【ラジオ文字起こし】「アジアのポップスを聴く時間!!!」#3 インドネシア編 ★Guest:Yuki Leeさん
ーー隔月の2週目にお送りしております、「アジアのポップスを聴く時間!!!」。今回もゲストをお招きしお送りしていきます。City Jazz Popバンド「Fontana Folle」のベース兼リーダー、そして「アジアのポップスを聴き倒す会」の主宰を務めていらっしゃいます、Yuki Leeさんです! 本日はよろしくお願いいたします!
はい、よろしくお願いします。楽しみにしてきました〜。
ーー第1回からお聴き頂いている方は度々耳にしている「アジアのポップスを聴き倒す会」というイベント、Yuki Leeさんが主宰をされております。「アジアのポップスを聴き倒す会」というのは、アジア各国のおすすめ音楽をテーマに愛好家の方とお客さんが歓談しながら音楽を聴く会で、これまで9回開催されてきたそうで。どういった内容だったのでしょうか?
最初は飲み会みたいな感じで、台湾だったりインドネシアなどの音楽に詳しい人たちを呼んで、プロジェクターでYouTube見ながら音楽聴いて飲み食いして楽しむ会をやっていて。それが徐々にゲストを呼ぶような形で始めて定着した感じです。台湾や中国語圏から始まり、インドネシア、タイ、韓国、インド編を開催してきました。お招きしたスピーカーの人たちもブロガーやライター、インスタグラマーだったり、あとは愛好家やミュージシャンなど様々です。
ーー8回目はいつもの東京ではなく名古屋で開催されましたよね。私も参加したのですが、お客さんパンパンですごく盛り上がっていた印象があります。その時のゲストが山麓園太郎さんでしたね。
韓国編では、BUZZY ROOTSの運営メンバー2人でゲスト出演しまして、韓国音楽について紹介させていただきました。スピーカーとして自分の好きな韓国音楽を語るというのは初めてだったのですが、とにかく楽しかったです。イベントの際に毎回料理が振る舞われるのですが、韓国編ではスンドゥブが出まして。
ダシ強めのね。
ーーエスニック純豆腐(笑)。本場とはまた違ってハイブリットな感じですごくおいしかったです。あとはお客さんが前のめりで聞いてくださったのが印象的でしたね。そこからYukiさんとは知り合って親しくさせていただいております。
ーーそもそもの質問になりますが、アジアのポップスを聴き倒す会はどのようにして始まったのでしょうか?
元々、欧米とかアフリカとかのほうが好きでアジアの音楽にはあまり関心が無かったんですよ。うちのバンドのボーカルがインドネシア人なのですが、それもあって、ある時アジアツアーやってみれば? ってある人に言われて真に受けちゃって(笑)。まずはインドネシアからスタートしようとしたのですが、そこからインドネシア音楽に詳しい人やインドネシアのアーティストと繋がる機会が激増して。
インドネシア以外へのツアーは結局実現しなかったものの、他の国のことも更なるツアー企画のため調べていたこともあり、他のアジアの国の音楽シーンについても知りたいと思い始めて。興味のある人は僕だけじゃないから、詳しい人集めて色々聞くイベントを開いたら、僕も来てくれた人も詳しくなるし楽しいかなと思って始めたのがきっかけです。そしたら謎の盛り上がりですよね。開催するって言ったら大体2週間で満席になるんですよね。
ーー開催当時のゲストはYukiさん自らブッキングしたのですか?
そうですね。3回目に出演してもらったタイ人になりたいよしださんは、Twitterでお声がけして。その次の台湾編ゲストのぐーちゃんはその時に来てくれて、次の回に出てもらった感じです。
ーーそして、Yukiさんのもう一つの活動であるバンド、Fontana Folle。どういったバンドなのでしょうか?
2016年に結成したバンドです。ギターのイイダリュウジは、元々アメリカとブラジルで音楽を学んだのでジャズとブラジル音楽がベースにある人ですが、いわゆるボーカルのいるバンドをやってみたいということで、僕も興味があったので一緒に始めることになって。初めは女性ボーカルを探してたんですけど、最終的に僕の知人であるAlvinが歌が上手いって噂を聞いたので、歌ってもらったら結構独特な声をしてるので、これは面白い組み合わせになるんじゃないかなって感じたんです。クラブイベントやMotion Blueなどのジャズ箱からだんだんライブハウスやフェスにも呼ばれるようになって。先述の通りインドネシアでもライブを、ジャカルタのMotion Blueでも演奏させてもらいました。
ーーそんなFontana Folleの楽曲を1曲目に聴いていただきたいと思います。今回お持ちいただいたのが、10/8(金)リリースの最新曲ですね。
Houg(ホグ)というシンガポールのアーティストとのコラボレーションです。彼がエレクトロポップのサブジャンルであるchillwaveのトラックメーカー・プロデューサーで活動していて。そこに私たちの音を加えていって作っていきました。それでは、Houg, Fontana Folleで 「Excuse me (what’s the time?) 」です!
M1. Houg、Fontana Folle 「Excuse me (what’s the time?) 」
ーーというわけで、Fontana Folleとアジアのポップスを聴き倒す会、ふたつの活動を通じて交流を持ち、魅了されていったインドネシアポップスについて、ここからはYukiさんイチ押しのインドネシアポップスをいくつかご紹介いただきたいなと思います。今回はどういったテーマでお持ちいただいたのでしょうか?
今回は新旧のインドネシアポップスをテーマにしています。
ーーなるほど。続いて2曲目は、Oslo Ibrahim(オスロ・イブラヒム)というアーティストですが。
ネットで見つけて、すごく気に入ったアーティストなんですけど、センスのかたまりというかミニマルで美しいアレンジをした非常に浮遊感のある美しいR&Bですね。抑制したギターソロも、新しい曲の中で一番好きな曲なので紹介したいと思い持ってきました。それでは、Oslo Ibrahim 「Someone That Can’t Be Mine」です。
M2. Oslo Ibrahim 「Someone That Can’t Be Mine」
ーージャケット写真もとても印象的ですね。インドネシアのポップスって言うと、フォークソングが多いイメージがあったので、そういった意味でもチルな感じというのは耳にも印象的に残りました。人数分しか鳴っていないというか、そんなシンプルさも涼しげで良いですね。
インドネシア北側にあるスマトラ島東北部の街の出身ですね。Oslo Ibrahimとしてのキャリアは2018年からで、そこからかなり人気はあるものの、実は2017年まではRio Rizky(リオ・リズキー)という名前で活動していたみたいなんですよ。しかも《Warner Music》から出ていて。結構なキャリアだったんじゃないかなと思うんですけどね。それこそインドネシアのメジャーなアコースティックな感じで、例えば現地でとても有名なギターポップユニット・RANのメンバー、Rayi Putra(ライ・プトゥラ)とのコラボ曲とかめっちゃオーガニックなんですよね。素朴な感じ、コード進行も。なので今の曲とのギャップ半端ないです。現地の記事を読んでみると、自分のやりたいことやったり、新しいことをやってファッションも音楽スタイルも大きく変えていきたいって語ってますね。
ーーでは続いての曲まいりましょうか。続いてはどういった曲をお持ちいただいたのでしょうか?
「Kisah Insani(キサ・インサニ)」という曲です。英語で言うと「Human Story」みたいな。Mondo Gascaro(モンド・ガスカロ)とAndien(アンディン)、この2人のアーティストがコラボした曲になります。
ーーなるほど。早速聴いていただきましょうか。
あったかくてほっこりする曲です。
ーーそれは楽しみです!
ほっこりしましょう。
ーーはい、ほっこりしましょう(笑)では曲紹介をお願いいたします。
はい。Mondo Gascaro, Andienで 「Kisah Insani」です。
M3.Mondo Gascaro, Andien 「Kisah Insani」
元々は、1984年にリリースされたChrisye(クリシエ)という当時のポップスを代表するシンガーの曲なんですよね。シンセキラキラ系の典型的な80年代ポップスです。この原曲もすごく素敵なんですけど、Mondoってアレンジャーとして知られていて、映画音楽の作曲とかも手がけたりするかなり面白い、非常にキャリアのあるすごい人なんですけど、この人の手にかかると80年代なのか時代の分からないレトロ感が出るなぁって。ちなみに、Mondoのお母さんは日本人でジャカルタの実家ではカラオケバーをかつて経営していました(笑)。彼は10-20代の頃にアメリカにも住んでいたりと日本だけの要素じゃないんですけど、ただ日本はすごく身近に感じてくれて毎年来日してくれたりしてますよ。Andienも数年前に来日し公演も行って。ちなみに僕は両方とも通訳だったり手伝うようにしていて。
この曲は「Lagu Baru dari Masa Lalu Volume 1」というアルバムに収録されています。日本語だと「過去からの新しい歌」っていう感じかな。現地のとあるカルチャー系のテレビプログラムと、インドネシアポップスを保存・再拡大する「Irama Nusantara Foundation」という団体と共に行ったプロジェクトの曲です。ちなみにIrama Nusantaraにはこの後少し紹介する日本人の方も関わっています。過去のインドネシアの素晴らしい曲を現代でも保存していくだとか再評価再解釈していくような流れっていうのは結構ちょいちょい見るんですよね。僕もすごく、こういうリリースがあるごとに楽しいなって思いますね。インドネシア音楽の豊かさを再発見出来るので。
ーーですね。そういう昔のポップスって海外にいる人たちからすると辿り着きづらいというか。私もすごく共感します。
ありますよね。パラレルワールドを体験しているみたいな感じ。
ーーそうですね(笑)。最近の曲でさえたどり着くのもやっと、特にジャンルが広いとよくあるんですけど、「再保存」されることで私たちにも辿り着きやすいなと思いました。
♪ Jingle
ーーというわけで、音楽ライターのいずみがお送りしております「アジアのポップスを聴く時間!!!」。引き続き、ゲストのYuki Leeさんを迎えてお送りしていきたいと思います。4曲目からは、70-80年代のレトロなポップスをご紹介していただけるとのことで。まず4曲目はどういった楽曲ですか?
インドネシアの80年代の音楽シーンってAOR的な音を作った人たちって結構いるんですけど、シーンの中で重要な一人であるCandra Darusman(チャンドラ・ダルスマン)という方の名曲です。Candra Darusmanで「Kekagumanku(クカグマンク)」。日本語で「私の感銘・感動」といった意味です。軽快なビートと管楽器のあたたかいアレンジの調和がすごく素敵なので、ぜひ楽しんで聴いてください!
M4. Candra Darusman 「Kekagumanku」
ーーアジア全体で日本のシティポップが流行しているじゃないですか。そのシーンではIkkubaru(イクバル)が先行して出てくるイメージがありますが、この曲に関しては、日本のシティポップのフィルターが入っていない、もう元となるアメリカのAORがそのままって感じ。
シティポップって山下達郎のアルバム「Ride on Time」(1980)以降の音楽が語られることが多いなと思うんですけど、インドネシアの方々は彼らのやり方でシティポップ以外の海外の文化を受容していました。政治的な理由で大変さはあったらしいんですけれどね。
Darusmanは非常に尊敬されているアーティストで伝説的なバンドである「Chaseiro(チャセイロ)」とか、「Karimata(カリマタ)」ってバンドのメンバーです。インドネシア大学に在籍していた時にChaseiroを結成して高い人気を誇っていました。ジャズチックでカッコいいAOR、ジャズと言っても当時流行っていたブラジル的なものだったり。ホーンアレンジもクラリネットや金管楽器とか結構多彩な音楽を様々な楽器でやっていて非常に面白くて。さっきリバイバルの話をしましたが、Darusmanのトリビュートアルバムも2018年にリリースされていて、MondoやAndienも参加しています。
「Kekagumanku」に関しては、Afgan(アフガン)っていう超人気のスター歌手が、また全然違うカッコいいアレンジでカバーしていて、そのトリビュートアルバム『Detik Waktu(デティク・ワクトゥ)』、めちゃめちゃ良いので聴いてほしいですね。
ーーこの曲にYukiさんが出会った経緯が気になったのですが……!
一つはさっき話したトリビュートアルバムですね。Mondoの曲を掘っている時にトリビュートアルバムで知って、もう一つはインドネシアでライブハウスを経営されていた日本人の方にDarusmanを教えてもらって。今でも“Java Jazz”という大規模なジャズフェスのメインステージで演奏したりと、根強い人気を誇っています。
ーー本日最後の曲になりますね。
思いっきり違う曲をかけるのでお子さんがいる方とかは聴かせないほうが良いかもしれません……プログレ系で、Harry Roesli(ハリー・ルスリ)というミュージシャンなんですけどすごく芸風が広くて。AORシティポップ的な曲も作るんですが、この曲は所謂プログレッシブロックです。伝統とプログレッシブロックの融合というもので言葉を失うカッコ良さです。Harry Roesliで、1976年リリースの「Sekar Jepun(スカール・ジュプン)」、日本語で「プルメリアの花」です。
M5. Harry Roesli「Sekar Jepun」
ーーこれは、今までの曲の流れから行ってすごくビックリしちゃいました(笑)。プログレですねまさに、そこに聞こえてくるガムランの音に流石インドネシアと思いつつ。民俗音楽なのか、現代ポップスなのか頭がこんがらがりますね。
ただ一つ確かなことを言えるとするなら文化的な豊かさがあるんだなと。文化的な蓄積が豊かなことは感じられますよね。すごく象徴的なロックミュージシャンの一人だと思います。彼の出身地がバンドゥンというジャカルタから内陸に200kmほど行った街で、2000年代以降のインディームーブメントの主要な拠点となった、インドネシアの現代のポップミュージックシーンの重要な所なんですけど。
こんな過激で奇抜な曲をやりながら、社会活動家とか教育者としての側面もあって。例えば、音楽教室を開いていたのですが、音楽教室という名前ではあるものの、貧しい人への食事や教育の提供をしたりなど、そういう社会活動家的な側面もあるんです。信念のある素敵な人です。
ちなみに、この曲の入っているアルバム『Titik Api(ティティク・アピ)』、訳すと「発火点」って意味なのですが、実は日本で限定盤として発売されています。ジャケットのデザインは、先述の「Irama Nusantara Foundation」の支援をしている日本人の泉本俊介さんで。また楽曲解説は、バンドゥン在住のインドネシア文化、音楽研究家・金 悠進(キム・ユジン)さんが翻訳され、さらに関連本も書かれていてめちゃめちゃ面白いのでぜひ読んでいただきたいです。
ーー本日は「アジアのポップスを聴き倒す会」主宰、City Jazz PopバンドFontana Folleのベース兼リーダーを務めていらっしゃいます、Yuki Leeさんに様々なインドネシアのポップスを紹介いただきました。個性的な4曲を紹介いただいて、数アーティストぐらいしか私聴いたことが無かったので、インドネシアも音楽シーンが深いなと感じました!
若い人が多いので文化を作る力があると思うんです、人口の半分以下が30歳以下で、日本の人口と同じくらい若者がいる若者がいるってそりゃ生まれるわ! って思いますよね。
ーーYukiさんは今日振り返っていかがでしたか?
久々にラジオで喋らせてもらうというのも嬉しいなと思いますし、自分のバンドも聞いていただけたらもちろん嬉しいです。インドネシアの音楽文化は非常に豊かで、文化発信国としての存在感を非常に強めているなと思います。今日紹介したものは一部で、爽やかなギターポップとか、アイドルチックなのもあったりあとメタルもすごい人気だったりとか、伝統音楽も頑張っていたりノイズ系など深くレベルの高いものたくさんあるので、ぜひチェックしていただけたらと思います。私も時々記事書いているので、私のnoteやSNSもご覧いただけたら嬉しいです。
ーーYukiさんのバックグラウンドや活動が面白いですよね。二足のわらじで活動していることや、そこからコミュニティーが広がったことなど。アーティストの方だったりアジアのポップスを聴き倒す会の仲間の皆さんだったり、Yukiさんのまわりには個性的な面白い人がいつも多いなと感じています。
輪を広めていきたいですね。みんなで好きなものを気張らずに広げていく場がクラブとかライブ以外にあると嬉しいなって思ってやり始めたので、ゆるやかにそういう流れを作っていきたいのでお聴きの皆さんも良かったらご参加いただいたり、一緒に楽しんでいけるように出来たら嬉しいなと思ってます。
ーーこのラジオのルーツと言えるコミュニティ・イベント「アジアのポップスを聴き倒す会」、引き続きチェックしていただきつつ、バンド・Fontana Folleの活動にも注目していただけたらと思います。最新曲「Excuse Me」もぜひチェックしてください! 本日は、Yuki Leeさんをお迎えしインドネシアポップスをお送りしました。ありがとうございました!
ありがとうございました。おやすみなさい!