見出し画像

不登校だったH君が「学校、楽しい」となるまでに学校はどんな支援をしたのか

今回は経験者トークの第4弾。(本編ラジオは一番下に張り付けています)

スクートを始める前から個人的に勉強をみていて、ぜひともゲストに出てもらいたかったHくんに話を聞きました。

ある日H君が「学校が楽しい」と言い始めた

Hくんは小学校高学年から学校に行きづらくなり、中学に入ってからも基本別室登校だったのですが、中3年になったある日のことです。いつものようにゲーム、もとい勉強の合間に、どういい話をしていると「最近、学校が楽しいんすよ」と言い出したんです。

もちろん僕は「え?」と驚いたんですが、その時はあまり深く聞きませんでした。ただ、いつかHくんにその要因を聞いてみたいなと思っていたのです。

Hくん中学生活まとめ
H君が学校に行きづらくなったきっかけは、小学5年生の時に体調を崩したこと。

中学1年:はじめは教室に入れず保健室登校をしていたが、すぐに別室を用意してもらった。基本的に別室登校。遅刻はあったが、休むことはあまりなかった。

中2:別室には時々先生が来てくれていたが、先生が常駐してくれているわけではないので、勉強はなかなか進まず。その点を保護者が相談したところ、中2にあがるタイミングで特別支援学級に入れてもらい、常に先生に勉強を見てもらえる体制をとってもらった。これは校長先生の配慮が大きかった。もともと校長先生が不登校にとても理解があった。

また自分のクラスで授業を受けることがあったが、クラスの仲の良い友達が給食を食べに来てくれたりして、クラスに入りやすい状況を少しずつ作ってくれていた。それほど仲が良かったわけではないクラスメイトもやってくれたりしていて、クラスに戻った時には、知らない誰かがいる、という状況はなかった。

中3:クラス分けで自分が苦手だった生徒が一人もいないクラスになったことがよかった。またクラスメイトも、自分が休んだりしても、何も変わらず普段通り接してくれていたのがありがたかった。中2の時の(担任の)先生は、とても登校刺激をしてくる先生だったが、3年時の先生はそうした感じはなく優しくて、遅刻してもそのまま受けれいてくれる。それが、とてもよかった。

以上が、H君が語ってくれたことをおおまかにまとめたものです。

収録後に「不登校の悩みを周りに言えたのがよかった」「小5・6、中1・2のスクールカウンセラーの先生がとてもよかった」とも話をしていました。

クラス復帰の条件:考察

さて、こうして見ると、H君の事例から、学校に行きづらかったり別室登校をしている子が、再び登校したり、クラスへ戻れるようになる条件がいくつか見えてきます。

校長の役割:裁量権の使い方

Hくんは中2にあがる段階で、特別支援学級への所属を進められます。これは、別室登校をしている子の学習権を学校に今あるものを使ってどう保障してあげられるか。ここを、校長先生が形式や制度にとらわれずに考えて動いてくれたことを表しています。

その子に必要なものが何であり、それを提供するために利用できる校内資源にはどんなものがあるか。何よりもそこを第一に考え、見極め、柔軟に対応すること。こうした対応は裁量権のある校長先生にしかできません。そして、そもそも裁量権とはそういう風に使うためにあるのだと思います。なぜなら「形式や制度、規則があるからできない」という判断は「裁量」などなくても、誰にだってできるからです。形式や制度、規則があっても、十分に対応できないことがでてくるからこそ、わざわざ「裁量権」というものを与えているわけです。

こうした対応を校長先生がしてくれるかどうかは、単に子どもの学習権を実質的に保障する、ということだけに関わっているわけではありません。たとえその対応によって、子どもが直接回復に向かうことはなくても「寄り添って何とかしてくれようとしている」という信頼を子どもも保護者も学校に対して持つことができます。学校とのつながりをなくしてしまうと、途端に、家庭が利用できる社会資源がなくなってしまうのが現在の日本社会の脆弱なところです。それ自体を変えていかなくてはいけないことはもちろんですが、当面の間は、家庭と学校とのつながりが切断されることを防ぐことが家庭を孤立させないための最善の手段だと思います。


復帰環境としての「友達・クラスメイト」の役割

友達やクラスメイトの役割としては、「伴走者としての友達」「安心できる生活環境としての友達」という二つの役割があると思いました。

「伴走者としての友達」:仲の良い友達
学校やクラスに同伴してくれる仲の良い友達がいてくれたことをHくんは話していましたね。大人でも初めての場所や不安な場所に一人で行くのに少々ビビることはあります。学校やクラスが不安を感じる場所となってしまっている子たちにとっては、そこに向かうこと自体がとても緊張を伴う作業です。その道程を一緒に歩いてくれる誰かが必要です。そしてここの役は「仲の良い友達」にしかできません。

「安心できる生活環境としての友達」:クラスメイトや同級生
しかし、そこまで仲が良いわけではない友達やクラスメイトができることもあります。それは、不登校や別室登校をしている子にとって自分たちが「安心できる生活環境」になってあげることです。不登校になっていたり別室登校している子たちは、他のクラスメイトから自分がどのように見られているかをものすごく気にしています。自分でも心のどこかで自分を責めている状態にありながら、まさにその部分を(思春期に)一番認めてもらいたいはずのクラスメイトや仲間、同級生から責められてしまう。これことほどつらいことはないでしょう。Hくんのクラスメイトが先生からそうした言動を抑えるように言われていたかどうかはわかりませんが、別室登校している子がクラスに復帰するには、自分が過ごす空間に今の自分を否定してくる誰かがいないことがとても重要です。クラスが安心して過ごせる場所と思えないなら、当然そんなところには戻れないですし、仮に勇気を出して一度は戻れたとしても、不安と緊張が高まり、すぐに入れなくなるに違いありません。そしてそうなった場合、うまくいかなかったという負の感情を伴った体験が上積みされている分、次の復帰はさらに難しくなります。

重要なのは「場所」ではなく「安心できる関係」

同時に、最後の方でHくん自身が「ゆっくり時間をかけて」と話していたように、クラスへ戻っていくにも段取りがあります。

最初はその子が過ごしている場所(別室・保健室など)へ、クラスメイトの方から、それこそアウトリーチのように出かけていき(Hくんの場合は特別支援学級)、そこでまず安心な関係を作り上げて、徐々に、クラスへと、その関係まるごと持っていくような形で移動していく。そんな段取りが必要なのだと思いました。(ここの段取りを無視して、そもそも環境として入りたくない要素満載のクラスに「ちょっと行ってみようか」と誘う先生が多いんですが、それがその子に結果的にどんな影響を与えるのか、ちと考えなおす必要があるんじゃないかな。)


*もちろんこれはHくんの事例であり、すべての子が同じように復帰できるとは限りませんし、復帰が必ずしも、その子にとってよいものであるとは限らないことは付け加えておきます。

(終わり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?