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おれのトーキョーバンビはクソ女

オタクの夢はいつだってたったひとつ、出世でも結婚でもかめはめ波を出すことでもない、「わがままで可愛い女に人生をめちゃくちゃにされたい」これである。そうだろうが。田中愛子や雪崎絵理やハラハル・ハラ子や支配の悪魔が人生に登場するのを待ちぼうけたまんまみんな大人になった。

そんでそんなオタク共に声を大にして自慢したい。おれはかれこれ12年間、わがままで可愛い女に人生をめちゃくちゃにされている。おれのトーキョーバンビはクソ女だ、鼻と口の形が可愛くて、細い肩にtoeのour latest numberのジャケのイラストのタトゥーが入っていて、いつもハイライトメンソールのにおいがする。12年間一度も待ち合わせの時間通りに現れたことがないし物忘れが激しくて大事な思い出のひとつも覚えていてくれない。

「久しぶりに札幌に帰るけど予定が詰まりすぎて時間を作れないので会いたいなら新千歳空港まで来て」と言われのこのこ空港まで会いに行ったこともあるし(片道1時間半1500円かけて、空港の滞在時間は20分もなかった)、予定と予定の隙間の30分しか時間が無いと言われその30分のために街まで馳せ参じてきっちり30分で帰されたこともある。終わったら一緒にご飯に行こうと約束していたチャットモンチーとスチャダラパーの対バンライブの会場で偶然彼女の友人に遭遇し、約束そっちのけで「みんなとご飯行ってくるわ!」と置いていかれたこともあった。今日なに食べたい?と聞いたらカレー以外と言うので一生懸命店を探し連れていった鍋の店でカレー鍋を頼んでいた、そんで半分以上残していた。

可愛すぎる。どうなってんだよ。この間配偶者の友人とわたしの友人で飲む機会があり、配偶者の友人のひとりが小学校の先生であることを彼女に教えたら「へぇー。ガキ憎くないですか?」って言い始めて顔を両手で覆いそうになった。デリカシーどこに置いてきたんだよ。可愛い顔しやがってよ。

どう考えても並の男じゃ手綱が取れない。取れなくなった結果、散々甘やかしてきたわたしに責任転嫁をした男共から恨みつらみの連絡が来たことが何度もある。会ったこともない友達の恋人から「お前のせいだ」「お前も頭がおかしい」「幸せになれると思うなよ」などとDMが来たこと、みなさんはありますか?わたしは2年おきくらいに計3人から来た。お前マジなにしたんだよ。彼女曰く「あたしが見た目も中身も可愛くて仕事が出来るばっかりに……」とのことで、おあとがよろしいようで。いい加減にしてください。
ていうかどちらかというとおれもお前らの同胞だと思うんだけどそのへんどうお考えですか?お互いヤバ女に惚れちまって大変だよな‼️でも最期まで面倒見れんの多分わたしくらいだから、会ったことない女のせいにしたいくらいキツいならさっさと手放した方が良いですよ。ごめんね、わたし女だから、あの子のこと抱かないままそばにいられるから永遠はわたしだけだと思う。ざまあみろよ。



20歳を過ぎた頃の彼女は、いつか人を殺しそうな顔をしていた。
手首にあてられたカミソリがいつ他人に向くかわからなかった。馬鹿なわたしは彼女の手首の傷が増えるくらいなら他人に向いてしまえと思っていた。もしそうなったら、きっと最初にわたしに電話が来る、そしたら代わりに出頭してやるつもりだった。

彼女との長い付き合いの中で1年半だけさっぱり連絡が取れなくなったことがある。結局後から教えてもらった理由は真逆だったけれど、当時は幸せになったからわたしが必要なくなったんだと思っていた。不幸じゃなくなった途端用無しかよ、わたしたち傷を舐め合うことでしか結局一緒にいられなかったんだろうか、と思っては2人で撮った写真を見返していた。
以下はその頃に書いたnoteの下書きです。

彼女が生きていく上で行う選択を、全て肯定していこうと思っていた。それがたとえどれだけ倫理に反していても、法律に触れさえしても、あなたがそうしたいならそれでいいと、わたしだけは、死ぬまで言おうと、思っていた。
もしいつか彼女が人を殺してしまったら、わたしが相手を埋めて、一緒に逃げるか、彼女の身代わりに自首をするか、そうしようと思っていた。本当にそう思っていた。

どうしてそこまで彼女が愛しかったのか今となってはもうわからない。彼女がわたしを必要としてくれているということ自体がわたしに必要だったのかもしれない。泣きながら電話がかかってくる度に、わたしにしか言えないと秘密の話をしてくれる度に、求められることに安心していただけなのかもしれない。
だけど彼女が好きだった。可愛くて可愛くて仕方がなかった。

彼女にずっと不幸でいて欲しかった。そしたらわたしを必要としてくれるから。

けれど連絡が取れなくなって、初めて、ああ、彼女が幸せになる姿を見たかったな、と思った。
笑った顔が可愛かった。ずっと見ていたかった。わたしが笑わせてあげられるならそれがいいけれど、そうじゃなくても、見ていたかった。

元気?ねえ、今どうしてんの。仕事は大変?
わたしにしか話せないことがなくなっても、一緒にいたかったよ。楽しい話も幸せな話ももっと聞ききたかったよ。ごめんね、わたしが悪いね。わたしがそうしてこなかったのが悪いね。わたしは今でもお前より可愛い女に出会えずにいるよ。

重い。
怖い。今コピペしながら笑ってしまった。おれ男に生まれてたらあの子の元恋人たちと同じようにおかしくなって暗い部屋の誰もいない空間に向かって話しかけたり寝ているあの子の顔に突然水をかけたりしてたかもしれん。せいぜいインスタグラムのストーリーに「今なにしてんのかな、会いたい」という文章と共にツーショ載せるくらいの話で済んでよかった。よかった~~~‼️

上京してからというもののビンタしたくなるくらいわたしに時間を作ってくれなかった彼女が、今週弾丸でわたしが住む神戸まで来た。ほぼ毎日連絡を取っていたのでそんな感じもしなかったけれど2人で会うのは3年半ぶりだった。配偶者が作ってくれたレバーパテをアテに3人で飲みながら、全然不幸でいて欲しいわけないなと思った。そんなわけがないだろ。あの頃は多分、それ以外で必要としてもらえる自信がなかったんだろうな。ていうかずっと必要とされていたのに幻みたいに消えやがったからパニックだったんだよな。今は別に普通に自信あるな、めちゃくちゃ骨拾うつもりでいるもんな。

幸せでいて欲しい。お互い不幸ぶるのが楽しいお年頃でもなくなってきたしさ。手首の傷がもう何年も増えてないのが本当に嬉しくて涙が出る。
でもさあ今もお前が人殺したら出頭しようとは思ってるよ、と言ったら、トーキョーバンビはけらけら笑って、わたしの配偶者に「ごめんね!」と言った。全然申し訳なさそうじゃなくて最高だった。


冒頭にも書いたけど彼女はほんとびっくりするくらい記憶力がない。
わたしが彼女をトーキョーバンビと呼ぶのは、まだ彼女が札幌に住んでいた時に「わたしの中のお前のテーマソングだよ」とピロウズの同名の曲を宛がったらやたら喜んでくれたのに由来しているんだけど、このあいだわたしの結婚式でこの曲を流した時に「この曲わかる?」と聞いたら「え?嵐?」と言われた。さすがにちょっと殴りたくなった。

で、先日彼女が「あたしなんでなんも覚えてないかわかったよ」と教えてくれた。「全部四月に話して忘れてんだわ」と。
ああわたしはこいつのアイクラウドなんだなと思った。わたしの頭のメモリが膨大なので、バックアップ取ったら安心して消してってんだな。人をなんだと思ってんだと思ったけど、例えば彼女と昔の恋人が裸足で外を駆けずり回って喧嘩したこととかも覚えていなかったので、この子がいらん記憶を消して少しでも気が楽に生きていけるならそれでいいかと思った。忘れて生きていけたら楽だなと思う過去なんてわたしもいっぱいある、あるよ、必要になった時にだけ取り出せるようにわたしが全部覚えておくからお前は安心して全部消しなよ。

んで、マジでどれだけセンセーショナルな出来事も、当時めちゃくちゃに喜んでくれたこととか幸せそうな顔してくれたこととかも覚えてないクソ女の口から、「あたしこれは覚えてるよ」と出てきたのが、大学生の時彼女がひどく気を病んでいた時期にわたしがちいさいイタリアンのお店に連れ出してご飯を食べさせてあげたことと、彼女がよく飛行機に乗って東京までライブを観に行っていた頃わたしが「あんたが飛行機に乗る度にこの曲を思い浮かべるよ」とBUMP OF CHICKENの(please)forgiveを教えてあげたことだった。

あなたを乗せた飛行機が あなたの行きたい場所まで
どうかあまり揺れないで 無事に着きますように

なんも覚えてねえくせにそんなことは覚えてんだ、と思ったら深めのため息が出た。
狡い女だ。こんな小さいときめきの積み重ねで12年もそばにいてしまった。誕生日に手紙を渡した時、読まれている間恥ずかしくてお手洗いに立って、戻ったら彼女が席でぽろぽろ泣いていたのを思い出した。彼女が上京する前日の夜、別れ際駅のホームでキスしたら恥ずかしそうにしていたのも思い出した。どっちもこいつは覚えてないんだろうな、でもいいや、わたしがお前を想ってこの曲を聴いていたことを覚えてくれてるんならいいよ。わたしは些細な出来事から愛を拾い上げるのが得意なのだ。そういうのをお前からの愛してるだと思うことにしようと思う。

何年も前にピロウズのエネルギヤを教えたら「この曲を教えてもらえただけで四月と友達になって良かった」と言われて、それがずっと嬉しくて、そう言ってたねと言ったら「言ったっけ」と言われた。「でも、言ったのは覚えてないけど、今もそう思ってるよ。覚えてないけど思ってる!わかる?」と付け足されて、こいつ進次郎より前から進次郎構文使ってたなと思って笑ってしまった。わかるよ、もういいよ、可愛いのでもういいです。



全オタクにお前らの夢の果てはそんなにいいもんじゃねえぞと伝えたい気持ちと、サイコーですよ!!!!!と伝えたい気持ちが両方ある。いや、まあ、概ね最高なんじゃないですかね……。
本当はめちゃくちゃにする側の女の子にずっと憧れているのに、わたしは峯田に歌われる女になりたかったのに、さもありなんです。どこまでいってもおれはお前の犬だよ。ワン‼️

21か22の誕生日に彼女がくれた手紙にはこう書いてあった。

四月には他に友達もいるし、あたしじゃないと駄目ってことはないんだろうけど、あたしは四月じゃないと駄目だし、四月はあたしのこと好きで一緒にいてくれてるから、これからもその好意を利用させてもらうね!

このクソ女め‼️‼️‼️一生利用してくれ。
お前ほんとおれがいてよかったな‼️‼️‼️

地獄、お前となら絶対楽しいに決まってて草です。仕方ないからずっと振り回されててあげんね。
じゃあまた。

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