白澤優人の人となり 3
カツカレーから目を離して、声の主の方を見る。
こちらが椅子に座った状態とはいえ見上げるほどの身長、がっしりとした体形、黒縁眼鏡にものすごく特徴的な喋り方。
そんな人物は一人しかいない。
そこに立っていたのはうちの部長の数少ない友人の一人、ボードゲーム部部長の白澤優人先輩であった。
白澤先輩は唐揚げ定食と、特盛らしいラーメンの乗ったトレイ二つを両手で持ったまま俺の反応を待っていた。
「白澤先輩」
名前を呼ぶとにかっと笑ったが、動かない。
一瞬、不思議に思ったが、どうやら俺が許可するのを待っていたらしい。
「あ、すいません。どうぞ」
対面の席を差すと、白澤先輩は嬉しそうにトレイ二つをテーブルに置いた。
「いやぁ、桐間殿、かたじけないでござるな。この時間はどの席も混んでいるから困っていたでござるよ」
先輩は後頭部を掻きながら、席に着く。
「そうなんですね。俺、学食使ったの初めてなんでびっくりしました」
「おぉ! そうでござったか。桐間氏は普段はお弁当派でござるか?」
会話の合間で、白澤先輩は両手を合わせて食事を始めた。
俺もつられるようにしてカレーを一口。
特段、言及することもない普通のカレー味のカレーだった。
「普段は部室で弁当食べてますねー」
気を取り直して、会話を続ける。
「友達が居なくて教室に居づらいから」という言葉は付け足さなかった。
言ってしまえば、気を遣わせてしまうだろう。
「ほう、わざわざ部室で、でござるか」
教室のある本校舎から部室棟まではそれなりに距離があるので不思議そうにしていたが、突っ込まれると言葉を飲み込んだ意味がなくなるので多少強引に話を変える。
「白澤先輩は普段も学食ですか?」
「うーん……。八対二でお弁当と学食でござるな」
と、いうことは今日は珍しく学食だということだろう。
正直、この大盛況の学食の中で独りで食事を続けるのはかなり精神的に辛いものがあったので数少ない、というか校内に実質三人しかいない知り合いの白澤先輩が同席してくれるのは非常にありがたかった。
会話が一瞬途切れた。
なんせ、他人との会話など家族と部長、伊吹先輩以外に普段しないので、どうしても慣れない。
幸い、食事中なので気まずい沈黙にはならない。
スプーンの上のカレーを口に入れ、飲み込むまでに会話を繋ぐ内容を考える。
「……先輩は、お弁当は自作ですか?」
なんとか捻り出たのはそんな話題だった。
そういえば、かつて部長にもそんな話題を振ったことがあった気がする。
会話のレパートリーが少ないということだろう。
若干、自己嫌悪に陥るがそういった質問を口にしたのには少なからず理由があった。
目の前の先輩は、野暮ったい見た目と特徴的な言葉遣いのせいで勘違いされがちだが、実際には超ハイスペック人間だ。
だから、料理ぐらいは作れそうだと思ったのだ。
「いやいや、流石に普段は自作ではござらんよ。母上かお手伝いさんが作ってくれるものをありがたく頂戴させていただいているだけでござるよ」
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