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双眼実体顕微鏡のフレア解消法

はじめに

最近購入した廉価品の双眼実体顕微鏡で白い背景で虫を観察すると、視野全体に白っぽいフレアが広がり、まったく使い物にならないことが判明した。廉価品とは言っても、メーカー希望小売価格10万円、実勢価格4万数千円である。実に落胆させられたが、ローテクの工夫でフレアをほぼ解消し、劇的にコントラストを上げることができた(トップ画像参照)。材料はタダ同然の簡単な工作でできるので、紹介する。

フレアの発生と対策の原理

フレアとは、像の形成に寄与しない光(迷光)が過剰に光学系に入射して、像が広範囲に白っぽくなる現象である。白い背景で虫を観察する場合、背景からの過剰な白色光が様々な方向から対物レンズに入射してしまう(下図)。

このような光は光学系内部で反射を繰り返し、焦点を結ばない広がった光として接眼レンズから出射し、フレアとして観測される。したがって、下図に示したように、対物レンズの下に遮光フードを取り付けて、迷光の入射をできるだけ遮断すると、フレアを抑制することができる。

遮光フードの作成

対策法の原理は上述に尽きるので、対物レンズと焦点位置の間の空間の適切な位置に、適切な幾何形状のフードを実現すればよい。私が作ったのは、下写真のようなもの。材料は厚紙である。

円筒部を、顕微鏡に元々ある対物レンズのフードに嵌め込んで使用する(下写真)。

効果

トップ画像に示した通りだが、再掲する。体長2 mmほどのカタモンチビコメツキを40倍で観察した例。フードなしが下写真。フレアがひどすぎて、体表の模様が見えない。
4万円超払ってこれですよ。ホントひどいです。。

フードを付けると、下写真のようになる(撮影条件は上と揃えた)。フレアが解消して、劇的にコントラストが上がった。

おわりに

以上、お金を掛けないローテクによる問題解決事例。職業柄、光学計測を行うことが多いので、今回の対策法は「あったりまえ」のレベルなのだが、ネットで検索すると、顕微鏡向けの対策法としては、これが全く出てこないのである(英語で検索しても)。X (=旧Twitter) の虫の投稿写真を見ると、明らかに同様のフレアが出ている状態の写真が散見されるので、潜在的にこの問題に悩まされている人は多いと思われる。関心ある方は、これを参考に工夫されたい。

工作法の詳細について知りたい方は、以下の報文をご参照(連絡いただければPDF送ります)。
齋藤孝明, 2024. 双眼実体顕微鏡のフレア解消法. 神奈川虫報, 212: 71-74.

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