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#3 暗く湿ったおじさんの居場所

 サウナブームのようだ。年に4~5回入りたくなって近所のスーパー銭湯に行く程度には、サウナが好きである。泊まった宿にあればまず入るし、最近は減ったが、かつてはスキーやロードバイクに乗ったあとにもよく入った。手足の指先の毛細血管がじんわりと広がっていく感覚が心地よく、ぐっすり眠れて疲れもとれ、メシもうまい。

 サウナ歴は20年以上だろうか。熱心に通っているわけではないので、サウナ好きというにははばかられるし、サウナーなどとはとても名乗れない。いまだ素人という気がする。いつもすみっこでちんまりと瞑して、20年たっても水風呂にはそろりそろりとしか入れない。ザブンと勢いよく入ろうものなら、その先は本当の天国が待っている気がする。

 昨今のブームは、暗く湿ったおじさんの巣窟に、急に光が射したような気恥ずかしさがある。なんせこっちは汗かいた裸のおじさんである。どうやってもさわやかにもおしゃれにもならん。「ととのう~」と快活に叫ぶ若い人はまぶしい。そんなYouTubeも思わず見てしまう。

 そうしたブームは古参にとって気まずくもあるが、とてもいいことだと思っている。皆が裸で汗をかいて平和な気分になるのであれば、こんないいことはない。サウナのあと横になって水木しげるの「河童の三平」でも読めば、世の中から争いはなくなるだろう。ノーベル平和賞ものである。どんどんととのったらよい。

 ただブームで気になることはある。サウナ関連の書籍の惹句やネット記事の見出しに「ビジネスエリート云々」などと書かれていることだ。そんなものはサウナに持ち込まないでほしい(本は非常によい内容だと思います。とても勉強になった)。

 「入れ墨のある方とビジネスエリートのご利用は固くお断りします」という志の高いサウナがあったら、大枚をはたいても通いたい。ビジネスエリートではないのでそんな大枚は持っていないけれど。

 ただ、「ビジネスエリート」と背中に彫った人がいるならば、それは侠気あふれる真のビジネスエリートに違いない。そんな漢のいるサウナがあったら、信念をねじ曲げてでも行ってみたい。

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