短編「真冬の初恋」

(文章が苦手ですが物語を作りたい。お付き合いいただければ嬉しいです。)


「真冬の初恋」


 冬休みが近づく十二月、ここ函館でも雪が積もり始めた。

 遠くの山はすでに真っ白で、凍てついた空気は頬を刺す。

 僕は中学二年、クラスの中では仲の良いグループが出来上がり、ある程度完成していた。

 一年前に転校して来た僕は出遅れていたのだが、夏から通い始めた学習塾がきっかけで、同じ塾の同じクラス、男女四人で時間を共にする事が多くなっていった。

 この四人のグループの中でムードメーカー二人がいて、企画の立案者はこの二人だ。

 期末試験が終わり二人が言い出した。

「ねぇ!クリスマスパーティーしようよ!」

 そんな訳で今日四人が家に来る事になった。

 我が家は喫茶店を営んでおり、集まるには格好な場所。
 ただ、お調子者の母のテンションが嫌なので、友人を招いた事はほぼない。

 それでも今回集まる事になったのはノリノリの二名の力に他ならない。
 とにかく押しが強い。

ちなみに僕と同じく押しに弱いもう1人の女子。

 色白で大人しく優しく、声は小さめだが透き通るように美しい。
 花が好きな彼女の実家はオシャレな美容室を営む。

 喫茶店なのに一番人気が「鍋焼きうどん」というオシャレと無縁な我が家の「サテン」とは大違いで、とても上品な育ちの子。

 淡麗な顔立ちも相まって、泥んこ野球少年だった僕からは、最も遠い存在だった。

 勇気を出して話しかけても声が上ずりカッコ悪い。

 お調子者で人間観察が趣味の母にはしっかり心読まれ、彼女が「タイプ」である事はあっさりバレていた。

 予想通り終始雑談。
「クリスマスにプレゼント交換をしよう」
 というありきたりなイベントだけが決定した。

 中学生の集まりなんてそんなものだ。

 ゲームでもすればと、母に促され、店の邪魔になるだろうからと、心で言い訳しつつ店の奥にある部屋に四人を誘い、入る。

 男子ですら招いたことのない自身が率先して女子を誘ったりする事は今まで無かった。

 自分の部屋にあの彼女が居て、座る場所が無いとはいえベットにチョコンと腰掛けゲームをして微笑んでいる。

「これは奇跡か」

 狭い部屋に四人いると距離が皆近い。

 彼女は右にいてゲームしながら動くたび体がいちいち触れる。

 確かめるように僕も動いてしまう。

 同じ種の生物の感触とは思えず、頭の中が真っ白になった。

 笑いすぎて涙が出てしまう彼女。

 天使か。

 暗くなり、さすがに帰ろうとなったのだが二人と彼女は自宅が真逆の方向なので、友人に言われ彼女を送ることになった。

「お、おう」
 戸惑いつつも一押しに応える。

 外に出るとしんしんと雪が降っている。
 でも傘をさすほどでは無い。

 二人を見送り、僕は彼女と歩き出す。

 靴底の厚さ程の新たに積もった雪の上、二人のグツグツと言う足音が鳴る。

 街灯はオレンジ色で広い歩道を二人で歩く。

 進む目の前の世界もオレンジ色に見える。

 彼女の横顔を見ると、彼女もこちらをみて
「寒いね」
 と天使は笑顔。

「そうだね」

 僕も笑った。

 冬なのに心がポッとなる。

 彼女は途中の横断歩道で何度も滑りそうになって、とうとうバランスを崩し尻もち。

 手を引いて起こしてあげた。

 引いた手を持ち上げたまま
「危ないからこのまま行こうか」

と少し照れながら言うと彼女は
「うん」
と下を見ながら頷いて、手袋の毛糸越しに二人はしっかりと手を繋いで歩いて進む。

 ときおり車が走り去る、雪の積もる街は全ての音を優しく吸収してくれる。
 耳に入る音は心地いい、意外と遠くの港の船の霧笛は聴こえてくる。

 静かな世界で手を繋いでからしばし沈黙していた。
 突然彼女が

「私、大きな怪我しちゃダメなんだって」

「えっ?」

「…血液の病気で、血が止まりにくいんだって」

 その告白を聞いて胸の動悸がすっと引いていくのを感じた。

 友人を含め、体の事や健康状態めいた話を打ち明けられた事は今まで経験が無い。
健康が取り柄の奴しかおらず、体に不安がある事がどんなに不安であるか想像した事もなかった。

 みんな等しく、同じく、学校生活を何の心配もなく過ごしている。

 そう勝手に思っていた。

 握る手に少し力がこもる。

「きっと大丈夫だから」

 力が入り少し震えかけた声で、でも彼女にそう言った。

「うん」

 彼女は小さく答えた。

 守らなければ消えてしまいそうな人。

 その人に僕は恋をした。

 真冬の無音の世界で二人は温もりを感じてゆっくり歩く。

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