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苦い思い出 第六話 恐怖

妖怪の携帯が鳴った。
普通は聴かないような不気味なメロディだった。
「はい、もしもし。あぁともちんか。どした?
は?お前自分の言ってることわかってんのか?
おい!代走。」
代走をおおせつかったシンメトリーが卓についた。
妖怪は自動ドアの向こう側に出て行った。
そして電話相手のともちんに対して怒声を浴びせていた。
ドアを挟んだこちら側にもその怒鳴る声は聞こえてきた。
大きな肉食獣の雄叫びのような重低音だった。
「…沈めるからな。」
自動ドアが開いて鈴の音と重なって聞こえたワードは、とても重く冷たくて固い金属のように俺の頭のなかに残って消えなかった。
ともちんは何に沈められるんだ?
そもそもともちんは男なのか?

帰ってくるなり、妖怪はシンメトリーを椅子から引きずり下ろすようにして座った。
「何に沈めるんすか?」
引きずられたシンメトリーは、卓についてるみんなが聞きたくても聞けない質問を、肩の埃を払うように簡単に聞いていく。
やっぱりコイツは宇宙人だ。
「決まってるだろ。風呂だよ。」
「ともちんて女なんですか?」
「ちげーよ。20代前半独身男。」
「じゃあ風呂に沈めるって?」
「ゲイ専用のな。親が年金暮らしで生きてるならけつの毛までむしってやろうと思ったんだけどな。亡くなってるんだと。」
「最初は明るく電話に出たのに、途中からなんでキレたんすか?」
「支払いをするためにかけてきたのかと思ったら、違ったからキレたんよ。コッチも仕事斡旋するの手間やからな。」
「他にどんな仕事斡旋してんすか?メンバーにもリクルートしてくださいよ。」
「あほか。メンバーなんて回収率悪すぎるわ。そもそもギャンブル下手やから借金してんねん。アウトオーバーして回収できんわ。」
妖怪はため息をしながらダマでマンガンを和了していく。
「怒鳴ったらびびる奴には大きな声で吠えてな。ほんだら、そいつにとって楽に稼げる仕事斡旋してんねん。おい!にいちゃんもかなり素質あるんぞ。麻雀で借金作る前に働かんか?」
「興味ありません。」
「あほやな。ちょっとけつの穴広げるだけでめちゃ稼げんのにな。自分の価値がわかっとらんわ。にいちゃんの名前覚えとくからなあ。」
もう関わりたくない。
恐怖で麻雀に集中できなかった。
こういうやつは名前から住所を特定して、親を強請って、俺をこの世から追放するかもしれない。
ラス前、俺は配牌をあけた。
1133556699東西西
手が震えた。
自分の子鹿のように怯えた気持ちとは正反対の配牌に驚いた。
俺は妖怪の異常な目袋を睨みつけて、精一杯の嫌悪感を表情に出した。
妖怪は瞼が開いているのか分からないくらい目を細めて、どこを見ているのか分からなかった。
そのあと、妖怪が目を細めた理由を知って俺は更なる恐怖のどん底に落とされるのであった。


続く

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