魔剣騒動 5

 延々と続いた階段を降り切るとそこは開けた場所になっていた。
 長方形の形をしたそれなりの広さの部屋は背後に降りてきた階段、前と左右の壁には奥に続く道が続いている。
 それ以外には何も無い。
 いきなり三択問題に遭遇した空也は一度宙を仰ぎ見てから手に持った松明兼武器の水晶の剣を掲げ、部屋を照らした。
 照らしては見たもののどの道も奥まで照らせる訳もなく、わかったのは行き止まりではないということぐらいだった。
 それを確認してから、背後の階段を見上げた。
 ここまで来るのに相当な深さまで潜ってきた。
 それでいきなりこの三択だ。
 「……相当な広さがあるな、これは」
 小さく一人呟いて再び三つの道を見た。
 この遺跡の全容を把握できるわけはないが、この深さと三つの道から予想できる広さは相当のものだ。
 空也の予想したその広さが大きく間違っていないのであれば、おそらく地上の全ての遺跡は地下で繋がっているだろう。
 そうであれば、どの道を選んでもその先でアベル達に出会える確率はゼロではないということになる。
 一呼吸置いて、空也は魔力による探査を行ってみた。
 あまり期待はしていなかったが、案の定かなりの濃度を持った瘴気に邪魔をされ精々今見えている範囲程度の探索に留まってしまった。
 「この瘴気の濃さなら、この先は完全にダンジョン化してるな……」
 本腰を入れればもう少し探査できるかもしれないが、ダンジョン化したこの先での戦闘や件の魔剣が本物で戦闘になる可能性のことを考えれば、無駄な魔力の消費は控えていたいところだ。
 面倒だな、とため息を吐いてから空也はダンジョンへと歩き出した。
 選んだのは左の道。
 特に深い理由があったわけではない。
 地上でみた遺跡の連なりが、確か左斜めに向かって伸びていたので、こちらに進めば遺跡群が地下で繋がっているかどうか判断ぐらいはできるかと考えたという程度だ。
 正直に言えば、それも大して期待はしていない。
 それでも、空也は迷いなくダンジョンと化した遺跡の奥へと進んだ。


 「キィィー!!」
 蝙蝠の姿をした魔獣が高周波を伴った魔力攻撃を放つ。
 相対する空也は焦ることなく冷静に水晶の剣を斜め下から斬り上げた。
 世界最高の剣士たる神月空也はいとも容易く魔法および魔力を断ち切る。
 蝙蝠魔獣の必死の攻撃は儚く無効化され、空也には傷一つ付けることも叶わなかった。
 しかし、高周波の余波自体は掻き消せない。
 高音の耳鳴りが空也を襲う、がその影響を受けるよりも早く空也は地面を蹴った。
 跳び上がり、空中を漂うように跳んでいた蝙蝠魔獣を剣の射程に捉える。
 蝙蝠魔獣が逃れようとするより早く、斬り上げたままにしていた水晶の剣を返すように袈裟斬りに斬り降ろす。
 「ギィ……ッ!!」
 雷撃のような速さの剣撃に魔獣はあっけなく真っ二つに切り裂かれ、地面に落ちる手前で瘴気と魔力に還元された。
 それらを見届けることもなく空也は音もなく地面に着地し、水晶の剣を松明として掲げ直した。

 遺跡に潜り始めて、既に三十分以上の時間が流れていた。
 アベルを追うための足跡や魔力痕、または遺跡の構造を予想できるような材料の類は未だ発見できていない。
 出て来るのは先ほど相手にしていたような一部の動物や虫が瘴気によって魔物化した魔獣たちぐらいだった。
 それも大した強さでもない魔獣だ。
 足を止めていた空也は水筒を煽って一口水を飲んでから、ため息を吐き、通路の先に向き直った。


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