優しさとは。

私たちには子供がいない。

私は人生の半分以上、子ども相手の仕事をしている。子どもが大好きだ。もちろん子どもを授かるものだと信じて疑わなかったので、結婚して母になることに期待、希望、夢、あらゆるものに溢れていた。

三十過ぎて結婚したことや、子宮筋腫の手術をしたこともあり、結婚してすぐに不妊治療専門のクリニックに通った。子どもが出来にくい体だと知り、予想してたとは言え、ひたすら悲劇のヒロインになって泣いた。そして不妊治療が始まった。

夫はとても協力的だった。検査もすぐに受けてくれた。夫の検査結果を聞きに行った日、あんなにお調子者の夫が「俺の結果が悪かったらよかった。半分俺の責任にして背負えたのに」と。私はてっきり「俺には何の問題もなかった~!」と威張ると思ったので予想外の優しい言葉に涙。

結局、いろんな治療をしてその都度自暴自棄になったり、一喜一憂したりの繰り返し。八つ当たりもたくさんした。でもどんな私も優しく受け止めてくれた。

ある日、「ふたりで生きていこう」と夫が言った。「あまり子ども好きじゃないんだよね」って。私の姪と甥をわが子のようにかわいがってくれて子どもが嫌いなはずないのに。そして治療をやめた。

その後、心無い言葉をかけられるたびに隣で「僕が子ども過ぎるから神様がこの家には子どもがいるって思ってるんでしょうね」と笑いにかえてくれた。

10年以上が経ち、夫は難病が発覚した。そして職を失った。私は夫に「子どもがいない人生を選択してよかったね」と言った。「ふたりで乗り越えていこう」とも。夫は「ありがとう」と言った。そしてふたりで少し泣いた。

次は私が支えていく番だ。どんな夫も受け止めて支えていこう。

今は地域母として働いている。毎日、放課後の子どもたちの話を聞いたり、大きくなった子供たちから「先生、元気?」と声をかけてもらえる。とても幸せな人生だなと感じている。強くしてくれる。

何が正しいかは分からない。でもお互いを思いやる「ついていい嘘」はあると思うし、「やさしさ」で幸せを感じることができてい今の生活はとても穏やかだ。

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