学食へ行こう 6
前回の失敗もあるので食券を渡す場所は問題なかった。
食券を渡したおばちゃんにビビられる、というのは今回もあった。
今回も軽くへこんだ。
今回に関しては俺の直前に食券を渡した部長がおばちゃんにビビられていなかったので余計に、だ。
まぁ、部長が怖がられるのは部長の普段の行いありきなので、それらを知らないであろう食堂のおばちゃんが怖がらないのは当然なのだろうけれど。
部長、先入観無しで見ると意外と背とか高くないしな、と半ば無理矢理に自分を納得させて心の平穏を保つ。
ちなみに、俺の後ろに並んでいた伊吹先輩はなんだかすごく丁寧に対応されていた気がする。
気のせいだとは思う。
そんなこんなで、俺たちは無事それぞれの料理を受け取り、四人掛けの席に着いた。
前回と違い、時間が多少早いおかげか、窓際のいかにも居心地の良さそうなテーブル以外はそれなりに空いていて、席に困ることはなかった。
部長と伊吹先輩が並んで席に着き、俺はその対面の席に座る。
相変わらず人が多いところは疲れる。
やっと席に着けたので食事の前にひと息吐きたいところだったが、対面の伊吹先輩がソワソワとしていた。
「早速、頂いてもいいでしょうか?」
目を輝かせながら尋ねてくる伊吹先輩を無碍に出来る者などいない。
「おー、冷める前に食え食え」
半ば呆れたニュアンスを含みつつも部長が伊吹先輩を促した。
伊吹先輩は一層笑顔を強くして、それから丁寧な所作で両手を合わせた。
「いただきます」
きっちりと、作法は忘れないところが伊吹先輩らしい。
それから箸を手に取って、丼を持ち上げて、一口。
伊吹先輩が普段食べているものを考えれば、学食のメニューなど、本当に取るに足らないものだろうに、それでも伊吹先輩は味を噛み締めるように静かに咀嚼して、また花が咲くように笑った。
「周、ぼーっとしてると冷めるし、ラーメン延びるぞ」
いつの間にか、先に蕎麦を啜り始めていた部長に指摘され、ハッとした。
伊吹先輩の美しさと可愛さにやられていた。
俺は急いで両手を軽く合わせ、それから食事を始めた。
「そういえば」
食事中とはいえ、三人いて無言もどうかと思い、声を上げた。
「部長と伊吹先輩はなんで先週学校休んでたんですか?」
二人からは何も聞かされていない。
いや、別に俺に言う必要な特に無いのだろうけれども。
そして、言葉にしてから同時に休んでいたとはいえ、二人一緒に行動していたとは限らないということに気付いた。
「会合だよ、会合」
「私たちのような『仕事』の人間の情報交換会、みたいなものです」
俺が何かを言う前に二人はあっさりと答えてくれた。
「クソつまんねーからいつもは無視してるんだが、今回はちょっと偵察がてら出てやったんだよ」
「毎回おじいちゃんが水仙ちゃんも連れて行こうとするですが、いっつも逃げるんですよ」
「だから、今回は出てやっただろうが」
伊吹先輩のおじいちゃんと言うのは、つまりは『伊吹』の家の現当主で、あちらの世界ではその存在を知らない者が居ないほどの大人物のはずなのだが、そんな人間から頼みすら適当にあしらっているらしい部長は相変わらずだった。
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