見出し画像

現代のサイバーパンクってなんなんだ

最近はサイバーパンクについて考えている。本で書いている原稿でも『ニューロマンサー』とか『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』について書いているところだし、今度IGNでもサイバーパンクについての記事を書くから

そして12月には待望のサイバーパンク2077も出る(かどうかはまだわからんが)。で、ニューロマンサーやったりヴァルハラやり直したりあんまり触ってなかった最近のサイバーパンクゲームをやりながら色々考えていた。たとえば、厳密な定義がなくジャンルと言うよりかは、70年代から90年代にかけてのムーブメント、「運動」というのがふさわしいからというのもあるのだろうけど、「現代の」サイバーパンクっていったいなんなんだろうと思う。

現代でも多くのサイバーパンク作品は作られ、書かれているが、その多くはブレードランナー/攻殻機動隊的な世界観をそっくりそのまま持ってきているだけか、あるいは出てくるテクノロジー・ヴィジョン的に『ニューロマンサー』や『スノウ・クラッシュ』あたりから大きく変化しているわけではない。というより、大きく変化させられないといったほうが正しいのだろう。

電脳空間への意識のジャック・イン。人体改造、脳みそだけになって生きている人間、ロボットの中に意識を投入した何者か、他人の意識や記憶への潜入。現代に描かれるサイバーパンクはこうしたほとんど『ニューロマンサー』の頃にすでに描かれていたことを依然として描き続けているが、「それ以外」を求められても困るだろう。それ以外って、なんだ?? それ以外のサイバーパンクっぽさってなんなんだ?? 一言で言えばVRや人体改造、ARやSRといった部分で、80年代90年代に思い描いていたものよりももっと先進的な、解像度の高い描写をすればいいともいえるのだが──。

VRやARやSR、人体改造について、技術的な細部はともかくとして大まかにそれがどのように人間意識を変容させるのか、社会を変容させるのかといったヴィジョンは1980年代当時すでにかなり解像度が高かったように思う。ジャロン・ラニアーなどの、インターネット/テクノロジー界隈の人々が当時書いたものを読んでも、未だ一般化されていない技術/ヴィジョンのプロトタイプをすでに作っているわけだし。かといってその先を描くと「シンギュラリティ」が起こっちゃってもはや普通には想像もできないし読者もほとんどついてこないだろうということはすでにここで書いたと思う。

じゃあ「現代の」サイバーパンクは描けないのかと言えばそういうこともないはずだ。80年代から現代のヴィジョン自体はすでにあったとしても、そのすべてを見通せるわけではないのでVRやARについての「解像度」をあげていく方法もあるだろうし、たとえば『VA-11 Hall-A』(2016)はサイバーパンク世界の日常を描き出す過程で、SNSや掲示板によって左右されるマスコミやニュースメディアの在り方、自発的な意志に基づいて売春を行う、陽気な幼女型アンドロイド、主人公は同性愛者の女性で、作中には自然に同性愛者が出てくる──といった形で、日常のレベルで「現代感」を出していた。

中国の作家陳楸帆による『荒潮』は、陳楸帆がグーグルや百度のような先進的なIT企業に勤めていたこともあってか技術全般の描写の粒度が細かく、80〜90年代においては無視されていたにも等しい中国を舞台にして、環境問題を作品の中心に据えてみせることで「現代感」を出している。

最近「そういえばあれもいってみればポストサイバーパンクだよな」と思ったのはフランスの作家マルク・デュガンによる『透明性』で、この世界では現代の大きな戦いとして「不死化技術を誰が(どの企業が)握るのか」そして、未来は「トランスヒューマニストが握るのか、はたまた意識をサーバ上にアップロードした新人類&アルゴリズムか」という「テクノロジーvsテクノロジー」の戦いの軸を描き出している。サイバーパンク的に大きな戦いと言えば「テクノロジー主義者らとアンチテクノロジー主義者の戦い」が主流だとおもっていたが、今では何のテクノロジー、あるいはアルゴリズムを信仰するのか、というテクノロジー信仰同士の戦いの方がリアルに感じる。

『ネクサス』なんかは(少なくとも一巻では)完全に「テクノロジー推進主義者vsアンチテクノロジー主義者」の戦いものだ。『透明性』も現代のテクノロジー(たとえば、大きなカギを握るIT企業の一つはマッチングサイトで個人データを収集して成り上がった企業だ)の解像度が高く、さらにグーグルなどの企業名をそのまんま出していて現代感がある。要するに何が言いたいのかというと、現代のサイバーパンクを描こうとすると難しい気がするけど、それでもやりようはいろいろあるよね、っていうところだろうか。

『サイバーパンク2077』はあまり情報を仕入れないようにしているけど、どうもこっちも不死化インプラントをめぐる話が大きな軸になりそう。「誰が不死化技術を握るのか」というのはサイバーパンク世界においては超重要なんだよね。人は不死化を求めてその技術を持っている人間を神のように信仰するようになるだろうから。『サイバーパンク2077』がどのような形で「現代のサイバーパンク」らしさを出してくるのか。はたまた、『ブレードランナー』からあまり前進しないのか。楽しみに待ちたいところだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?