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植物の方言についての考察と妄想

人間は、すべての生物を区別するために、名前を付けます。これは、自分たちにとって有用なもの、害のあるもの、どうでもいいもの、など分類するために必要なことです。日本で最も一般的に使われる名前を「標準和名」と言いますが、地方によってその分類は様々で、独自の名前が付けられている種類もあります。

県外から西粟倉に来た多くの人が最初に学ぶ地方名は、おそらく「がいだ」でしょう。これはカメムシ類のことで、岡山と岐阜のあたりで使われる名前のようです。

当然、植物にも地方名はあります。日本産の樹木で、最も別名、地方名が多いのはなんでしょう?明確な答えは自分にはないのですが、ヒサカキは非常に多いなあと思っています。西粟倉では、標準和名である「ヒサカキ」で呼ばれることはほとんどなく、「さかき」「かみさんばな」「はな」「はなのき」などを聞いたことがあります(標準和名で「サカキ」、「ハナノキ」という樹木もそれぞれあるので混乱します…)。ちなみに筆者の故郷で使われていた「せんだら」は多分ここでは通じません。

『原色図鑑 岡山の山菜』(山陽新聞社)をみると、様々な地方名を知ることができます。

例えば「りょうぶ飯」でお馴染みのリョウブは、「しょーぼー」「さるだめし」「おにつつじ」とあります。「さるだめし」は「猿試し」、樹皮がサルスベリに似てつるつるしていることから来ているのでしょう。「おにつつじ」は、芽出しの時に、上向きに葉が突き出ていく感じがツツジ類に似ていて、葉が比較的大きいから、と考えると納得できます。「しょーぼー」に至っては、さっぱりわかりません!

一方、ハリギリには「おおだら」「やまぎり」という地方名があり、アカメガシワには「あかめ」「さいもり」「みそもり」「やまぎり」などの地方名があります。ハリギリのほうは木材としてキリの代わりに使われてきたので、「山に生えている桐の木」という意味でしょうか。アカメガシワのほうは、葉が大きく形も似ているので、「山に生えている桐の葉っぱに似た木」という意味でしょうか。新芽はどっちも食べられるから別に同じ呼び名でいいや、とされたのでしょうか?岡山の中でも使われる地域が違うのかもしれません。

さらに、ウワミズザクラ。ちょっと変わった咲き方をするサクラの仲間で、図鑑には花や果実の塩漬け、果実酒が美味いとされているのですが、地方名は「いぬざくら」「くそざくら」「ねずみざくら」など、散々な言われようです。植物に付けられる「いぬ」「ねずみ」は『劣った』、『くだらない』、などを意味することが多いのです。

花盛りのリョウブ(花にはツツジ感ない)
赤い芽が出るアカメガシワ

書籍にも載らないような呼び名も、西粟倉に来て学びました。口語なので、書き文字にすると正確ではないかもしれませんが、「ぐずまゆ」「しょうろばな」「ふごいちご」、これらは何の植物かわかりますか?

「ぐずまゆ」は、クズです。秋の七草のひとつで、古くから食用や漢方薬、繊維などとして使われている植物です。林業的には造林地の厄介者で、忌々しい感情をこめて発生されるイメージがあります。もしかしたら林業者での用語なのかもしれません。

「しょうろばな」は、ミソハギ、です。湿った土地に生え、8月ごろにピンク色の花を咲かせる草です。家の近くでは、田んぼの水路沿いに生え、お盆の花として利用されるみたいです。「しょうろ」というと、「松露」という漢字が思い浮かびますが、外見とはまったく結びつきません。盆という点からすると、「生老」なのでしょうか・・・。

「ふごいちご」は、ナガバモミジイチゴ、だったはず・・・です。村内の80代の方と下刈の話をしていたときに現れました。下刈の時に厄介なトゲトゲの植物・1mくらいになる・黄色のイチゴがなる、などの特徴を仰っていたので、多分これでしょう。

造林地を覆ってしまった「ぐずまゆ」ことクズ
「しょうろばな」ことミソハギ。草刈で維持されている。
「ふごいちご」ことナガバモミジイチゴ

野山の生物を利用しなくても、冬は暖かく過ごせ、食糧も手に入る時代になりました。個人的には残念に思ってしまいますが、このような時代においては、呼び名が消えていくのは、自然な流れなのかもしれません。

しかしその一方で、少し前に4歳くらいの子から「びりびりばちばち」(ヒノキのことです。燃やした時にビリビリバチバチ音がするから)なんていう珍・新名を教わりました。詳しくなってしまうと、かえって新しい呼び名を思いつくことは難しくなりますが、人それぞれの捉え方で自然に接し続けられることが、なにより重要なのかもしれません。

(永美暢久)


この記事は、百森 Advent Calendar 2021の21日目です。

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