『この中に裏切り者がいる』『必殺技で倒すヤツ』
「お兄ちゃん……!! お願い、間に合って……!!」
宇野 聖花(うの せいか)は夜の街を走っていた。
『この中に裏切り者がいる』
その事実に気づいたのは先ほどだった。
ここ半年ほどの兄の巻き込まれた多数の事件の情報の整理を行っている時に気づいたのだ。
明らかに『組織』からの介入が多いという事実に。
元々『協会』と『組織』は互いに対立していたし、介入してくるのは当たり前なのだが、明らかに途中から介入してくることが多いということに聖花は気づき、違和感を覚えた。
兄が関わった事件の中には突発的に起こった事件だけでなく、元々問題になっていたことが事件にまで発展したものも多くあった。
突発的な事件であれば、後から『組織』が介入してくることも自然であるが、元々問題になっていた事件は違う。なぜ兄が関わってから『組織』は介入してくることになったのだろうか。
疑問を抱いた聖花はすぐに『協会』に兄が関わっている事件以外の『組織』の介入状況を問い合わせた。
時間がかかったもの、『協会』からの情報提供を聖花は受けることができ、実際に比べてみると、やはり兄の関わる事件に対して『組織』の介入は多かった。
聖花の気のせいでないのだとすれば、『組織』側は兄の動向がわかっていることになる。
おそらく監視をつけているのであろうが、兄の近くには聖花自身を含めた複数のFP能力者がおり、『協会』において兄を中心とした一勢力として数えられているほどである。
そんな彼ら彼女らが兄に敵対する人間の気配に対して何もしていない、というのは考えにくかった。
そこで、聖花は思い立ってしまったのだ。
兄を中心とした勢力の中に裏切り者、つまり『組織』側のスパイが存在しているという事実に。
聖花はすぐに兄に電話を掛けようとしたが、兄は電話に出なかった。
嫌な予感が頭を過ぎり、居ても立ってもいられなくなり、聖花は家を飛び出て、兄を探し始めた。
兄を探し、闇雲に夜の街を探していた聖花だったが一旦立ち止まっていた。
ふとスマートフォンの表示に目をやると時刻は23時を回っていた。
いつもの兄であれば、もう家に帰ってきている時間だ。
家を出る時、母に兄が帰ってきたら連絡するよう頼んでおいたが、その連絡もないようであった。
焦りが加速し始めた、その時だった。
ゴウッ、と大気が大きく揺れた。
一般人には感じ取れない、FP能力者が感じ取れる大気中のFPの揺れである。
「……ッ!!」
揺れを感じた方向を向き、FPを集中させ状況を確認する。
あれほどの揺れがあったということは、誰かが大規模なFP能力を行使しているか、境界が裂けバケモノが出現したか、どちらかが起こったのである。
そして、どちらにせよ戦闘が行われていることは明白であった。
聖花はすぐに空中に指を走らせた。空中に光る魔法陣が出現し、発動させると、黒い三角帽子、黒いローブ、そして杖が顕現される。
黒に身を包んだ聖花は飛び上がり、風を切るような速度で震源へと向かう。
近づけば近づくほど、兄の気配が感じられるようで、聖花の焦りを加速していった。
「……もっと早く……!!」
「……見つけた!!」
たった数分が数時間にも感じられた飛行の末、果たして聖花は兄を視認できた。
状況は最悪。
兄の周りには複数の小さな空間亀裂があり、そこから黒い不定形のバケモノが滲み出すように姿を現していた。
兄を囲む空間亀裂の向こう側に、フードを深くかぶった人間の姿――おそらく『組織』の術者――があり、さらにその横には聖花が今まで見たことのないような規模の空間亀裂が出現していた。
「……ッ!?」
思わず息を呑むほどに強烈な重いFPが発せられており、おそらく先ほどのFPの揺れはこの亀裂が出現したせいなのであろう。
今すぐに飛び出しそうになる体を必死に押さえつけ、聖花は空中にとどまったままもう一度兄の方を確認した。
兄の側にいたのは大柄な男だった。
兄は拳で、大柄な男は手に持った金属バットで周囲の黒のバケモノに応戦していた。
状況を確認し、今度は衝動に逆らわずに聖花は跨っていた杖から飛び降りた。
聖花の体は自由落下を始め、重力によって加速し、風切り音が聖花の耳に届く。
空中に浮いていた杖はすぐに聖花に追いつき、聖花の右手に納まった。
加速を感じながら聖花が小さく呪文を唱えると、杖を中心に魔法陣が展開され、煌めき、発動し、聖花の加速をさらに速めた。
加速した聖花は一瞬にして目標地点である兄と大柄な男の間に、ズドンという轟音と小さな揺れともに着地した。
「!? 聖花!!」
兄が驚きとともに、目の前のバケモノから離れ、聖花の方へ駆け寄ってくる。
音に気づいた大柄な男もこちらに振り向き、近寄ろうとしたが――
「それ以上近づくな!!」
聖花は声を荒げて杖を向け、もう一人の動きを制した。
距離を保ったまま二人の動きが止まる。
「……随分な挨拶だな、宇野妹」
状況がわからないのか?とでも言いたげに大柄な男――赤崎 仁志は背後の空間亀裂の方を顎で指した。
「どうしたんだよ聖花!!」
聖花の背後まで来た聖花の兄――宇野 耕輔が聖花に声をかけた、が聖花は耕輔の方へは振り返らず、赤崎の方を睨んだままだった。
三人の動きが止まったことを好機だとみたのか、黒い不定形のバケモノが三人の真横から襲い掛かってきた。
真っ先に動いたのは赤崎であった。
赤崎は迫ってきたバケモノへ思い切り金属バット叩きつけた。
ベチャ、という肉の塊を叩いたような不快な音を立てて、四方へ黒い塊が飛び散り、やがて蒸発したかのように消えた。
それが合図だったかのように周囲のバケモノたちがもぞもぞと蠢きだした。
話をつけるにも、どうやらまずは周囲を片付ける必要があるようだ。
耕輔と赤崎は即座に振り向き、向かってくるバケモノの迎撃を始める。
聖花も杖を両手で強く握りしめ、小さく呪文を唱え、魔法陣を展開させる。
聖花が集中を切らさず大量のFPを練り上げ、魔法陣に注ぎ込むと、それに呼応して最初は聖花一人分の大きさであった魔法陣が周囲を取り囲んでいるバケモノと小さな空間亀裂を包むほどの大きさに膨れ上がった、膨れ上がった魔法陣がひと際強く煌めきだす。
魔法陣の反応に気づいた耕輔と赤崎は咄嗟に身を屈めた。
魔法陣の中心に立つ聖花が小さく呟いた。
「『フレィジォ』」
直後、大規模な爆発が起こり、轟音と閃光が周囲を包む。
不定形の黒いバケモノと小さな複数の空間亀裂は爆発に飲み込まれ、掻き消された。
やがて場に静寂が戻る。
「残りはあんた達だけよ」
静寂を切り裂くように聖花は赤崎とその奥にある巨大な空間亀裂、そしてその横に立っている組織の術者に対してビシッと杖を向けた。
「……何の話だ?」
赤崎が服に付いた砂埃を払いながら肩を竦めた。
「あんたが裏切り者だ、赤崎 仁志」
「裏切り者?」
睨んだままキッパリと言い切った聖花に対し、赤崎は首を傾げた。
「おい、聖花。どうしたんだよ」
背後にいた耕輔が宥める様に聖花の肩に手を置いた。
「お兄ちゃんが関わる事件には『組織』の介入が多すぎる。お兄ちゃんの仲間のうちの誰かが『組織』側に繋がっていて、誰かが手引きしている。
そして『組織』が事件に介入してくるときお兄ちゃんの側にはアンタが必ずいる。
今までも、そして今日も」
「言いがかかりだな、偶々だ」
「言いがかりでも構わないわ。ここでアンタを処理しておけば可能性は一つ消せるわ」
「聖花!!」
耕輔が聖花の肩に置いた手に力を込めたが、聖花は微動だにせず、変わらずに赤崎を睨みつけていた。
聖花の瞳に宿る強い意志に対し、赤崎はお手上げだ、とでも言いたげに肩を竦めた。
数十秒互いに動かなかったが、やがて赤崎が小さく嗤った。
「……父親の仕事の関係でな、昔から『組織』と繋がりがあったのさ。FP能力も元々その関係で鍛えたのさ」
赤崎は聖花から目を逸らすように、後ろへ振り返り、歩き出した。
「やがて宇野 耕輔に出会った。宇野は特殊すぎる人間だ。なんせFP値がゼロの人間なんて聞いたことがなかった。だから、俺は研究しようと思った。『宇野 耕輔』という人間をな」
研究。
『組織』の教義の最も根幹であり、彼らは研究のためであれば世界が滅ぶことすら厭わない。
だからこそ世界の維持を目的とする『協会』とは、決して相容れないのだ。
「ただそれだけさ」
「それだけ……!? それだけのためにお兄ちゃんを危険に晒していたの!?」
「宇野の能力を研究するためには戦闘の中でFPの変化を探る必要があると思った、だからこうして境界に干渉する『組織』の術師が必要だった」
赤崎は空間亀裂の横に立つ術者を指した。
耕輔は状況を掴めず、立ち尽くしていた。
聖花は俯き、血が滲むほど拳を握りしめた。
「……ふざけるな……」
「見ろ、この馬鹿でかい空間亀裂を。これが研究の成果だ。
宇野は広範囲のFPに無意識のうちに干渉して、FP同士の相互干渉を抑制、またはゼロにしている。こっちとあっちの世界の互いのFP干渉に関しても同様に作用している。だから、宇野の近くでこうして境界に細工してやれば、簡単に空間亀裂が出現するようになる。」
「……ふざけるな!」
「この空間亀裂は今まででも最高だ。ここから出現するバケモノは『協会』の基準で言えばフェーズ6には簡単に届くはずだ。フェーズ6以上のバケモノなんて簡単に相手できるのはいくら『協会』といえども『五天』なんて呼ばれてる連中ぐらいだろう」
「ふざけるな!!」
赤崎の言葉を遮るように聖花が怒号とともに飛び出した。
杖を握りしめ、魔法陣を展開させる。
「『ウェントゥ』!!」
呪文を唱えると魔法陣が煌めき、風が聖花を包んだ。
速度の上がった聖花は一瞬で赤崎との間合いを詰め切り、さらに魔法陣を展開させた。
「『グレィドゥス』!!」
発動させたのは刃の魔法、杖の先端にFPの刃が現れ、聖花はそれを容赦なく振り下ろした。
赤崎は刃と化した杖を手に持った金属バットで難なく迎撃し、FPの刃を砕ききった。
いとも簡単に魔法を打ち砕かれ聖花は驚愕の表情を浮かべたが、その刹那の隙を赤崎は見逃さず、聖花の腹を思い切り蹴りぬいた。
「グッ……!!」
小さな呻き声を上げながら、聖花は後方へ軽々と弾き飛ばされた。
「聖花……!!」
ようやく動き出した耕輔が聖花のもとへ駆け寄る。
「お兄……ちゃん……あいつを止めて……じゃないと……街が……」
「……!!」
言葉が切れながらも聖花が耕輔に促すと、耕輔は赤崎の方を睨み、間合いを詰めるため走り出す。
だが――
「だが、もう遅い!!」
赤崎がニヤリと笑い、耕輔が間合いを詰め切るより早く宙に向かってFPを大量に込めた金属バットを振り下ろした。
数瞬遅れてガラスが割れるような不快な音が大音量で周囲に響き渡り始める。
赤崎の背後にあった巨大な空間亀裂が完全に開く音である。
FPが大気を揺らす。
息が詰まるほどに重苦しい禍々しいFPがあふれ出し、ズルリと巨大な黒いバケモノが空間亀裂から姿を現した。
「――――ォォォォォォォォオオオオオオ!!」
バケモノは大きく口を開け、地球の動物のどれともつかない不気味な雄叫びを叫びあげた。
それだけで生物を気絶させるほどのプレッシャーを放っていた。
「ハ、ハハハハハハハ!! これがお前の能力の結晶だよ、宇野!!」
嗤う赤崎の額にも大粒の冷や汗が浮かんでいた。
赤崎にはこれ以上の目的はなかった。宇野耕輔の能力を利用し、どれだけのバケモノが呼び出せるのか、その研究だけが目的だからだ。
だが、結果この街が、またはこの世界が滅びようと構いはしないのだ。
集中が切れたのか赤崎は耕輔が間合いを詰め切ったことに気づいていなかった。
耕輔は渾身の力を込めて、赤崎をぶん殴った。
ゴッ!!という鈍い音が響いて、赤崎はあっさりと地面に倒れた。
耕輔はそのまま力を抜かずに、これから相手にしなければならない今まで見たことのないほど巨大なバケモノを見上げた。
見上げた瞬間、耕輔の全身が緊急のアラートを告げたような感覚を覚え、耕輔は足元に倒れた赤崎を拾い上げて全力で走り出す。
辺り全体のFPが吸い込まれるような低いFP振動、バケモノの口を中心に黒い光の粒子が集まりだし、そしてバケモノの口がガパリと開き……――音が消えた。
直後に轟音。
先刻の聖花の爆発魔法では比べ物にならないほどの轟音と振動が先ほどまで耕輔が立っていた個所を中心に襲い掛かった。
「グゥッ!!」
耕輔は間一髪で直撃は避けたものの衝撃で赤崎ごと数メートル弾き飛ばされ、地面を数回バウンドした。
全身にダメージが渡り、骨折などのダメージはないものの、視界は揺れ、息一つ吐くたびに鈍い痛みが全身に駆け巡ったが、耕輔はそれでも立ち上がった。
誰かが止めなくてはならないのだ。
周囲を見回せば気絶した赤崎と聖花が近くにいることが分かったが、武器になりそうなものは何一つなかった。
焦りながらもバケモノを見上げると
「おいおいおいおい……嘘だろ……?」
明らかに耕輔に照準を合わせて二発目の攻撃態勢に入っていた。
辺り全体のFPが吸い込まれるような低いFP振動が始まる。
耕輔は逃げるわけにはいかない。
何故なら近くには聖花と赤崎がいて、自分だけ逃げれば彼らが直撃を食らうことになる。
今のダメージでは二人を抱えて逃げることもできない。
バケモノの口を中心に黒い光の粒子が集まりだす。
耕輔は覚悟を決めて、拳に力を込める。
信じられるもので残っているものがあるとすれば耕輔自身の不思議な能力だけだ。
耕輔はバケモノを精一杯睨みつける。
その視界の端に一筋の流星が見えた。
(……今日は天気がいいなぁ)
バケモノの口がガパリと開き、そして――――
――否、それは流星ではなかった。
バケモノが口を開ききるより早く、『ソレ』は飛来した。
ヒュン、という風に掻き消えてしまうような細い高音が響き、バケモノの肩にあたる部分をいとも容易く貫き、そして音も立てずに『彼女』は何事もなかったかのように耕輔の目の前に着地した。
耕輔もよく見知った制服を身に纏い、長くしなやかな黒髪は柔らかな風に揺らぎ、整った顔立ちの中でやがて強い意志を宿した切れ長の目が開かれた。
「む? ……耕輔か」
飛来した少女はこの危機的状況に際して、至って呑気に目の前に立っている耕輔に声を掛けた。
「…………言海……?」
耕輔は状況を飲み込めず回らない頭の中で何とか思い出した、幼馴染の少女の名前を口に出した。
少女が耕輔に近寄ろうと動き出したところで――
「――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
動きの止まっていたバケモノが咆哮を上げ始めた。
それはさながら警告音のようであり、巨大な黒いバケモノが耕輔の目の前にいるバケモノの何分の一の大きさもない少女に怯えているようであった。
「――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
咆哮が止まないままバケモノがまたしても攻撃態勢に入り始めた。
辺り全体のFPが吸い込まれるような低いFP振動が始ま――
「うるさい奴だな……」
バケモノの攻撃準備を全く無視して、少女は右腕を水平に伸ばし、指パッチンを一つ。
「『カグツチ』」
少女――琴占 言海の口から小さく放たれた一言。
それだけだった。
それだけで巨大なバケモノの全身が激甚な炎に包まれた。
「――ォォォォォォォォォォ…………!!」
もがき苦しむように苦痛の悲鳴を上げながらバケモノは苦しみから逃れるように、少女を破壊せん、と腕を伸ばしたが、言海に届くことはなくボロボロと伸ばした腕が崩れ始め、やがてその崩壊は全身に回り、巨大なバケモノは存在の痕跡すら残さず消滅した。
辺りに穏やかな静寂が戻る。
「……立てるか?」
あまりの出来事に呆けていたようで、耕輔の気づかないうちに言海が目の前まで来て手を伸ばしていた。
いつの間にか膝をついていたようで、大人しく言海の手を取って耕輔は立ち上がった。
立ち上がった耕輔を見て、「うむ」と満足したように首を縦に振ってから言海は振り返った。
「さて、残るはお前だけだ。『組織』の術者」
先ほどまでバケモノの居た辺りに立ち呆けていたフードを深くかぶった術者がビクリと肩を揺らした。
「私が考えていたよりも幾分か遅くに耕輔の能力に目を付けたようだが、今日これからこれ以上やるのか?」
「ん?」と言海が何でもないように問うが、術者は意識を失ったように動かない。
「やるのであれば当然私が相手をしてやろう。
なに、私の大切な『日常』に抵触しないのであれば君にも0.001%程度の勝ち目はあるかもしれないぞ」
一旦言葉を置き、言海が一歩術者に近づいた。
「尤も、『日常』を脅かすようであれば、先ほどのバケモノと同じ運命を容易く辿ることになるが、な」
言海の感情は平坦であるように思えたが、術者の背中にドッと冷や汗が浮かび、体の震えが止まらなくなった。
術者の反応を見た言海はごく小さくため息をはいてから、術者に向けて手を払うようなジェスチャーをした。
「散れ」
短く言海が告げると、体が一度大きくビクンと揺れた後、術者は素早くFPを練り始め、やがて夜闇溶けるように姿を消した。
術者が消えたのを確認してから、言海は耕輔の方へ再度振り返った。
「吃驚……はしなかったな。お前の事だ、いつかこうなるだろうとは予想していたよ」
言海は苦笑いしたが、耕輔は喉が動かなかった。
「さて、今日はもう遅い。気になることはあるだろうが、それは週明けにするといい。疲れたろう? 耕輔のお母さんも家で待っているだろう、帰って休むといい」
そういって言海は周囲を見回した後、近くに倒れていた赤崎の方へ近寄り、自分より慎重も高く、体重も二倍弱あるはずの赤崎の体を難なくヒョイと持ち上げ肩に担いだ。
「赤崎先輩の身柄は悪いが私が預からせてもらうぞ。責任をもって『協会』へ運んでいくよ。それから、疲れているところ悪いが聖花ちゃんの方はお前が運んでやってくれ。どうも私はその子に好かれていないしな」
「それでは」と言葉を切って言海が両足にグッと力込めたところで
「ちょ、ちょっと待ってくれ言海」
耕輔はなんとか言葉を絞り出した。
言海も動作を中断し、耕輔の方へ顔を向けた。
「……お前は何者なんだ?」
耕輔は絞り出した疑問を真剣な表情で言海に向けた。
言海は一瞬面を食らったような表情をしたが、すぐに小さく笑い
「宇野 耕輔と風島 清景の幼馴染さ」
そう告げると、今度は止まることなくヒュンという甲高い風切り音だけを残して姿を消した。
「……お……兄ちゃん?」
「あ……聖花」
しばらく耕輔が呆けていると近くに倒れていた聖花が起き上がったようだった。
「……あれ? 敵は……?」
「全部終わったよ」
キョロキョロと辺りを見回す聖花にそう告げて、耕輔はしゃがんで聖花に背中を示した。
聖花はそれに逆らわずに耕輔の背中に全身を預け、脱力した。
耕輔は聖花をおんぶして立ち上がる。
「……俺たちも帰ろうか」
整理の着かない疑問が頭を駆け巡り続けていたが、耕輔は一旦それらを置いて家路につくことにした。
完
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