魔剣騒動 4

 遺跡へと進んだ空也を最初に出迎えたのは遺跡の入り口。
 金属製の素材で作られた扉であった。
 金属製らしきその扉は所々剝げてはいるが未だに白い塗料で塗られているのが見て取れた。 
 この遺跡は人魔大戦前期に作られたものだ、というギルドから説明を改めて思い出しながら空也は扉を眺めた。
 人魔大戦前期の技術は恐らく空也や怜音の元居た現代の世界よりも発達した文明社会だったのだろう、と空也も怜音も考えている。
 元居た世界には存在しなかった魔法が科学と共に融合・発達した社会だと思われるそれらはいったいどんな風景を作り出していたのだろう。
 空也は人魔大戦期の遺跡を訪れる時にいつもそのことを考えてしまう。
 無意識に息を吐いていた。
 頭を軽く左右に振り、浮かんだ思考を振り切った。
 それから空也は背後を振り返った。
 遠くには先ほど出てきたキャンプが見て取れた。
 テントを出た途端に妨害ついでに襲われる、という可能性も視野に入れていたのだが、流石にそれは杞憂だったらしい。
 奴らがテントから出て来る様子はなかった。
 「発掘調査もしない調査隊……ね」
 口に出してみればなんとも滑稽な存在だった。
 いや、意味はあるのだろう。
 例えば見栄や牽制。
 対外政策の一環としてはそれなりによく見る手の一つだ。
 考えれば考えるほど社会というものが抱えている歪みに触れてしまいそうだ。
 呆れたようにため息を吐いて、空也は今度は地面に視線を移した。
 運よく先行者たるアベル達の足跡が残ってないものかと目を凝らしてみたが、砂の地面は風に吹かれて綺麗にまっさらだった。
 あまり期待せず魔力探査も行ってみるが、反応は無し。
 どうにもこの周囲は濃い空間魔力と遺跡の奥から漏れ出ているらしい薄い瘴気が混じり合い魔力認識を阻害される。
 もう少し気を入れて探査すればまた違うだろうが、面倒だった。
 どうせ進んだ方が手早い。
 空也は視線を戻し、扉に手を掛けた。
 おそらく元々は魔力感知式の扉なのだろうがすっかりその機能は失われてしまっているようだったが、少し力を込めてやるだけですんなりと扉は開いた。
 開いた扉は特有の魔力と瘴気を孕んだ冷たい風を吐き出した。
 眼前に現れたのは長く続く階段で、奥まで見通しが利かず真っ暗闇だけが見えた。
 一瞬考えてから空也は宙に人差し指を走らせ魔法陣を描く。
 精緻に描かれた魔法陣が一瞬煌々と光を放つと、次の瞬間には空也の手に一本の剣が握られていた。
 決して精巧な作りとは言えないその剣の刀身は水晶で出来ている。
 空也が魔力を通してやるとその刀身が光を放った。
 あらゆる聖剣、魔剣、妖刀の類をノーリスクで使いこなす『剣の勇者』神月空也の所有する剣の内の一つだ。
 一応はこの水晶の剣も聖剣だか魔剣だかのうちの一つで、とある遺跡の最奥で手に入れたものなのだが、その能力は魔力を通すと周囲を照らす程度の光を放つという能力だけ。
 必要魔力は非常に少なく、燃費は良いのだがそれ以外には何の能力も持たない。
 しかし、こういう場面では武器と松明の両方の役割をこなしてくれるので重宝はしている。

 空也はそんな水晶の剣を片手に、気負うことなく遺跡の奥へと足を踏み入れた。


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