ハロウィンの奇跡①
ここは、ハロウィーンの世界。魔法と冒険が交錯するカラフルで楽しい場所。カボチャのランタンが街を照らし、家々はおばけや魔女、ゴーストの飾りで彩られ、夜空には満月が輝いているのです。この世界は恐怖だけでなく、楽しさや驚きが詰まった特別世界なのです。そして、今年は100年に一度、人間さんの世界のハロウィンを体験できる日。それも選ばれるのはたった一人。
「けももちゃん!今年は人間さんに会いに行けるんだって!ねむ!行きたいなぁ!」
「ねむには無理だよ。だってさ。人間の世界に行ったら帰ってこれなそうじゃん?」
「えー!そんなことないよ!大丈夫だもん!」
「それに人間は自分と違うものをいじめるんだ!ねむなんか、いじめられてしまうよ?」
「そんなことないもん!けももちゃんの意地悪!!!」
あらあら、ねむちゃんと、けももちゃんと言い争いをしてしまったみたいですね。この二人は、この世界に来てからずーっと一緒にいるのです。ずーっと昔に人間さんに捨てられた人形を小さなモンスターのけももちゃんが見つけたのです。捨てられた悲しさと、もっと遊んで欲しかったという思いを痛いほど感じたけももちゃんは、自分の命を半分……人形に分け与えたのです。半分の命をもらったねむは、けももちゃんとハロウィーンの世界にやって来たのです。1つの命をはんぶんこしたので、二人は誰よりも仲良しなのです。
「けももちゃん……ひどいよ……なんであんなこと言うんだろう?人間さん界に行けたら。またマリちゃんと遊べるかもしれないのになぁ。だって、マリちゃん……さよならするとき泣いてたもん。ごめんね……って」
ねむには、けももちゃんの気持ちがわかりません。昔、まだ人間さんの世界でお人形だった頃。たくさん遊んでくれたマリちゃん。またきっと会えたら遊んでもらえると夢見てるのです。けももちゃんは、二度とねむに悲しい思いをさせたくないと思ってました。出会ったときの締め付けられるような思いを二度とさせたくなかったのです。
「ねむは、わかってないんだよ!まったく!あんなに悲しい思いをしたじゃないか!人間に捨てられてボロボロだったじゃないか!なんでまだ、人間の世界に行きたがるんだよ!ここで毎日お菓子食べて歌っていたずらして……楽しいはずだろ?」
そんな、けももちゃんの気持ちを知らないねむは、この国を治めてるマスターヴィランズのもとに駆け出してしまいました。マスターはこの国の一番奥のひん曲がったお城に住んでいてカラスの様な人間さんの様な不思議な見た目をしていました。その姿は、とても滑稽で誰もが恐れるものでした。いたずらもやり過ぎるとお説教部屋に閉じ込められてしまいます。それは、もう恐ろしい部屋なので、この世界の住人はマスターを怖がっているのです。でも本当は、誰よりも住人のことを思っているのです。
「もう!マスターにお願いするしかないよね!」
そう決心したねむは、息を切らせながらお城に向かいました。お城に着くと大きな声で呼びかけました。
「マスター!マスター!おねがいがあるの!!」
すると大きな大きなお城の扉が開いたのでした。恐る恐る中に入るとカラフルなどくろのランタンが浮かび。カボチャのパイが大きなテーブルに置いてありました。いつものねむなら食べちゃうところをグッと我慢してマスターを探すと大きな大きな水鏡がありました。ねむは気になってのぞき込もうとしたところマスターに声を掛けられました。
「おやおや、外で叫んでいたのは君かな?たしか……けももが連れてきた哀れな人形のねむだね?」
「マスター!ねむのこと覚えてくれてたの?うれしい!!」
「それで何の用だい?おや……この水鏡が気になるのかい?それは、人間の世界を覗けるのさ。そして今年のハロウィンはこの水鏡と人間の世界が繋がるのだよ」
「あのね!ねむ……会いたい人がいるの!!だからね……お願い!ねむを人間さんの世界に行かせてください!」
「おやおや……あんなに悲しい思いをしたのに行きたいのかい?」
「マスターお願い!もう1度だけマリちゃんに会いたいの!!」
「本気なんだね?でも……ねむを1人で行かせる訳には行かない……」
「マスターなんで?ねむ……1人でも大丈夫だよ?」
「いいかい?ねむ……君の命は、けももと半分こしたものなんだ……だから、必ずけももハロウィン前夜の夜中……時計の針がちょうどてっぺんを指すとき……また来るといい。」
「わかった……でも……けももちゃん。来てくれるかな……」
「大丈夫だよ。きっと……あの子は君が大好きだから」
「そうだよね。……仲直りして絶対連れてくるね!!!」
マスターに別れを告げ必死にけももちゃんを探しました。いつも、かくれんぼをする大きなカボチャの中も大好きなお菓子屋さんも、そして二人だけの秘密の場所も探しました。けれど、けももちゃんは見つかりませんでした。
「けももちゃん……どこにいるの……もう……ねむとは遊んでくれないの?」
小さい声でつぶやくと大きな瞳に涙が溢れてきました。悲しくて寂しくて胸が締め付けられてしまいました。すると大きな木から、スルスルと降りてきました。
「ねむ……ここにいるよ?……あのね……ごめん」
振り返ると、少し気まずそうにしてるけももちゃんが視界に入り、駆け寄りました。そしてぎゅーっと抱きしめたのです。
「けももちゃん……探したんだから……」
「ねむ……どうしても行きたいの?マスターにあって来たんだろ?どうだった……」
「あのね……人間さんの世界に行ってもいいよって言われたんだけど……条件が合って……けももちゃんと行くことなんだ……でも嫌だよね……」
「あ~!!!!もう!仕方ないな~ねむは僕がいないと何もできないんだから……行くよ!行くから!ねむ……そんなにぎゅってしたら苦しいよ」
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