白澤 優人の人となり 1
『食堂』という施設がある。
多くの方がご存知の通り、食事の提供と飲食をする為の場所だ。(それ以外の目的もあるだろうが、一旦脇に置いておく)
人が集まる公共施設には設置されていることの多い『食堂』だが、仮にも名門と冠せられることもあるこの高校にも例外ではなく存在していた。
生徒のおよそ三分の一程度(目算)が昼休みの時間に利用し、一番の賑わいをみせる学校施設である。
さて、そんな学校の食堂こと『学食』だが、俺ーー桐間 周は今まで利用したことがなかった。
その一番の理由は、特筆することでも無いのだが、俺が弁当派だからだ。
俺の両親は共働きではあるが、海外に居るだとか、出張が多いだとか、放任主義だだとか、そんなことは無いので普通に家に居るので、母親は毎朝弁当を拵えてくれる。
至極有難い事で感謝してもしきれない。
俺はそんな感謝を胸に抱きつつ(恥ずかしいので言葉には出さない)、ほぼ毎日弁当を受け取り登校するので、食堂に用事が無い。
二番目の理由を挙げるなら、俺が普段部室で昼食を取るからだ。
すっかりと慣れきった部室の居心地の良さは格別で、傍若無人な屋主がいるとはいえ離れ難い。
冷暖房完備、インスタント味噌汁やお茶、コーヒーの類、お菓子類も準備済み、その上校内一の美人の先輩まで度々訪れるのだから部室に行かない手は無い。
傍若無人な屋主はいるが。
そんな理由もあって、たまに母親に弁当を持たされていない時も、登校途中のコンビニ等で昼飯を買って登校し、部室で食べる、というのが俺のスタイルであり、食堂を使わない理由だ。
そして、第三の理由もある。
人混みが怖いからだ。
友達の居ない、俺の様な人間には人混みというのは恐怖でしか無いのだ。
しかも、昔からこの顔面のせいで人混みに入ると奇異の目で見られる、嫌そうな目を向けられる、無闇に怖がられる、果ては喧嘩を吹っ掛けられるというのが常で、とにかく嫌な思いをする。
だから、人が、しかも何かしらの集団の中に入るのはとにかく怖いので、昼休みの学食など近づきもしなかった。
のだが、では何故俺が、今こうして学食の券売機の前にいるのか、といえば当然ながら理由があった。
まず第一、今日は母親が朝から忙しいらしく俺が登校するより前に出勤していた。
つまり、弁当が無かった。
第二、俺が寝坊した。
母親も居なかったので起こされることもなくわりとやば目の寝坊をかました。
結果、急いで登校する羽目になり、途中のコンビニで買い物をする暇すらなかった。
第三、今日は部長ーー月瀬 水仙と生徒会長ーー伊吹 湊の二人が揃って用事らしく、学校を休んでいる。
そのため、部室を開けるには大変面倒なことに職員室に鍵を取りに行かねばならないし、その上部室に行っても誰も居ないのが確定している。
第四、俺は昨日その話を部長と伊吹先輩のどちらからも聞いていたのに完全に忘れていたということだ。
呑気にいつも通り部室を訪れ、鍵が開かなかったところでやっと思い出した。
第五、そのせいで頭が一瞬完全に思考を止めてしまった為、購買に行くのに出遅れてしまい、俺が訪れた時にはパンやおにぎりの類が買い尽くされたあとだった。
部室が開いていれば、お菓子の類で腹を満たすことも出来たし、なんならそれを期待してもいたのだが、部室を開けるのは大変面倒だった。
という訳で、失意の底に落ちた俺は「そう言えば『学食』というものがこの世には存在するらしいな」と思い出し、気は乗らないもののなんとかこの学食の食券機の前まで辿り着いたのだった。
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