魔剣騒動 2

 「あれがキャンプか?」
 メオノラ市を出て、砂漠を歩いて数時間。
 突如として現れた谷をさらに一時間少々歩いたところで、空也はやっと目的の遺跡探索キャンプとその背後に見えるいくつかの遺跡群を目にすることができた。
 やっと辿り着いたという些細な達成感から空也は無意識のうちに立ち止まり、ため息をついた。
 ギルドの話では、なんだかすぐに着くような言い方だったが、思った以上に時間と労力がかかった。
 腰に下げた水筒を手に取り、口を付けるが水が出てこない。
 どうやら水もいつの間にか底を付いていたらしい。
 もう一度、今度は意識して盛大に溜め息を吐き、それからキャンプに足を踏み入れた。

 このキャンプに訪れるまでに思ったよりも時間が掛かった。
 アベルから『魔剣』の話を聞いてから既に三日も経っている。
 そのほとんどはギルドの手続きの問題だった。
 上位の冒険者である神月空也であれば、ほとんど素通りで依頼書の手配から遺跡へ入る許可証までスムーズに済むはずだったのだが、どうにもメオノラのギルドの幹部、或いはメオノラ市の統治機構から横やりがあったようだった。
 それでもこうしてこの地まで来れたのは第二ギルド筆頭冒険者たる『爆発の勇者パーティ』と、更にそのうちの一人、七大ギルド連合公認遺物調査官レイア・ウルトゥスが先んじて推薦状を提出していてくれたからだ。
 ということは、アベルはもとより空也を巻き込むつもり満々だった、ということなのだが、今はそこに関しては置いておこう。
 それよりも問題なのは横やりの件で、やはりどうにもこうにも今回の『魔剣騒動』というものはキナ臭い。
 気ままな冒険者として各地を転々と渡り歩いている空也としては、特に思い入れも無い土地の政治的なアレコレに巻き込まれるのは御免なのだが、こと剣の絡む事件である以上『剣の勇者』の看板を掲げている以上、放って置くわけにもいかない。

 そんな面倒な今の状況がキャンプに来て改善されているというわけもなく、目の前にいるガタイの良い男は怪訝な顔で空也の顔と手渡した許可証を見比べていた。
 「・・・」
 いかにも気に入らないという表情の男に、空也はつまらなさそうに奥の遺跡群に目を向けてやるだけだった。
 しばらく無言の気不味い空気が流れたが、やがてキャンプの中の一際大きなテントから小男が小走りでやってきた。
 小男は空也の方を一瞥したあと、ガタイの良い男に何やら耳打ちを始めた。
 ガタイの良い男は無言のまま小男の話を聴いたあと、それから空也にも聞こえるようにわざとらしく舌打ちをした。
 「確認が取れた。通れ」
 突き返された書面を空也が受け取る。
 「妙なことするなよ。叩き出すからな」
 捨て台詞のようにそう言い捨てて、ガタイの良い男は小男を伴ってテントの中に入って行った。
 恐ろしい程に歓迎されていないらしい。
 空也は誰もいなくなったキャンプの入り口で大きくため息を吐いた。
 なんとも面倒だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?