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くらげの世界①

 いつだって、海の中は退屈でふわふわと泳いでいた。そんな、くらげの楽しみは……そっと海の上まで浮かんでいって人間の世界を見ること。でもそれは、いけないこと……。パパにママ……お姉さま達にも禁止されてること。
 「くらげ!海の上は危ないから行ってはだめよ?」
 「わかってるよ。ママ……いかないよ。」
 「そうだぞ!くらげ……もし人間に捕まったら、最悪の場合は食べられてしまうよ?」
 「もう!パパまで言わなくても」
 いつも、くらげを大切に思ってくれている家族だけど本当の家族ではない。でもそんなことは関係なくみんな仲良しだ。昔まだくらげが、小さかったころ仲間と離れてしまい迷子になっていたのをママさんが連れてきてくれた。とても大きな海のお城……最初は怖くて怖くてママさんに隠れていたけど。パパさんが大きな水晶で仲間たちを探してくれた……もう遠くの海に行ってしまって広い海では会えないって。どうしよう……って涙を流していたらパパさんの大きな手に乗せられた。
 「おチビちゃん?私が誰か知ってるかい?おチビちゃんは知らないか……私は、この海をつかさどるトリトンじゃ。つまりは、おチビちゃんも私の子どものようなものさ……でもその姿じゃ……潰してしまいそうだ。おチビちゃんをお姉さんたちと同じように人魚の姿に変えるがいいかな?よしよし……目をつむるといい」 
 大きな鉾が光ると身体を光が包み込み気がつくと人魚の姿に変わっていた。
 「あの!……!!!!」
 「よし、声も出るな?今日からここで家族として暮らしていくといい。おチビちゃん……じゃなく……くらげと呼ぼう」
 「まぁ……あなた……そのままじゃない……私からは、この呼び名を捧げます。雪のように白く。月のように美しく。スノー・ムーンと」
 「まって!お母さま。それでは呼びづらいわ。アジアの文字を使って……冬月 くらげ でどうかしら?」
 「まぁ……いいじゃない。貴方もそう思うでしょ?」
 「よかったな!くらげは、もう家族だ。遠慮することないぞ?」
 こうして、家族になった。ここは、音楽が絶えず、いつも楽しい雰囲気で溢れていた。今まで見たこともない魚たちが歌ったり楽器を奏でたりしていた。でもまだ、この身体に慣れていなかった。今までは波の流れを読んで、ふわふわと漂っていればよかった。でもこの身体は、行きたいところに進むことができる。そして以前の身体にはなっかた声帯があるおかげで声で感情を伝えることができる。まだまだ慣れていなくてマナティ先生のレッスンを毎日受ける日々。お話はゆっくりだけど出来るようになっていた。マナティ先生は優しく声の出し方、言葉を丁寧に教えてくれた話せるようになってきたら文字の読み方を教えてくれた。とても不思議だった……不思議な形の文字たちを並べると単語になり、単語を並べると物語が生まれる。楽しくて楽しくて本に没頭した。人間という種族の世界の物語や海の歴史。そして怖い魔法使いが海のはずれにいること……昔、魔女であるテティは子のお城に住んでいたらしい。元々テティが使っていた部屋を今は、くらげが使っている。普段は気にもならない壁の変色につい釘付けになって、そっと触れてみると地下への扉が開いた。

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