砂上の楼閣 25
「『御守り』みたいなものだよ」
今度は言海の口から明確な答えが返ってきた。
御守り、というのは宗教的なアクセサリーのようなもののはずだ。
本来はナイフのようなものではないはずだし、明らかにその辺の店で買ったような既製品のナイフというわけはない。
ということは、重要なのはその中身。
「……それは、貴女がマオやキヨカゲに渡しているようなものだということですか?」
琴占言海は身近な人間の身を守るために、自身のFPを込めた物品を『御守り』として渡している。
という話をトゥーリアは言海の仲間である佐藤真緒から雑談がてら聞いていた。
これが、このナイフがそうだ、ということだろう。
トゥーリアが視線を投げると言海は頷いた。
「物の形や見た目、役割というのは重要だ。FPを操るにはイメージが重要だから、それに直結しやすいものの方が扱いやすいんだ」
自分の体から離れた物にFPを込める、というのは特別そういう能力者でもない限り簡単な事ではない。
それでも、目の前にいるトゥーリアよりも年下の少女は難なくやる。
彼女は世界最強のFP能力者だから。
「使わないに越したことは無いだろうが、困ったら使ってくれ」
「……貴女からのせっかくの贈り物です。そうさせてもらいます」
世界最強から預かった切り札。
トゥーリアは小さなナイフをもう一度見つめた。
秘めたる力は丁寧に、そして綺麗に隠蔽が施されていて探れない。
が、そこには確かな存在感があった。
(使いこなせるでしょうか……?)
一抹の不安を抱えながら、ナイフの入った紙袋を仕舞った。
3/
瞬時に強化を施された特大の火柱が煌々とした光、爆発にも似た熱を伴ってジェルドの魔法陣から放たれた。
それはさながら火竜の息吹ようだった。
地下空間全体を崩壊させるような威力の魔法が、トゥーリアという一点を目指して差し迫った。
対するトゥーリアは、本来の自分であれば到底相手にもならないような『火竜』を前にして、しかし冷静だった。
射ち出したナイフから確かに感じた強大な、それでいて曇りの無いFP。
使いこなせるだろうか?という不安など欠片も感じさせない程に揺るぎなく洗練された力がトゥーリアをアシストしてくれたのだろう。
負けるわけがない。
その確信がトゥーリアにはあった。
言海は言った。
『物の形や見た目、役割というのは重要だ』と。
なれば、ナイフの役割とは?
刃物の役割など相場が決まっていた。
火竜の息吹とナイフが接触した瞬間だった。
途轍もない威力を備えたはずの火の魔法が、容赦なく、そしてあまりにもあっさりと真っ二つに分かたれた。
小さなナイフが、特大の魔法を切り裂いた。
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