白澤優人の人となり 4
「へぇ、そうなんすね……」
カツを食べる。
肉はともかく、衣はサクサクでカレーの味を引き立てる。
白澤先輩はラーメンを食べていた。
特盛のラーメンはドでかい器に盛られているようなのだが、先輩との対比であまり大きく見えない。
先輩はラーメンを啜ると随分と美味しそうに微笑んだ。
学食のラーメンなので特筆して美味い、なんてことは無いと思うのだが、先輩を見ているとラーメンを食べたくなってしまう。
――いや、違う。
そんなことはどうでもいい。
先輩との会話に聞き捨てならないものがあった。
「え、待ってください。白澤先輩の家、お手伝いさんがいるんすか?」
「お手伝いさんとは言ってもほんの二、三人でござるよ? あぁ、それと創作物のように『メイドさん』ではござらんので、あしからず」
「いや、そこはどうでもいいっす。え、二、三人もいるんですか?」
「ぬ、『メイドさん』かどうかは男子にとっては非常に重要ではござらんのか……? まぁ、常駐してくださっている人数で言えば二人でござるな」
「……」
「?」
先輩は箸を動かしながら、無言になった俺の方を不思議そうに見た。
俺のスプーンは完全に止まっていた。
いや、確かに部長が白澤優人という人物に関して「良いとこの坊ちゃん」と言っていたのを聞いた覚えはあった。
でも、それがどの程度なのかを聞いたことはなかったし、そんなレベルだとは思わなかった。
お手伝いさんが家にいるってなんだ。
そんな単語、伊吹先輩の口からしか聞いた事がない。
一般家庭でしか育っていない俺には、白澤先輩がどんなレベルなのか想像もつかなかった。
「白澤先輩のお家って、めちゃめちゃ良いとこなんすね……」
結果、口から出たのは特に意味のない言葉だった。
「はっはっはっ。まぁ、そうは言ってもこの学校には伊吹氏が居られる故、大したことはないでござるよ」
伊吹先輩と比べられる時点でとんでもないのだが、もう今更何も言うまい。
俺は改めてスプーンを動かし始めた。
先輩はいつのまにか特盛のラーメンを完食したらしく唐揚げ定食に箸を伸ばしていた。
改めて、先輩を見てみれば、その食事姿にはなんだか気品のような、育ちの良さから来るのであろうものを感じる気がする。
食ってるものの量はおかしいけれども。
「先輩、よく食べますね」
「桐間氏、何事も身体が資本でござるよ。体重管理は重要でござろう」
「……なるほど」
白澤先輩がただの巨漢ではない、というのはなんとなく察していた。
俺より縦も横も大きいが、普段から身のこなしが異常に綺麗なのだ。
部長や伊吹先輩、炎堂さんのような『向こう側』の超人とは違う、真っ当なこちら側の達人のような所作。
これでも、(非常に不本意ながら)散々喧嘩に巻き込まれて来たのでその辺の見る目はあるつもりだ。
だから、俺は目の前の先輩と初めて対面した時、素直にビビったのだ。
あそこまで、真正面に『勝てない』と思った人間はそう多くない。
その強さの秘訣の一つが、目の前の食事量なのだろう。
大抵の人間は相撲取りと対峙すれば勝てないのだ。
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