疾風!アイアンリーガーに命を救われた話

皆さんは「疾風!アイアンリーガー」というロボットアニメをご存じだろうか。
1993-4年まで放映された4クールのアニメで、私はそれから20年以上の時を経てどっぷりと沼に浸かった。同人誌も出した。今でも私の中でナンバーワンアニメに輝く名作です。
DVDBOXを買い漁った話とか同人誌を血眼にして探した話とかは置いといて、私はこのアニメを切っ掛けにして人格崩壊の域から脱している。
別にこのアニメがイイ!という訳じゃない。人の「好き」が人の精神を救ったりすることも覚えていてほしい。(関係ないけど中野ブロードウェイで疾風!アイアンリーガーの原画展を開催中なのでお近くの方は行っていただきたい)

幻覚の類いに七転八倒していたのが大体去年のいまぐらいの時期だ。
私は暴れ、怯え、便器に話しかけ、時計が止まる感覚を覚え、口腔の感覚過敏であらゆる嚥下を拒み、その度看護師さんに臀部に注射されたりしていた。
今思えば不思議の国のアリス症候群(物の大小の感覚が失われる)も併発していたので目覚める度に違う場所にワープするような感覚すらあった。今日は京都で昨日はアウシュビッツだった。みたいな。何とか空間から逃れようと膝から流血しながらドアノブのない鉄扉を蹴りつづけた。布団の血痕は退院まで残り続けた。

ある日車イスにくくりつけられた状態でナースステーションに連れてこられた。女医さん(たぶん)が訊いた。
「ロボアニメとか好きなんだっけ?」
世界がカチッと音を立てて一致した瞬間だった。
「そうです…」
自我って案外そういうものなのかもしれない。
その時既に両親が私のアパートを引き払ったあとだったので荷物の中にトランスフォーマーとかパトレイバーの資料集とか見つけて医師に伝わっていたのかもしれない。
ぶっちゃけあまり記憶がないのだけれど、少し離れたとこの小窓に人がひっきりなしにきていて何か不満を述べて離れていく。(後でここが詰め所の内側で来ていた人たちは患者さんだと気づく)
なんだこれは。
看護師さんが言う。
「知ってる知ってる!色んなスポーツのロボットが出てくるやつだよね?」
置かれてるモニター?にアイアンリーガーの映像が流れている。流れているはずがない。OPが流れている。流れているはずがない。
「そうなんですよー!」
私の口は止めどなく喋った。ついでに友達に打ち明けられた相談が私一人で背負うには重すぎること、ここは天国で先生が書き込んでいるファイルは生前の悪行がかかれているのではと疑ってかかったこと。多分泣いたりもした。

だがロボットアニメとそれに付随するアイアンリーガーの話題は現世に呼び戻すには丁度よかったと思う。
それから1週間くらいして、私は正気を取り戻し、隔離病室に食事を運んでくれる看護師さんに空腹のあまり「おかわりないんですか?」と訊いてドン引きされる。
トイレ中に部屋に入られることを恥じた瞬間の看護師さんの「こいつ正気に戻ってきたな」という表情は忘れられない。恥じらいと金勘定ができるのが脱精神異常の証拠と書いたのは誰でしたっけ。

とにかく私は正気を取り戻した。
適切な投薬とか加療があったことはもちろん無視できないのですが「好きなもの」が確実に私を救った。
私というか細い糸を手繰り寄せることができた。
錯乱に次ぐ錯乱の中、恥じることなく「娘の好きなものはロボアニメ」と言えた両親にも感謝です。いや別に恥じることじゃないな。

疾風!アイアンリーガーはいいぞ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。よろしければサポートのほどよろしくお願いいたします