禿頭記①

音楽酒場モトロク店主である私は、もうだいぶ前から頭髪に難を抱えております。もう15年以上前になりますが、雨に濡れた髪を拭き終わった後、『やだ‼︎ ヤバいでしょ、スケスケ』と、指差して知人に指摘されました。それが全ての始まりでした。それからもうじき20年。もはや我が頭の透明感たるや、スケスケどころではありません。磨き上げたアクリル板のごとしです。

世の中には、禿げたくて禿げる人はいません。毛量が多すぎて困っている人はいると思いますが、そんな方も少なくしたいと思っているだけで、まさか禿げたいとおもっているわけではありません。遺伝、環境など様々な要因の結果、はらはらと頭髪が抜けていくのです。まさに青天の霹靂です。かつて中高生のころ、髪の薄かったフィル コリンズやスティングに向かって、『ずいぶん頭、ヤバくなってきたねぇ』と嘲笑しておりましたが、まさか自らの身に降って湧くとは‼︎ この場を借りて、当時嘲笑した方々にお詫び申し上げます。

我々ハゲ界は、LGBTQやルッキズムなど、近年の差別撤廃運動からは一番遠い場所にいる気がします。男性のハゲって、わりと軽く見られがちです。けっこう、普通にいじっていい対象になってます。それでも最近のダイバーシティ、多様化の流れにのって男性性脱毛症などとご丁寧に呼び名までつけていただいてるようですが、なんかそれは取ってつけたみたいで普及しないと思います。そもそも、『症』ってつけなくてもいいじゃないですか。病気じゃないんだから。ハゲはハゲです。変な気を遣われるより、毛がないだけで笑いが取れるんなら僕はそれで結構です。

この20年。僕はその境地に至るまで心の中でずいぶん葛藤してきました。突然降り出す雨を憎んでまいりました。その過程をこれから気が向いた時に少しずつ連載していこうと思います。よろしくお願いします。

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