魔剣騒動 6

 相変わらず周囲は暗く、水晶の剣を発光させていなければ一メートル先も見えないだろう。
 空也としてもここまでの広さがある未踏の前期遺跡は殆ど潜った経験がないので断定は出来ないが、一般的に人魔大戦前期の遺跡内部は永久発光体が設置されていることが多く、ここまで灯りがないことは珍しい。
 経年変化によって自然に灯りが無くなってしまったのか(本来的には消えない永久発行体も様々な外部要因によっては消えることがある)、それとも何かしらの理由があって灯りを取っていないのか。
 「そういえば、奥に潜む魔物を外に出さないために迷宮を作る、なんて話を聞いたことがあったな」
 呟き、口角を上げて、それから息を吐く。
 もし、その想像が本当だとしたら件の魔剣が『魔物』ということになるのだろうか。
 『例の剣』ではあるまいし、そんなことは無いだろう。
 知識のない自分がこれ以上想像しても仕方がない、と空也は再び歩を進める。
 こういう考察は専門家であるレイア・ウルトゥスの意見を聞くのが一番で、そうであるならまずは合流するのが何よりも先決ということになる。
 暗い通路を水晶の剣で照らす。
 右は再び長く続く通路。
 左は少し行った先にまた下りの階段が見えた。
 ここに来るまでの間にもいくつかの階段を通ってきた。
 時々上りもあったが、その多くは下りでどんどん地下に降りて行っているというのが空也の体感だった。
 「まだ下があるのか……」
 遺跡の広さと深さにげんなりしながら左の下り階段の方へ進んだ。


 ギィン、と硬質な物質同士が擦れ合う音が迷宮に響いた。
 「ッ……! このッ……!」
 音源の片方、レイア・ウルトゥスは短く悪態を口にしてから、弾かれ跳ね上げられた片刃の剣を全力で振り下ろした。
 レイアの一撃は、流石は一流冒険者のそれで、周囲の空気ごと切り裂くような速く重い斬撃であった。
 が、レイアの眼前に迫る巨体はいとも容易くその斬撃の間に自身の腕を割り込ませる。
 直後、先ほど響いたのと同じようなギィンという音が鳴り響き、再びレイアの剣を弾き返した。
 レイアは、今度はその勢いに逆らわず後ろに跳ぶようにして敵との距離を取る。
 その動きを追うように巨体が動く。
 右の拳が振り上がり、巨体に似つかわしくない程に速い拳撃が襲い掛かる。
 体勢を整えきれないレイアに避ける術はない、がその表情に焦りは無い。
 巨体の拳がレイアを捉えるよりも早く小さな魔法陣が間に割り込むように展開、発動される。
 直後に発生した小規模な爆発が巨大な拳を弾き返した。
 巨体がバランスを崩したように後退する。
 その隙にレイアが剣を構えなおす。
 巨体もすぐに体勢を立て直すと、こちらの動きを窺うようにジリと静止した。
 睨み合う両者。
 視線だけを動かし、先ほど爆発を受けたはずの右拳を確認するが傷一つついていない。
 「……おい、相変らず無傷だぞ」
 「えぇー。ちょっとは火力上げたんだけどなー」
 レイアの静かな問いかけに、その背後に控えるアベルは緊張感の無い間延びした声で応えた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?