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標準工程と実態の乖離

立木1本処理するのに6分

現状、日本の林業は補助金と切り離すことは困難です。補助金額は各都道府県で標準単価をつくっていますが、その参照元は林野庁の「標準作業工程」です。それには間伐における伐倒について、100本あたりチェンソーマンが0.63人と補助員が0.63人かかると書いてあります。

林野庁のウェブサイトから確認することができる

100本あたりだとちょっと難しいので、1本あたりに直してみます。100本伐るのに0.63人。1日8時間、1時間が60分なので0.63*8*60=100本伐るのにかかる時間は302.4分。1本あたりになおすと3.02分です。補助員の時間も一緒にいれると6.04分ということになりますね。

胸高直径28cm以上の数値を適用した

標準工程を見てみると、この工程は「伐木し、伐倒木を地面に引き落とす工程」だけではなく「伐倒木の幹が地面に着くまでの枝払いをする工程」まで含まれていることに注意が必要です。表現的にはかかり木の処理もこの中に含まれる、と考えて差し支えないでしょう。

こ枝払いの度合いは人によって違いが大きそう

この標準工程は、僕の感覚と乖離があります。まず伐倒の工程で特殊作業員と普通作業員が1:1というのもそうですし、かかり木が発生した場合に厚生省のガイドラインに従い滑車やチルホールを準備する…などを考えると、平均しても大幅に作業時間が超過するのではないかと思います。

かかり木の処理は重大災害につながりやすい

最新の調査では10分になっている

そこで林野庁さんにこの標準工程はどのような想定なのかを問い合わせてみたところ、いろいろと迅速な回答を頂きまして、最終的には「令和4年度 森林環境保全直接支援事業工程分析調査事業」の報告資料を閲覧することができました。お忙しいなか対応して頂き、誠に有難うございます。

300ページ以上ある。そのうちデータで公開して欲しい

この調査事業は平成23年度から毎年実施されており、標準工程の基礎資料として位置づけられているようです。なお、株式会社山地防災研究所が毎年のように落札している様子。実態調査を行い、場合によっては標準工程を変更することも記載されています。

そのうち、間伐の伐倒に関する項目を見てみました。間伐全体では全国から528件の調査票を集めており、そのうち114件が28cm以上に関するものだったようです。そこで得られた100本あたりの人工は標準工程と比較すると、大きな差が出ています。

想定よりも70%弱も多く人工が必要とすると、標準工程は実態とかなりかけ離れていると言っても差し支えないでしょう。1本あたりの数値になおすと、このような形になります。かかり木などを想定するとこれでもまだまだ不足しているというのが僕の感覚です(そのために村内では調査を進めています)が、人間的な数字になりつつあるなとも思います。

報告書には「標準工程の値と調査結果に差が生じていることから、標準工程の改正が必要である」との記載があります。

この標準工程と実態の差を埋めるために、安全性が多くの場面で犠牲になっています。これは現場にいる人間なら自分の身体を以て誰でも知っていることでしょう。森林管理を実施する会社としては、この改正がいち早く実現することを願ってやみません。

発注する立場にいる私が言うのも酷い話ですが。

なお、今回の報告書では、かかり木については影響の度合いが明確ではないとされています。報告書を見ると胸高直径が22cm-26cmの範囲では、かかり木がある方がかかり木が無い場合に比べて作業が早く進んですらいます。これが現場の感覚とかけ離れたものであるのは言うまでもないでしょう。今後の調査方法についてどうフィードバックが行われるのか気になります。

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