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苦い思い出 第五話 ブラフ

東1局が始まった。
親は妖怪。
ドラは⑥
妖怪は慣れた手つきでリー牌して少考して⑥を切った。
2巡目はふざけた裏切りで⑤を河に置いた。

染め手か?
余程のことがない限りドラ含みのターツは落とさない。
妖怪はグヒグヒ笑っている。
手なりで俺は一を切った。
その瞬間、妖怪がものすごい速さで俺の河から一萬をうばっていった。
晒さないうちに打牌。
発生もしなかった。
コイツはマナーが悪いを通り越している。
カミチャのデスノートはどこか遠い目をしている。
トイメンのシンヤは萬子の浮牌を処理しているようだった。
注意しない緑エプロンに怒りの視線を送ってもみんなが麻雀に集中していた。

16巡目
俺の手も微妙なイーシャンテンになった。
四五五赤六八八九1234567
その間も全て妖怪はすべてツモギリだった。
萬子は一枚も切りたくなかった。
俺が手配を触るたびに、妖怪はツモのモーションに入る。
俺は1を切った。
ニターっと笑った妖怪は俺の手牌をじっと見ている。
そしてツモった牌を手に入れて三を切った。

次の俺のツモは上山だった。
その牌がくるりと回った。
「にいちゃんも回って牌も回った。俺もにいちゃんを輪したいなぁ。」
ニターっと笑った。
なんなんだこいつは?
シンヤは字牌を落としてやる気がありそう。
カミチャのデスノートは死んだ目をして2をアンコ落とししている。
俺は萬子引いて聴牌だ。
ツモ山に手を伸ばした。
引いてきたのは8だった。
おれは2を合わせた。
妖怪は9をツモぎる。
シンヤは1を手出しして流局。


妖怪はニタニタ笑いながら牌を伏せて、俺の牌を覗き込んだ。
「にいちゃん、九くらい勝負せなどうするねん。俺の手バラバラやで。マンガンあがってるやないかー。俺の上でヒィヒィ喘いどけや。最後までイカしたるから。」
シンヤの口数が少ないのも俺の恐怖心を煽った。
妖怪はヨレヨレのポロシャツの第二ボタンを外した。
そして汚い胸毛を摘んで、臭い息と一緒にこちらに飛ばしてきた。
どうしたらここまで気色悪くなれるのだろうか。


続く



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