魔剣騒動 3

 空也が砂漠の真ん中に作られた遺跡発掘キャンプを訪れて、既に一時間程が経過していた。
 その間、空也が何をしていたかといえばアベル達『爆発の勇者パーティ』を探していた。
 自分を酷く歓迎していないらしいこのキャンプの人間から情報を得ることはおそらく困難であると早々に見切りを付け、自分を巻き込んだ張本人であるアベルに話を聞こうと思ったのだった。
 だが、それ程広くはないキャンプ内を歩き回ってみてもアベル達の姿は見つからなかった。
 『爆発の勇者パーティ』はリーダーの爆発の勇者アベル、七大ギルド連合公認遺物調査官レイア・ウルトゥス、世にも珍しい妖精魔法の使い手アレン・リードの三人組で、何処に居ても目立つはずなのだが。
 キャンプの人間にも何度か訊ねてみたのだが、無視されるか舌打ちを返されるだけで、なんの情報も得られない。
 そうこうしているうちに一時間が経過していた。

 「はぁ・・・」
 ため息を吐いて、先程井戸から移した水を入れた水筒に口を付けた。
 別に今更人に邪険に扱われた程度で目くじらを立てるようなことはないが、この居心地の悪さにはいい加減辟易してくる。
 アベル達がキャンプに居ないのはおそらく遺跡の中に既に踏み込んでいるということだろう。
 が、キャンプの奥に聳える遺跡群には複数の遺跡が混在しており、問題はどの遺跡に入って行ったかということだ。
 最悪行き違いになるので、出来ればその情報が欲しいのだが、この状況では得られそうにもない。
 名前や身分、または武力で解決する方法もなくはないが面倒事を起こすのは趣味ではない。
 と、なればあとは運を天に任せて適当な入り口から遺跡に入るしかないだろう。
 虱潰しに当たれば必ず何処かで出会う事になるし、運が良ければ遺跡同士が内部で繋がっていることもあり得る。
 「・・・行くか」
 行動の指針を決め、空也は外套の内側からギルド支給の携帯食糧を口に入れた。
 ボソボソでぼんやりした味のそれを水で流し込み、それから空也は一番大きなテントへ歩き出した。

 まず、必要なのはこのキャンプのリーダーらしいガタイのいい男へ一応の報告を通すことだった。
 大きなテントの中にはそれに見合うだけの人数が屯している。
 こういったキャンプは遺跡調査の仕事で忙しなく働いているのが常のはずだが、どうにも此処にはそういった『仕事場』の雰囲気がない。
 向けられる視線やあちこちのテーブルから聞こえる下卑た会話、床に散らばる空いている酒瓶や汚れたままの食器類。
 雰囲気としてはスラムの酒場や路地裏といった感じだ。
 この時点で色々と察せられるものがある。
 空也はそれらの一切を無視して、一直線に奥に座る男の席を目指した。
 それ程広くはないテントなので、男は既に空也の来訪に気付いていたらしく、席に辿り着く前から視線が合った。
 テーブルに辿り着いた空也は呼吸を置くことなく用件を告げた。
 「遺跡探索に出る」
 相手がまともな連中でなくとも、報告は必要だ。
 今や冒険者としてそれなり以上の地位に付いている以上、責任があるからだ。
 空也の言葉に男は不満気な表情をした。
 「断る。と、言いてえとこだが、七大ギルド連合公認の一流冒険者様に言われちゃ、そういうわけにもいかねえな」
 いかにも納得のいかないという視線が空也を刺したが、空也は無表情を貫いた。
 数瞬、視線が交わり沈黙が続いたが、観念したように男が視線を外した。
 「好きにしろよ」
 許可、と受け取って空也が踵を返した。
 いくら空也といえど、用もなく敵意満載の中を長居はしたくない。
 数歩歩いたところで、後ろから声を掛けられた。
 「探索は勝手だが、何が起こっても俺たちは知らないからな」
 男の捨て台詞に同調して「ギャハハ」と品の無い笑い声が辺りから響いたが、空也は特に取り合うことなく全て無視してテントを出た。



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