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三十首連作「百奇夜光」


   百奇夜光

電話越しにあくびが移る午前四時どんどん白む空を見上げる

アップルパイは蝉の抜け殻みたいだとゲロリ呑み込む君は愉快だ

河童でも探しに行こうとセイコマで買った胡瓜をお前が食うな

窓に書かれた相合傘の名前ごと露舐めとって水分補給

トーク欄はまるでケーキ屋のケース前誰にしようか選び放題

「相合傘、しちゃう?」「しない。」ナンパした唐傘小僧と一緒に帰る

ワックスを髪に揉みこむ風呂上がり 浮かぶ昔の夢を消すため

受動喫煙しに休日は街へ行く肺真っ黒に彩るために

生意気な口裂け女を追い駆ける俺の心は綺麗か見ろや

汗くさいけどまあいいや息させないくらいに抱き寄せた別れ際

運動会団結友情偽物で見世物になれば大人は喜ぶ

内科医の顔に怯えて泣くガキは注射針刺され涙ひっこむ

母ちゃんの子宮からダイブして以来カチカチと鳴る時限爆弾

ガラス質の午後の光に目を擦るまだ夢の中また夢の中

チビ共が足音弾ませ親急かす祭囃子は遠くで聞こえる

シンデレラ?高下駄片っぽ落とし物上より天狗がこちら睨んで

店逃げ出して自慢の鱗を引き千切り歓楽街で人魚は唄う

色盛りの金魚らひれを振りまくる早く桶から出してくれよと

似てるけどよせよおっちゃんたこ焼きをぬらりひょん焼きって商うの

「親の因果が子に報い…」ると弁の立つ嗄れ口上妖しく光る

啖呵切るその舌は客を離さない「お代は見てのお帰りだよぅ」

名人の技もまるごと飲んぢまえ目じゃ盗めない人間ポンプ

ろくろ首に客みな首を長くして奇術のタネを見破ろうとす

煌々と蝋燭束が照らしだす火気厳禁の赤い標識

蝋油含み火吹き芸人息吐けば見世物小屋の夜は明るい

夢に見た人間火炎放射器ショウ一瞬の炎一生焼きつく

生き物のような炎に触れてみたい近くで見たい燃えても構わん

生き血啜りメドゥーサの如き流し目の蛇女その雪白の肌

見世で喰いちぎられた蛇と同等かフランクフルトの豚の命は

覚むるまじき此の夢世界見世物小屋今から来ても後の祭りよ

「第63回短歌研究新人賞」へ応募した作品𓅿
國學院大學北海道短期大学部「句歌会」に所属していた際にみんなで作った『ツキハレ。』にも載っています。

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