『Serial experiments lain』とサイバーパンクと神道

『Serial experiments lain』全13話がアマプラにあったのではじめて観た。これが当時放映していた時は1998年で23年前か。僕が約9歳だった頃。wiredと呼ばれる仮想現実空間のようなところにのめり込んでいく14歳の少女を主人公にした物語。強大な力に触れリアルとwiredの境目が消えてゆく、サイバーパンク・テーマのアニメーション作品としてはよく名前の上がる作品だ。

絵柄も古いし特によく動くわけではないけれども安倍吉俊原案のキャラは味があっていいねえ。パソコン関連の電子機器の山が積み重なっている部屋で女の子がラフな格好で機械をいじってるカットがホントにグッとくるんだわ。インターネット周りの描写もフォントも非常に古いが、配線やデザインなどきちんと描かれていて当時の未来感というかインターネット感が現れていておもしろい。未来のディティールって詰めるとかなり大きく方向が外れていたとしても魅力は十分に残る。それを実感させてくれる作品だ。

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ほとんどは夜のシーンで、展開もやりとりも非常に陰鬱。アングラ界隈の描写も多くて、ディック系列のサイバーパンクの雰囲気をよくまとっている。現実がだんだんwiredに侵食されていく場面はサイコホラーだし。しかし、おもしろいのは間違いないし演出も尖りまくっていて凄いんだけど設定の重要なところが何分もあるナレーションで一気に説明されたりと興ざめな部分もある。ゆったりとしたリズムの話で、テンポも良いとは言い難い。

この手のリアルワールドと仮想現実世界の融合みたいなテーマを扱い始めると必然的に魂の在り処や世界の創造主、神の話に繋がってきて、宗教色が強くなってくる。lainの監督・中村隆太郎もサイバーパンクで大きな影響力を誇った士郎正宗原案で、後に『神霊狩/GHOST HOUND』のような作品にいったわけだし。押井守も映画の『攻殻機動隊』の各種演出は明確に神道を意識して行っていて、それは原作から読み取ったものだ、と言っている。

実際、漫画の草薙素子の名前は草薙剣からとっていてもおかしくはないし、フチコマ(タチコマの原型)はスサノオとの絡みで出てくるものだから、相当意識しているのは間違いないだろう。

おもしろいのはサイバーパンク・アニメとしては筆頭に挙げられる『電脳コイル』もまた神道的な感覚を持ち込んで作品を作っていることで、結局日本人にとっての宗教観ってなんなんだ? 何を(日本人にとって親しみやすいものとして)作品に持ち込むのがいいのか? と考えると、そこはやっぱり仏教じゃなくて、神道になってくるんだろうな。たとえば、『電脳コイル』についてのインタビューで磯光雄は次のように語っている。

—監督が意味する”異界”とはどのようなものを指すのでしょうか。
日本人にとっての宗教観とは何だろうというのは、長年、私にとって疑問だったんです。宗教の定義にもよると思いますけど、皮膚感覚的に多分仏教じゃないだろと。神道はかなり近いと思うんですけど、多分それ以前から日本に住んでる人々が元々持っている宗教観と言えるもの、それが”異界観”じゃないかと。それを「電脳コイル」で多少やりました。日本人の持っている異界観は、根の国とか、幽世(かくりよ)とか、常世(とこよ)の国とか。
常世は海の向こう側なんだけど、地続きの所に死者の国というか異界があると。それは死者が往く国ではあるけれども、どうも純粋に死後の世界でもないんですよ。日本以外でもそういうものはないわけではないけど、日本人の心の奥底に根ざす部分、古くから日本人が持っている宗教観は異界観だなという事を薄々感じていたので、そういったものが最先端の仮想空間の中に発生した、みたいな状況は、自分的にはすごく描きたかった部分ですね。
西洋的なカッコイイ最先端とかはあまりやりたくないんですよ。そういう方が絶対売れるんでしょうけど。

lain(アニメのこと)は人間がwiredに行くのではなく、リアルワールドとwiredの世界が混じり合っていくと描き出していくのが当時にしてすでに斬新で、これは現在のところの未来観とかなり近いように思う。現在起こっていることは我々の世界の管理がどんどん人間の手を離れ、実質的に制御不可能なものへと置き換わっていくことだからだ。世界がより人工知能によって管理されるようになり、人間の寿命が伸び、時にその身体を人工細胞や機械と置き換えることによって、リアルは仮想へと徐々に置き換わっていく。

世界を管理しているものがどのような理屈で動いているのかがわからなくなってくれば、かつて人間が自然のことをまったく理解できていなかったように、世界は再度理解できないものになるだろう。雨が降ってくれと願う時に新しい時代の神様に「雨を降らしてください」と祈るしかなくなってしまう。サイバーパンクがどうとか以前に、神概念の再定義というのは、非常に現代的なテーマのようにも思える。

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