ミーティング

 「人が揃えられなくて申し訳ないけど、一応ミーティングしようか、南さん」
 テーブルを挟んで目の前に座った私の憧れの先輩――風島清景は気軽そうにそう言った。
 対する私は、風島さんと二人だということに若干の緊張を感じながら、注文しておいたカフェラテで喉を潤してから「はい」とだけ返事をした。

 私、南綾(みなみ あや)はとある三人組のバンドのベーシストをしている。
 つい数か月前に大学生になったばかりの私だが、バンドは既に活動二年目を迎えたりしている。
 バンド活動は紆余曲折、喧嘩や対立がありながらもまぁそれなりに上手くやれている。
 それなりに上手くやれている活動の中で知り合ったのが『ライフオブブルー』というバンドだった。
 確かとあるライブ企画の中に私たちと彼らが参加していたのがきっかけだった。
 私は個人的に『ライフオブブルー』のベーシストを知っていたが、直接対面したのはその時が初めてだった。
 彼らのライブを見て私たちは彼らのことを気に入ったし、彼らも同じように私たちを気に入ってくれたようでその日の打ち上げは大いに盛り上がった。
 それから、彼らとは気の合うバンド仲間として様々なライブや企画で一緒になった。
 そんな彼らと私たちは今回合同のライブを開催することになった。
 その打ち合わせを行おう、と思っていたのだが何故かほとんどのメンバーが出席できなくなってしまった。
 私のバンドのリーダーを自称しているギターボーカルの八代陸人(やつしろ りくと)は心底ずぼらな男で卒業もぼちぼち見えている時期だというのに大学の単位がヤバいらしく講義とレポート作成のために欠席。
 もう一人、ドラムを担当してくれている古幡光史(ふるはた みつふみ)はバイト先の人数がどうしても足りないらしくバイトのため欠席。
 ライフオブブルーの方は、ジェームズさんと久我さんは古幡光史――光さんと同じように仕事の関係で欠席。
 椎名秋平はめんどくさいから欠席らしい。
 結果、ミーティングに参加できるのは私と風島清景さんの二人ということになってしまった。
 陸人と椎名秋平の欠席理由には呆れと怒りが沸々と湧いてくるが、結果的に私は憧れの風島さんと二人きりに慣れているのだから、今回ばかりは許してやろう。
 少しだけ。
 
 
 ミーティングは思っていた以上にスムーズに進んだ。
 進んだ、とは言っても元々今回はそれほど詰めた内容を話し合う場の予定ではなかったので問題が無かったというのは大きいだろう。
 もちろん、いつもなら途中途中で茶々を入れてくる陸人と椎名秋平という邪魔者が居ない部分も大きいと私は思っていた。
 「――と、こんな感じか」
 風島さんは手元のタブレットを机に置いて、コーヒーに口を付けた。
 「そうですね」
 言いながら私は机の上に置かれたタブレットを見た。
 これまでの内容が簡潔にまとめられている。
 私がぼうっとそれを眺めていると風島さんも同じようにタブレットを再び見た。
 「何か問題あったかい?」
 「ああ、いえ。全然。ただ見てただけです」

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