

刑事②:(小声)さすが昭和生まれ

久美:誰が昭和生まれだ!

刑事①②:ひぇっ

久美:(まだぴちぴちの28歳だっつの)

犯人のリアクションは返って来ない。

久美は歯噛みした。

逃走用の車両を要求して以降、説得には聞く耳を持たない。

期限は正午。

あと10分しかない。

なんとか引き伸ばしたいところだ。

久美がふと辺りを見回すと、

久美:ねぇ。筋トレとコソ泥は?

刑事①:あれ?

刑事②:そういえば…

久美:あいつらまた勝手に!

 ※

<サニーデイズ>の裏口。

こそこそ動くふたり組がいた。

ひとりは、どことなくへにょへにょした美形の女。

もうひとりは、ザ・後輩な雰囲気をまとったかわいい系の女。

こう見えてこのふたり、刑事である。

日向署刑事課捜査一係に所属する加藤史帆巡査部長と河田陽菜巡査だ。

史帆:(小声)陽菜行くよ~

陽菜:(小声)はい

史帆が裏口のノブに手を掛けた。

ゆっくりとドアを手前に引く。

少し開けた隙間から中を覗いた。

誰もいない。

ふたりは素早く侵入した。

拳銃を構える。

史帆は、S&W・M586・ししカスタム。

陽菜は、コルト・パイソン。

弾丸が装填されていることを確認して頷き合うと、犯人と人質がいるフロアへ向かった。

ドアをそっと開け、中の様子を伺う。

人質はドリンクバー・カウンターの側に固まっている。

覆面を被った犯人は厨房の内側にいた。

人質たちは怯えて声も出せないようだ。

犯人は威嚇のためか、天井に向けてサブマシンガンを発砲した。

人質:きゃー!

陽菜はゆっくりドアを閉じた。

陽菜:やっぱ無理ですぅ

史帆:ここまで来て何言ってんの~

史帆が陽菜の頭を優しく撫でる。

史帆:陽菜なら大丈夫だよ~

陽菜:はい。あたし頑張ります

史帆:えらいよ~

陽菜:えへへ

呼吸を合わせ一気にドアを開けた。

フロアに躍り出る。

史帆:警察だ~!

陽菜:動かないで下さい!

犯人:くそ!

犯人が撃ってきた。

素早く物陰に隠れる。

犯人の乱射で椅子や備品が弾け飛ぶ。

人質が悲鳴を上げた。

動けない。

陽菜:ヤバくないですか!?

史帆:くぅ~

タイミングを縫って撃ち返すも防戦一方。

人質を逃がすことも出来ない。

乱射が止んだ。

リロードか?

史帆がすかさず銃撃する。

犯人は厨房のカウンターの下に隠れた。

史帆:今です逃げて~!

陽菜:走って下さい!

犯人の隙をついて人質たちを自動ドアから外へ逃がす。

犯人はカウンターの陰に隠れたまま撃ってこない。

恐る恐る近づき、せーのでカウンターの下に銃を向けた。

が、誰もいない。

犯人の被っていた覆面と上着、サブマシンガンが残されていた。

史帆:あ~!

陽菜:まさか!

犯人は人質に紛れてまんまと逃げ出したのかもしれない。

陽菜:怒られるしかねぇので…

史帆:くぅ~

 ※

日向署刑事課。

史帆と陽菜は課長デスクの前で久美に説教を喰らっていた。

久美:この大ばかもの!

久美の雷に史帆と陽菜は小さくなった。

史帆:やっちまいました~

陽菜:ごめんなさぁい

人質に紛れて逃げ出した犯人はその後も逃走を続けており、半径4キロメートルの緊急配備にも引っ掛からず、足取りは不明だった。

レジの金は全て持ち去られている。

久美:スタンドプレーで失敗するっていちばんカッコ悪いやつだよ!

史帆:ごめん久美~

久美:職場ではボスとお呼び!

史帆:イエス!マイ・ボス!

陽菜:許して下さ~い

久美:コソ泥はかわいいから許しちゃう♪

陽菜:やったぁ

史帆:ひーきだひーきだ~

久美は溜息をつくと、

久美:筋トレ!コソ泥!全力でホシをあげなさい!

史帆:分かった~!

陽菜:やるしかねぇので

史帆:てかボス~。あだ名やめな~い?なんで筋トレなのかマジで意味不明~

陽菜:あたし刑事なのにコソ泥です…

久美:いいじゃん!「太陽にほえろ」みたいでさ!

久美は刑事ドラマオタクで、課長になったら自分をボスと呼ばせ、部下を渾名で呼ぶことが夢だったのである。

史帆:まぁ別にいいけど~。陽菜行くよ~

陽菜:はいっ

ふたりはデカ部屋を出て行った。

久美は立ち上がり窓辺に立つとブラインドを指で押し下げた。

久美:それにしても、ホシはいったいどこへ行ったのかしら?

 ※

史帆:捜査♪捜査♪捜査~♪

陽菜:名誉挽回しなきゃです

覆面パトカーとして使用しているレパードに乗り込む。

ゴールドの車体が眩しい。

史帆:陽菜。レッツゴ~!

陽菜:了解です

エンジンをかけた。

乾いた始動音が響く。

レパードはタイヤスモークを上げながら日向署を出発した。

レパードは日向駅前から2キロメートル程西へ行ったところの住宅街へ向かった。

その住宅街にあるコンビニの防犯カメラにバイクに乗って逃走する犯人らしき人物の姿が捉えられたのだ。

判明している最後の足取りである。

コインパーキングに駐車し、歩く。

陽菜:このコンビニです

史帆:ここから途絶えたか~。どっちへ逃げたの~?

陽菜:あっちです

陽菜は西を指差した。

その先には依然検問が敷かれていて厳重にチェックされている。

史帆:検問にも引っ掛かんないし、バイクも乗り捨てられていないんだよね~

陽菜:犯人消えちゃいました

史帆:ここら辺歩いてみよ~

陽菜:はい

閑静な住宅街だ。

駐車されているバイクを見つければ車種を確認し、隠せそうな場所があれば捜索した。

やがて住宅街の端まで来た。

史帆:どこか別のとこに隠れてんのかな~

陽菜:あ!史帆さんあれ!

史帆:ん~?どした~?

陽菜が指差したのは瀟洒な2階建て。

陽菜:電話線が切れてます

史帆:ほんとだね~

切れた電話線が庭木に引っ掛かりだらりと垂れ下がっている。

史帆:ちょっと話聞いてみよっか~

陽菜:はい

表札には「田岡」とあった。

陽菜がインターホンを押す。

20代前半くらいの男が出て来た。

警察手帳を提示し、

史帆:日向署の者ですけど~、ちょっといいですか~?

陽菜がメモ帳を開く。

男:なんでしょう?

史帆:駅前のファミレスで立て籠もり事件があったのご存知ですか~?

男:はい。ニュースで観ました。

史帆:この付近に犯人が逃げて来た可能性があるんですけど~、怪しい人見かけたりしませんでした~?

男:分かりません。ずっと家にいたもので

史帆:そうですか~

陽菜:電話線が切れてますね

男:あぁ…あれは…そうそう…この間風が強かったでしょ?その時に切れちゃったんです

陽菜:なるほど

陽菜はメモした。

史帆は玄関から室内を伺った。

靴脱には男物の革靴が1足、男ものと女もののサンダルが1足ずつ。

男はスニーカーを履いていた。

廊下の奥がリビングだろうか?

なんとなく人の気配がする。

史帆:ご家族は~?

男:両親とも仕事です。僕は大学生ですけど今日は講義が無くて…

史帆:そうですか~。ありがとうございました~

陽菜:お邪魔しました

田岡家を離れる。

史帆:気づいた~?

陽菜:はい

史帆:嘘ついてるね~

陽菜:あたしも思いました

史帆:お~。えらいね~

陽菜:えへへ

史帆:いっちょ調べますか~

陽菜:了解です

去っていくふたりを男が玄関からじっと見つめていた。

 ※

鑑識係の渡邉美穂巡査長が報告書を持って久美のデスクにやって来た。

美穂:マル被の身元が分かりました!

久美:でかしたぞ、マルや!

美穂:あたしマル天なんですけどぉ❤️

久美:いいから報告!

美穂:はぁい

<サニーデイズ>の防犯カメラを解析した結果、前科者リストに該当者がいた。

美穂:崎山也弘。23歳。強盗傷害のマエがありました。2ヶ月前に出所後行方が分からなくなっています

久美:すぐ手配して!

刑事①②:はい!

美穂:崎山には親しくなった受刑者がいてその人物も同日に出所し現在所在不明です

久美:そいつも?なんか匂うわね…

美穂:あたしさっき<日向屋>のにんにくマシマシチゲ味噌ラーメン食べました

久美:だからかぁ…ってそうじゃない!変なとこでボケるな。でも確かににんにく臭い…

美穂:てへぺろ

久美:で、そいつの身元は?

美穂:山竹範隆。48歳。金庫破りです

 ※

崎山:山竹さん、まだっすか?

山竹:慌てんなよ。もうちょいだ

崎山は焦った。

刑事が訪ねて来たからだ。

バレたかもしれない。

金庫は山竹曰く複雑な構造らしい。

作業開始から4時間あまり。

ダイヤルを慎重に回している。

山竹:任せとけって

崎山はイライラしながら煙草を咥えた。

 ※

田岡家を辞去した後、史帆と陽菜は付近で聞き込みを開始した

気づいたことはふたつ。

家人は出掛けているはずなのに靴脱ぎには革靴があった。

誰かもうひとり中にいるのではないか?

電話線は大風の日に切れたと男は言ったが、よく見ると人為的に切断された形跡がある。

明らかに怪しい。

ふたりは田岡家の2軒隣の住人に話を聞くことにした。

インターホンを鳴らすと出て来たのは噂話が好きそうなおばさんである。

史帆:田岡さんについてお伺いしたいんですけど~

女:なんか事件?

陽菜:いえ、そういうわけでは

史帆:今お訪ねしたら、大学生の息子さんがいらっしゃったんですけど~

女:あら。おかしいわね。田岡さんの息子さんなら家を出て乃木市で働きながらひとり暮らしのはずよ

史帆:大学生じゃないんですか~?

女:違うわよ

陽菜:じゃああの家に住んでるのはご夫婦だけですか?

女:祖父母も同居してるわ。毎朝ふたりでここから5キロ先の公園まで散歩に行くのが日課みたいよ

5キロ先ということは検問の外だ。

犯人が逃走中のため、検問の内外の出入りは現在制限されている。

女:立て籠もり犯が逃げているせいでまだ帰って来れてないみたい。あ、まさかその事件と関係あるの?

おばさんの好奇心が刺激されてきたところで聞き込みを切り上げた。

陽菜:ますます怪しいです

史帆:だね~

その時史帆のスマホが鳴った。

史帆:久美からだ~。もしもし~

久美📱:マル被の氏名が判明した

久美は情報を簡潔に伝えると、

久美📱:それで筋トレ今どこ?

史帆:気になる家を見つけて、付近で聞き込みしてるとこ~

久美📱:気になる家?

史帆:そうなの~

事情をかいつまんで説明する。

久美📱:絶対怪しいじゃん!崎山と山竹の写真送るから家にいた男の顔と比べて!

スマホにデータが送られて来た。

史帆:どれどれ~

陽菜:あたしも見たいです

史帆・陽菜:あ~!

崎山と田岡家の男は同一人物だった。

陽菜:ビンゴです!

史帆:久美~。崎山だよ~

久美📱:ボスでしょ!

史帆:めんどくさ~

久美📱:よくやった!

史帆:イエ~イ!じゃあさ、頼みがあるんだけど~

史帆は崎山、山竹のどちらかと田岡家に繋がりがあるかどうか調べるように頼んだ。

久美📱:秒でやる

史帆:よろしくねボス~

史帆は通話を切った。

陽菜:大当たりですね

史帆:陽菜お手柄だね~

陽菜:えへへ

史帆:じゃあここで見張ろっか~

陽菜:はい!

 ※

刑事①:ボス!分かりました!

久美:仕事早いね!

刑事①と刑事②は乃木市に住む田岡家長男・次英の職場を訪ね、話を聞いてきたのだ。

刑事②:田岡次英と崎山は友人でした

田岡家は日向市で工務店を経営しており、相当な貯えがあるらしい。

史帆たちが見張っている家には大きな金庫があり、中には資産の一部が保管されているという。

刑事①:金庫について田岡は崎山に話したことがあるそうです

久美:中身はなんなの?

刑事②:田岡も詳しいことは知らないと言ってました

刑事①:おそらく札束ではないかと

久美:うむむ。分かった。早速筋トレとコソ泥の応援に回ってちょうだい

刑事①②:了解!

ふたりがデカ部屋を出て行くと、久美は窓辺に立ってブラインドを指で押し下げた。

久:正念場ね…

 ※

田岡家から100メートル離れた場所にゴールドのレパードが停まっている。

陽菜:あんぱんと牛乳です

史帆:張り込みの定番じゃ~ん。サンキュ~

もぐもぐ食べながら田岡家を見張る。

史帆:あたし思ったんだけどさ~。ファミレス強盗はそれ自体が目的じゃなかった気がするんだよね~

陽菜:どういうことですか?

史帆:立て籠もりが起こったらキンパイ(緊急配備)掛けるじゃ~ん。それを崎山たちは逆手に取ったんだよ~。検問して通行人の出入りを制限するから、お散歩に出てるおじいちゃんとおばあちゃんは帰って来れなくなっちゃう~

陽菜:次英さんの両親は共働きで家にいないですし…

史帆:田岡家は無人になるよね~。道は封鎖されてるし、犯人が逃げ回ってる間は家の人が帰って来る心配もないわけだし~。そのためにファミレス強盗して立て籠もりまでしたんだよきっと~。金庫を開ける時間を稼ごうとしたんだね~

陽菜:すごいです史帆さん!

史帆:としちゃんは最強だからね~

 ※

ガチャ…

山竹:おい。開いたぞ!

崎山:マジすかっ!

崎山が山竹に駆け寄る。

山竹が金庫の重い扉を開けると、

崎山:金だぁっ!!!

札束がぎっしりと詰まっていた。

鞄に詰めるだけ詰め込んだ。

山竹:さっさとズラかるぞ

ふたりは玄関に向かった。

 ※

陽菜:あ!史帆さんあれ!

史帆:ん~?

田岡家からふたりの男が出て来た。

ひとりは崎山だ。

もうひとりが山竹だろう。

スマホで顔写真を確認する。

陽菜:間違いないです

史帆:やっぱグルか~。行くよ陽菜~

史帆が出て行こうとする。

陽菜:でもまだ応援が…

史帆:スタンドプレーの失敗はスタンドプレーで取り返せってことわざあるでしょ~?

陽菜:そんなことわざ無いですよぉ。いやあるのかなぁ?分かんないです

史帆:とにかく行くよ~

史帆と陽菜はレパードを飛び出した。

銃を構える。

史帆:警察だ~!

陽菜:動かないで下さい!

崎山:またお前らか!

崎山がサブマシンガンを乱射する。

史帆・陽菜:きゃ~!

慌ててレパードの陰に退避する。

レパードがたちまち蜂の巣になった。

ガラスが砕け散る。

史帆:この~!としちゃん怒ったもんね~!

陽菜:レパードの仇!

史帆と陽菜も負けじと応戦する。

閑静な住宅街で銃撃戦が始まった。

銃撃の合間を縫って、山竹がガレージを開けると2台のバイクがあった。

陽菜:史帆さん!バイクです!

史帆:逃げる気だな~。そうはさせるか~

バイクに駆け寄る山竹の足元を銃撃して足止めし、すかさずバイクを撃った。

銃弾がバイクの前輪タイヤをぶち抜く。

史帆:としちゃんナイシュ~

山竹:くっそー!

山竹は北へ走り始めた。

史帆:陽菜追って~!

陽菜:はい!

史帆が掩護射撃で崎山を牽制する。

崎山の銃撃の隙をついて陽菜はダッシュして山竹を追った。

陽菜:待てー!

崎山は執拗に銃撃してくる。

史帆が撃ち返せない間に崎山はバイクに跨りエンジンを掛けた。

史帆:逃がすか~!

意を決してレパードの陰から飛び出す。

続けざまに撃つが躱されてしまう。

ガレージから躍り出た崎山はレパードのオイルタンクをぶち抜いた。

レパードは爆発した。

史帆:ぬわ~っ!

衝撃で史帆は吹っ飛ばされた。

史帆:ててて~

遠ざかる崎山に銃撃するも当たらない。

史帆:どうしよ~。またスタンドプレーで失敗したら久美になんて言われるか分かんないよ~

途方に暮れていると、

?:お困りかな?

GSX‐R1100が止まり、乗っている中年男性に声を掛けられた。

史帆:(聞いたことある声だな~)

?:私ですよ

男がヘルメットを脱いだ。

史帆:あ~!校長先生~!

史帆の母校、日向坂高校の校長を務めている粕川俊則先生だった。

史帆:こんなとこで何してるんですか~?

粕川:暇だったから愛車を乗り回していたんだよ。そしたら爆発しててさ。いや参ったよ

史帆:ちょうどいいや~。先生このバイク貸して下さ~い!

粕川:だめだよ

史帆:緊急事態なんです~!

粕川:だからだめだって

史帆:じゃあもういいです~

粕川:貸すよ!

粕川校長はバイクを降り、ヘルメットを史帆に渡した。

粕川:壊すなよ。絶対壊すな!

史帆:フリにしか聞こえないです~

粕川:ちゃんとヘルメットも被りなさいよ警官なんだから

史帆:分かってますよ~

ヘルメットを被ろうとしたが、

史帆:うわ!くちゃ~!

粕川:そんな臭くないだろ

史帆:昨日醤油でシャンプーしました~?

粕川:んなわけあるか!

史帆:ノーヘルでいいや~

史帆はヘルメットを粕川校長に渡すと、

史帆:若森先生によろしくお伝え下さ~い

エンジンを吹かし崎山の追跡を開始した。

史帆はスマホをブルートゥースに接続し、イヤホンをはめて美穂の番号に架電した。

美穂📱:はいはーい

史帆:崎山をバイクで追跡中なんだけど~

美穂📱:マジすか!?スピーカーに切り替えます!ボスぅ!

久美が出た。

久美📱:あんたまた勝手なことを!

史帆:お説教は後で聞くから~

史帆は加速した。

信号の無い住宅街を猛スピードで駆け抜けていく。

崎山を捉えた。

間も無く大通りに差し掛かる。

史帆:美穂~。あたしのスマホをGPSで追跡して信号全部青にしてくれな~い?ハッキング得意でしょ~?

久美📱:筋トレ!あんた何言っt…

美穂📱:やりまひょ

久美📱:快諾すんじゃないわよ!

史帆:サンキュ~!今度<日向屋>で奢ったげる~

美穂📱:あざす!

久美📱:私は何も聞かなかったー

美穂📱:ちなみに崎山はオートレーサー目指してたらしくて、相当バイクの運転上手いんで気をつけて!それじゃ!

切られた。

史帆:マジか~。でもやるしかな~い!

史帆は風に髪をなびかせて激走した。

 ※

陽菜は山竹を追って疾走していた。

元日向高陸上部だった脚力を活かして追跡する。

山竹も年齢の割にはなかなかの健脚で、大金の入ったバックを持っているにも関わらず疲れを見せずに全力疾走。

走りながらでは銃も撃てない。

陽菜:待てぇ!

と言って止まってくれれば世話は無い。

川沿いの道に入った。

山竹は堤防を駆け下りると係留してあったモーターボートを盗み、エンジンを始動した。

陽菜:せこいよぉ

陽菜は速力を上げた。

モーターボートを追跡する。

さすがに距離が開く。

間も無く川は左へカーブするはずだ。

近道することにした。

路地を駆け抜け、民家の敷地を飛び越え、ゴミ箱を蹴飛ばす度に謝りながら、ボートの進行方向へ先回りする。

辿り着いた橋の上で、陽菜はコルト・パイソンを構えた。

 ※

崎山のバイク・テクニックに翻弄されるも、史帆は持ち前の反射神経で食らいつく。

美穂のお陰で交通統制は完璧。

追跡はスムーズだった。

振り向きざまの射撃を躱しながらタイミングを計る。

長い直線の道に出た。

崎山を射程圏内に捕捉する。

史帆:今だ~!

史帆は44マグナムを抜き、ハンドルから両手を離して構えた。

史帆:いっけ~!

史帆は発砲した。

 ※

陽菜:当たれぇ!

いちかばちか、陽菜は発砲した。

 ※

史帆の放った弾丸は崎山の右肩に命中し、衝撃で彼はバイクから放り出された。

道路をゴロゴロ転がる。

バイクは横転し火花を散らしながら数メートル先まで引き摺られて爆発した。

 ※

陽菜の放った弾丸が山竹の左肩を撃ち抜く。

山竹はボートから川に転落し、ボートは河原に乗り上げて炎上した。

 ※

史帆:おわ~っ

発砲直後、史帆はバランスを崩した。

慌てて急ブレーキを掛けたが間に合わず、バイクごと転倒する。

史帆:いてて~

受け身を取ったので体は無傷だったが、バイクはめちゃくちゃに壊れてしまった。

史帆:あちゃ~。先生に怒られちゃう…

史帆は立ち上がり、

史帆:午後4時32分、確保~!

呻く崎山に手錠を掛けた。

 ※

陽菜:当たったぁ!

陽菜は河原に降りた。

山竹はなんとか自力で岸まで泳ぎ着いたが、待ち受けていた陽菜に手錠を掛けられ観念した。

 ※

史帆:ぷはぁ~

史帆は丼に残ったスープを飲み干して人心地ついた。

史帆:仕事終わりのチゲ味噌ラーメンは最高だね~

陽菜:今日もめちゃくちゃ美味しいです京子さん

京子:いつもありがとう

<日向屋>の店主、齊藤京子がクールな声音と笑顔で応えた。

京子は史帆と久美の同級生で、同じ日向坂高校出身だ。

京子が日向商店街に開店した日向屋はチゲ味噌ラーメンが名物の旨いラーメン屋として最近注目され始めている。

久美から犯人確保を讃えられつつ大目玉を喰らい、大量の始末書と報告書を書き終えた史帆と陽菜は行きつけの日向屋で遅めの夕食を摂っているのだった。

逮捕された犯人たちの供述は史帆が推理した通りの内容で、ファミレス強盗は金庫破りのための布石でしか無かったようだ。

引き戸の開く音が来客を告げる。

京子:いらっしゃい!

日向坂探偵局の小坂菜緒と佐々木◯◯だ。

史帆:こしゃと◯◯くんだ~

陽菜:やっほー

菜緒:こんばんは♪

◯◯:お疲れ様です

菜緒と◯◯はチゲ味噌ラーメンを注文した。

史帆:随分遅いんだね~

菜緒:1日掛けて行方不明になった子猫探してたんです

陽菜:猫ちゃん見つかったの?

◯◯:うん。無事見つかったよ

陽菜:良かったぁ

菜緒:お手柄やったみたいですね!

史帆:もう知ってんの~?

陽菜:頑張ったんだぁ

◯◯:史帆さんはすごいバイク・チェイス繰り広げたとか?

史帆:それほどでも~

◯◯:ネットニュースで取り上げられてましたよ。ノーヘル刑事と激走刑事って

陽菜:走るの得意なんだ

史帆:ノーヘルのことは言わないで~

史帆は久美のお説教を思い出した。

 ※

久美:この大ばかもの!警官がノーヘルでバイク乗ってどうすんの!

史帆:だってヘルメットくちゃかったんだも~ん

久美:あほな理由を真顔で言うな

美穂:SNSでめっちゃバズってますよ

史帆:えっ!マジで~?

陽菜:史帆さん有名人です

史帆:全然嬉しくないよ~

バイクの修理代は史帆の給料から差っ引かれることになったのだった。

 ※

史帆・陽菜:ごちそうさまでした~

史帆と陽菜は<日向屋>を出た。

史帆:すごい1日だったね~

陽菜:濃かったですねぇ

田岡家の金庫には無傷の札束が戻された。

普通ならば金庫が家族以外の者にあけられそうになると警報装置が作動するのだが、旧式の設備だし、電話線が切られていたためどこにも通報されなかったのだそうだ。

史帆:明日からは地道な裏付け捜査か~

陽菜:一緒に頑張りましょ

史帆:ほんといい子だね陽菜は~

史帆が陽菜の頭を撫でる。

陽菜:えへへ

ふたりはきゃっきゃしながら、夜の日向商店街を歩いて行った。

 to be continued…

 ※

~次回予告~

美穂:お・ひ・さ・ま・に・ほ・え・ろ・!

史帆:やっぱやだ~

陽菜:わがまま言わないで下さい

美穂:ふたりとも巫女姿似合ってる!

史帆:なんでとしちゃんがこんな格好しなきゃいけないの~

日向:恥ずかしいけどこれも捜査だから仕方無いです

美穂:というわけで!

史帆:次回、おひさまにほえろ!

陽菜:「巫女」!

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