森林林業白書概要のダイジェスト
林野庁の出してる森林林業白書の最新版をサラッと読んでいきましょう。林業のことを知りたいなあと思ったら、まずこの資料からスタートして悪いことは無いはず。ここだけに留まってしまうのは問題でしょうけれど。
トピックス
昨年度はSDGsに関する特集が先にくる構成でしたが、今回はトピックスからです。まず林野庁さん的に見て欲しいニュースが6例掲載されています。
公共建築物の木材利用促進を行う法律の施行10周年
森林組合法改正で組合間の連携が容易に、組合の事業執行能力が強化
森林環境譲与税の活用開始、意向調査や間伐・人材育成・環境教育
スマート林業推進例として造林作業機、遠隔操作可能な集材機、LPWA
令和2年豪雨は被害額970億円、林野庁は調査設計支援など
東日本大震災後の海岸防災林植栽完了、管理局から県への移管進む
スマート林業がここに出てくるんですね。造林の機械化はみんなの夢ですが、まだ少し時間がかかりそうな印象。遠隔操作可能の集材機は和歌山で拝見したことがありますが、今後のスタンダードになりそうです。西粟倉ではLPWAについて、森林総研さんの検証で獣害対策などでの活用方法を探っているところです。
災害への対応は林業白書の見慣れたトピックスになってしまいました。令和2年「令和元年房総半島台風 、令和元年東日本台風」、令和元年「平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震」、平成29年「平成28年熊本地震や台風災害の発生と復旧への取組」とほぼ毎年何かしら話題が出ています。
特集1 森林を活かす持続的な林業経営
林業は経営として成立するのか?という問いに対する林野庁さんの答えがこの特集だと考えられます。
50年生の杉を1ヘクタール育てるために必要な費用が184万円で、得られる売上が91万円。赤字。年間平均給与が343万円と全産業より低く、労災発生率は高い。林業はこれからどうすればよいのでしょうか。
まず収益性を上げる。安定供給などによる販売強化、稼働率上昇などによるコスト低減。なお、コスト低減の方が重要だとの記述あり。販売強化は需要先というコントロール不能な要素が大きく関わってくるからとのこと。
次に、林業従事者を確保する&労働環境を向上する必要性について。能力評価システムの導入が意欲向上の施策として出てきます。安全性はもちろん、月給制や社会保険、女性が働きやすい環境への言及あり。
さらに、林業従事者とは別の立場として林業経営の人材育成に触れられています。施策としては森林経営プランナー制度、森林組合での実践的能力を有する理事配置義務化、製材工場などへの林業経営参入助成金など。
総括として、今後の可能性について。生産性向上や植栽本数の削減などにより作業員賃金を上昇させ黒字化が可能との試算。規模や各経営体の状況が異なることに留保しつつ、前向きな挑戦を後押しすると結んでいます。
特集2 コロナによる影響と対応
これは令和2年度の林業白書なので、ウッドショックについての話はありません。
中国への丸太輸出急減後に回復、新設住宅着工戸数1割減、合板減産。
林野庁は資金繰り支援、需給調整(国有林販売延期など)、需要喚起を実施して対応。ウェブ入札やテレワーク拠点整備などが進んだり、地方移住の受け皿として林業の存在感が出る可能性などに触れられています。
実際にはこの後が怒涛だったわけですが…。周辺では特にウェブ関係が進んだ印象はありません。あ、勉強会等のオンライン化で参加できる数はだいぶ増えましたね。林業関係はアクセスが悪いところが多いので、このトレンドは歓迎です。
第Ⅰ章 森林の整備・保全
日本の山林がどういう状態にあって、今どういう取り組みが行われているのかという説明です。
いつもの「多面的機能がすごい」という話と、「人工林が50年生を超えたので使う時期ですよ」という話。「林業や木材産業はカーボンニュートラルの目標達成に寄与するよ」というのは初めて入ってきた内容ですね。
間伐と主伐後の再造林を、多面的機能の発揮と資源の循環利用を行うために推進。成長の早い苗木増殖の推進が施策として挙げられていて、その理由は森林吸収量確保になっています。
また、少花粉スギの供給について知事会が推進と書いてあります。これ実は岡山がリーダー県なんですよね。前に伊原木知事とお話する機会があったのですが、花粉に親でも殺されたのか?というほどの熱量でした。
森林経営管理制度と環境税についても項目があり、「意向調査の準備」も含めると7割の市町村が取組をしているとのこと。今年はデータの範囲を「~の準備」まで広げる必要がないくらい進んでいると良いですね。
なお、西粟倉はこの制度のモデルなのですが、実は活用はあまりしていません。既存の制度が山主さんにとってかなり有利であるからなのですが、その辺の説明はまたそのうち。
森林環境譲与税は、整備自体に使った自治体が5割、木材利用・普及啓発が2割、人材育成が1割。都市圏がどうなのか気になります。使いドコロ無いのでは?うちの村と連携したい大都市の方、連絡ください!
あとは防災、生物多様性保全、獣害についても書いてあります。西粟倉はシカ害が本当にどうにもなりません。4,900ヘクタールで獣害発生とありますが、体感的にはそんなもんじゃないハズ…という気持ち。
最後にはパリ協定の目標達成や生物多様性について書かれています。正直なところ、この辺は日本全体として言ってることと、やっていることのギャップが激しく感じます。道は長く険しいですね。
第Ⅱ章 林業と山村
この章は林業をどんなひとがやっているのか、林業とはどういうことをしているのかなどが書かれています。
林業産出額は4,976億円。そのうち半分くらいがキノコです。日本に林家は83万戸あって、ほとんどが10haに満たない小規模零細。特集1でされた労働力が必要という話や、集約化が大事みたいな話が繰り返されています。
林地台帳の更新が固定資産税台帳を使ってできるようになったことも書いてあります。これは地味に大きい。行政の情報は部署を越えると使ってはならないものだらけなので、適切な範囲で少しずつ開放されて欲しいです。
きのこの生産量は近年横ばい、生産者数は減少。木炭は減少傾向、薪の生産量は増加中。漆は文化庁が国産漆を使え!と言ったので増加中だそうです。竹は減少中。西粟倉、竹林が少ないんですよね。竹で遊びたい。
山村の活性化のために林業の成長産業化が必要だ!という話もありました。個人的には、怪しいなと思ってます。細かいところですが。林業が活性化する以外にも、山村が活性化する方法ってありそうじゃないですか?
なお林業以外の山林活用については、「森林サービス産業」創出がひとつのテーマとして出ています。うちでもレクリエーションでの活用はやっていくので宜しくお願いします!
第Ⅲ章 木材需給・利用と木材産業
山から出てきた丸太がどのように使われていくのか。繰り返しになりますが、ウッドショックの話はこの白書には出てきません。
世界の丸太消費量は前年度2%減。中国が世界の丸太輸入量44%を占める。日本は木材消費が0.7%減、国産材供給が2.6%増で3099万立米。同じく日本の木材輸入量は5092万立米、それでも木材自給率は37.8%と上昇傾向。
木材価格はスギ・ヒノキ素材がやや下落、製材品横ばい、国産木材チップがやや上昇。今年が怒涛すぎたので、もはや懐かしい…。
違法伐採対策についてはクリーンウッド法が紹介されていますが、効果はあるの…?と多くの林業関係者は白い目で見ている気がします。実現困難なのは分かりきったことなので、国として本気になるかどうかですね。
輸出については建築部材、高耐久木材を中国・米国・韓国・台湾に売ろう!という方針が掲げられています。2013年からかなり伸びていて、7年間で3倍近くになっています。すごい。
木材利用の意義として再び2050カーボンニュートラルの話あり。そのうち木材は「カーボンの固定ができる」を主機能として、「建材として使える」は副次的機能みたいな扱いに成り得ることを示唆している気がします。
中高層建築の木造化・木質化、木質バイオマスの紹介。バイオマスは西粟倉周辺でも雨後のタケノコが如しですが、資源確保が困難ですね。情報流通が一層大事になりますが、主要プレーヤーがまだ見えてこない印象です。
さて、木材・木製品の付加価値額は2.5%増加。求められる品質が高くなっていることに対して、デカイ工場は自分のところで全部やれ!できなければ複数工場で連携!そうでもなければ地域で連携!となっています。
製材用素材の77%が国産材、合板生産用は87%、チップもほとんどが国産材で製造しているようです。もっとも、合板そのもの、チップそのものの輸入は多い状態。合板は全需要の45%、チップは70%程度が輸入とのこと。
この辺は今年イロイロ変わったところですね。現状を外れ値として見るか、今後のトレンドとして見るか。まあだいたいその中間なんだとは思いますが、読みづらい時期が続きます。
第Ⅳ章 国有林野の管理経営
国が所有する森林についてです。日本における森林面積の3割は国有林なので、インパクトが結構あります。西粟倉には無いのであまり身近ではないのですが…。
掲げられているのは「公益重視の管理経営を一層推進するとともに、林業の成長産業化に向けた貢献」という指針です。公益性は「災害防止」「自然維持」「空間利用」「快適環境形成」「水源涵養」という区分。成長産業化については今まで出てきたような話の実証の場として活用されてるよ!という話ですね。
レクリエーションの森、みたいな素材生産外への言及がここにもあります。
第Ⅴ章 東日本大震災からの復興
林地荒廃や海岸防災林の工事は一段落といったところでしょうか。これからは保育事業ですね。
一通り読んでみて
結局、フツウに考えると特集1の林業経営のところに全ての課題が詰まっているように思います。製造コストが売上の2倍になる商品では、商売になりません。黒字化可能であるという試算もありましたが、そこまで辿り着くまであと50年。諸々の計算がそのままであるとは、到底思えないです。
フツウに考えると死ぬという意識を持つこと。それが山林と関わる暮らしを楽しんでいく上では必要なのかなあなんて思っています。素材生産を研ぎ澄ましていくにしろ、それ以外へとアメーバのように広がっていくにしろ、何か今までとは違うことをしていく。挑戦するにはいい環境です。
(田畑直)
この記事は、百森 Advent Calendar 2021の15日目です。